幽霊-3-
部屋の扉を開ければ、不安げに瞳を揺らしたヤマネと目が合った。
ヤマネは扉を開けたのがヒロだと知ると、ぷいとそっぽを向く。
「静かだったから、まほーつかいは抵抗する間もなく食べられちゃったのかと思ってたわ」
ヒロに続いて出て来たカオルは、ヤマネとその近くをぐるりと確認して、異常がないことを知るとそっと安堵した。
「カオルおねえちゃん!」
ヤマネはタッとカオルに駆け寄り、カオルの服の袖を小さく引いた。
「聞いてた依頼の異常にしては、一瞬感じた気配が強かったよ。どこもケガしてない?」
「大丈夫だよ。子供の死霊が原因だった。見張り、ありがとう。家まで送るよ」
カオルの申し出にヤマネは首を振った。
「ヒシイと約束があるんだ。おねえちゃんはこのままレディのところへ行って」
「でも……」
「まだ明るいからさ。私には悪魔もいるし、問題ないよ」
そう言ったヤマネと別れて、カオルとヒロはバスに乗った。
「信じてないでしょ」
カオルは窓の外を見たまま、ヒロと視線を合わせずに言った。
「なにをですか」
「まだ、心のどこかで疑ってるの。『そんなのいるわけない』って、わたしたちが魔と呼ぶ彼らのことを」
「そうかもしれません。そもそも、シショーが魔法使いっていうのも意味がわかりませんでしたし。ただそう、自称しているだけかなって思ってました。けれどカオルさんやレディは魔法使いを当たり前のように扱って、ぼくのことも魔というものに近づける」
「尻尾の生えた彼らは視たのに?」
ヒロは人の子どもの姿をした、三人の狼の子を思い出す。
「あれは……」
それだけではない。
レディの依頼というものに関わるようになって、ヒロは何度も理屈では説明できないような不思議なことをたくさん経験した。
「ぼくには、わかりません。魔がいるとかいないとか、そんなのどうだっていいんです。シショーともう一度会って、あのお綺麗な顔をひっぱたいてやれたらそれでいいんです」
カオルは目を丸くした。
「魔法使いのこと、そんなに怒ってるの?」
「シショーってば、勝手なんです。ずっとずーっと、勝手なんです。だから一回くらいひっぱたいてやらないと、気がすみません」
カオルは小さく笑った。
「それじゃあ、依頼をどんどんこなして。レディに願いを叶えてもらわないとね。ヒロがそう思っていなくても、あなたは魔法使いの後継よ。だから魔を知らないといけないの。そうしないと、魔に殺されてしまうもの」
―死ぬ、と。
先日ナルも口にしていた言葉だ。ヒロはひゅっと息を呑む。
彼らは死を遠いことだと考えていない。
まるで、明日雨が降るかのように、それを身近に捉えているような口ぶりだと思った。
「強くないと、死にますか?」
カオルは面白いことを聞いたというように笑った。
「もしそうなら、わたしはとっくに死んでるだろうね」




