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私たちは繭の中  作者: hayase
視えない魔
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ナルとの取引

 気だるそうにあくびをしてから、ナルは口を開いた。


「目覚めたばかりってのは、俺の勘。魔への認識も甘そうだし、そもそも魔を視ることに慣れていないだろ。でも、一番はヒロが魔法使いってところかな」

「ぼくは弟子です」

「あー、はいはい。弟子ね、弟子。そんでさ、魔法使いは空きが長かったから、次を見つけられなかったんだろうってのが俺や術士連中の共通認識。そこに突然、その魔法使いが現れた。つまり、何の準備もなくヒロは俺ら側の世界に足を踏み入れたってわけ。名持ちはとびきり力を持った人間、と魔は思ってるからね。魔というのは、基本的に力を求めるものさ。強い奴が偉い。強くなるには、強い奴を喰らえばいい。間違ってはいないけれど、動物的な思考だよ」


ヒロは困惑した。

ヒロの師匠を名乗った魔法使いは確かにいたのに、青年の話しぶりでは魔法使いはいないということになっている。

胸に生じたもやもやをぐっと押し込んで、とりあえず魔について尋ねることにした。


「つまり、魔はぼくを食べれば強くなるんですか?」

「さぁね。実際、魔に食べられた間抜けな名持ちの話なんて、聞いたことないし。そう思われてるってことだよ」


色々と教えてくれる青年を、ヒロは意外に思った。

先日の初対面では、嫌味なことばかりを言うヤな奴という印象だったのだ。

それでもしかしたらと思って、聞いてみる。


「あの、名持ちになる条件ってあるんですか」

「条件?」


青年は訝しそうな表情をした。


「おかしなこと聞くね。名持ちの条件だなんてさ。そんなのないよ。生まれた時から名持ちになるべくしてなるのさ。その見つけ方はそれぞれ名持ちによって違うけど」

「見つけ方が条件ではないのですか?」

「ちがう。見つけ方は答え合わせをしてるだけ。だから、名持ちにその素質のない者がなることは絶対にない。人間にわかりやすいように世界が用意したのが見つけ方さ。知りたいなら教えてやろうか」


ヒロは驚いて青年を見上げた。


「今週日曜日、バイトを手伝ってくれるなら」


続いた言葉に、ヒロの中で警戒心が生まれる。


「バイトって、なんですか」

「そりゃもちろん、魔を祓うバイトさ。人手がほしいんだ」

「……名持ちの見つけ方と言うのは、退魔師だけですか。それとも4つ全てですか?」


少し考えて、ヒロはそう尋ねた。


「4つ全てに決まっているだろ」


まじまじと見上げてくるヒロに、ナルは呆れたような顔をした。


「一つなんてけち臭いこと言わないよ」

「いえ、あの……。名持ちは、互いのことを共有しないと聞いたので……」

「あのさ、」


ナルは、はぁっと大きなため息を一つついた。


「一応言っておくけど、俺は西條家の跡取り息子。さすがにそれは知ってるか?」


コクコクとヒロは頷いた。


「西條ってのは、血で『退魔師』という名を繋いでいる。数百年間ずっとだ。だから、その間に得られた膨大な知識も西條は継承し続けている。つまりだ。他の名持ちのこともある程度は知っている。もちろん、名持ちの見つけ方なんかも」

「すうひゃくねん……」


ヒロは目を見開いて驚いた。


「人と魔の歴史はそれだけ長いってこと。あ、スマホだして」


唐突に言われたヒロは、え、と戸惑いナルを見上げた。


「連絡先」


勢いに押されてスマホを取り出したヒロは、ナルとQRコードを読み合って連絡先を交換した。


「既読無視したら蹴り飛ばすから」


暑いしもう帰るわ、とナルはふらりと去って行った。

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