カサメ
ナルの去ったあと、開店し始めたお店たちを通り過ぎながらヒロは目的の店を目指して歩いていった。
しばらく歩いて立ち止まったのは、chocolate Houseと看板に書かれたカフェ。
この街に来た一番の目的は、ここのカフェのチョコレートドリンクを飲むことだった。受け取ったチョコレートドリンクを片手に、店内の席に座る。
写真をいくつか撮って、一口飲んだ。
口の中いっぱいに広がったチョコレートの美味しさに、ヒロの頬は自然と緩む。
「うまいかの」
ガタガタッ!
突然聞こえた声に驚いて、ヒロは咄嗟に立ち上がった。
両手で大事にチョコレートドリンクを抱えたまま、声の主を探そうと周囲を見渡す。けれどそれらしき人は見当たらず、背中につーっと嫌な汗が流れた。
「ここじゃ、ここ。そなたの向かいにおる。ちと身体が小さくてな。見下ろしてくれんか」
言葉の通り、ゆっくりと視線を下げて向かいをみると、テーブルの上に小人がいた。
ヒロの手のひらにすっぽりと収まってしまいそうな、そんな小ささだ。
姿は人のようで、昔本で見かけた旅の僧侶のような恰好をしている。
「カサメという。魔法使いが現れたと風の噂で聞いてな。気になって会いに来た」
そう言って、カサメは深く被った笠を取った。
そうして現れた一つ目に、ひっとヒロは息を呑んだ。
「おや。ひとつ目を見るのははじめてかの」
カサメは再び傘を深く被って、そのままテーブルの上に腰を下ろした。
「そなたもそろそろ座らねば、要らぬ不審を買うぞ」
言われて、ヒロはそろりと椅子に座りなおした。
口の中に残る、大好きなチョコレートの味が、邪魔に感じた。
緊張の糸を張り詰めて、ヒロはカサメを視た。
「あの、どのようなご用でしょうか」
人を食べるという魔の話を聞いたばかりだからだろうか。
『魔法使い』という言葉を発したカサメのことをヒロはひどく警戒した。
「ホッホッホ。そう毛を逆立てずとも、そなたのことを喰ったりせぬから安心せぇ。ワタシは魔女と縁あるもの。魔法使いをどうこうしたりはせぬよ。用はほら、こうしてそなたと会って話したい。それだけよ」
それを聞いて、少し警戒を緩めた。
「ぼくは、魔法使いではありません。魔法使いの弟子のヒロです、カサメ」
「そうか、ヒロ」
カサメは小さな歩幅でテーブルの上を歩き、縁へと寄った。
「あまり長居をしては悪いな。ワタシはこれで失礼するとしよう」
それからさっとテーブルから飛び降りる。
あ、とヒロは驚いてとっさにかがんでテーブルの下を確認するも、小さなカサメの姿はどこにもなかった。




