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私たちは繭の中  作者: hayase
視えない魔
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29/45

幽霊-1-


―翌日、土曜日

 昼過ぎ、指定された駅で待っていると、唐突に服の裾を引かれて驚きながらそちらを見た。


「まほーつかい」


そこにいたのは、先日カオルに紹介された悪魔憑きの弟子という年下の女の子だ。


「え、と……。悪魔憑きの、」

「ヤマネ。まほーつかいが改札を出るより前からいたのに私に気づかないなんて、どれだけ鈍いの」


ヤマネは呆れ顔をして、そのまま自身についてくるようにと言う。


「カオルおねえちゃんが迎えに来れないから、わざわざ私が来てあげたのよ。感謝しなさいよね」


キッとヤマネはヒロを睨みつけて、バス停へと向かった。

ちょうどやってきたバスの行き先表示を確認して乗り込むと、後部座席にふたり並んで座った。


「今回は、集合住宅の空き部屋の調査。変な音が聞こえたり、物が浮いたりするんだって。典型的な心霊現象だよね。それで、借り手がついてもすぐに出ていっちゃうから商売にならないって、その集合住宅のオーナーからの依頼」

「ヤマネがいるのは、どうして?」

「そんなの、まほーつかいが頼りないからに決まってるでしょ。堂々と人間に存在を示す魔っていうのは、基本的には危ないの。人間に気づかれてもいいって思ってるってことだから、自分の強さに自信があるのよ。私、強いから。そういう力の強い魔が原因だと思われる依頼の時はおねえちゃんの力になってるの」


ヤマネは得意気にそう言った。


「そうなんだ。ヤマネはどうやって魔と戦うの?」

「私はなにもしない。私に憑いてる魔が戦う」


それからヤマネはヒロのことをじっと見た。


「まだ視えない?私に憑いてる悪魔のこと」


ヒロはきょろきょろとバスの車内を見渡す。

けれど、それらしき姿を見つけることはできない。


「それって、すごく小さかったり、人間と同じ姿をしてたりする?」


ヤマネは大きなため息を吐いた。


「まほーつかいって、ほんとーに鈍いのね」





バスを降りて、少し歩いて着いた場所はどこにでもあるようなごく普通の集合住宅。

ヤマネが立ち止まったのは4階の階段すぐの部屋だ。扉の前にはカオルが立っていた。

いつもと同じ、シンプルなパーカーとジーンズ。それからキャップ帽を深く被っている。


「カオルおねえちゃん!」


ヤマネは嬉しそうにカオルへと駆け寄った。それから口を尖らせて、不満という表情を全力で表現する。


「ねぇ、あのまほーつかい。私の悪魔まだ視えないんだって。あんなのと一緒に依頼なんて、心配だよ」


視えない、という言葉にカオルはキャップ帽のツバに隠された瞳を静かに見張った。


「そう」


胸元をぎゅっと握りしめて、ヒロを振り返る。


「ヒロ、おいで。依頼は部屋の異常を取り除くことだよ」

「はい」


ヒロは部屋へと入っていくカオルに続こうとして、動く様子のないヤマネに気づく。


「あの、ヤマネは……」

「魔を閉じ込める陣を描いたから、悪魔憑きのヤマネは一緒に入れない」


カオルに言われて扉を見れば、赤い色で円が描かれその円の中には読めない文字と記号のようなものが複雑に書き込まれている。


「私は外を見張るの。万が一魔が部屋から逃げ出したら、私の悪魔が殺すんだ」


ひらひらと手を振るヤマネに見送られて、ヒロはカオルと共に部屋へ入った。

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