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私たちは繭の中  作者: hayase
悪魔憑き
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名持ちの条件

あの少し怖い道を通って、ヒロはレディの部屋へやってきた。


高級そうな調度品に身体を小さくさせながら、カオルと二人、ソファへ腰をかける。

向かいの三人掛けソファにはゆったりと寝そべったレディがいて、カオルから受けとったオレンジ色のオワタリ様を手の甲に乗せて遊ばせている。


全身真っ黒のスーツに身を包んだ男性、Kは三人分のティーセットをそれぞれの前へと並べ終えると、レディの寝ころぶソファの後ろに控えた。

カオルの報告を聞き終えたレディは、ゆるりと身を起こしてオワタリ様をローテーブルの上に乗せた。そしてシュガーポットから角砂糖を一つ取り出して、それを手渡す。

オワタリ様は嬉し気に、その角砂糖を全身で抱きしめるようにして受けとった。


「魔って、人の食べ物食べるんですか?」


オワタリ様に抱きしめられた角砂糖が少しずつ減る様子を見ていたヒロはそう尋ねる。


「狼の子も食べてたでしょ。食事となるかは魔によって違うけれど、人の食べ物は彼らに人気があるよ」


カオルに言われて、ヒロはアイスを食べていたサンタを思い出した。


「あ、たしかに」

「甘いものが好きな子は多いのよ。何か捕まえたい魔がいる時は、捕獲の陣の中心にキャンディとか置いてみなさい」


そんなレディの言葉にヒロは首を傾げた。


「そんなアリを誘導する時みたいな方法で引っかかるんですか?」

「オワタリ様くらいのかわいらしい子なら、すぐに捕まえられるわ。実際、罠にかかったたくさんのオワタリ様を視て来たんでしょう?」

「え、あれキャンディで集められていたんですか!?」


驚くヒロに、レディはさぁね、と答えた。


「そうかもしれないし、違うかもしれない。術をかけた者だけが知ることよ」


レディはソファの背に身体を預けて、脚を組んだ。

赤いドレスのスリットからのぞく白い足に、Kはどこからか取り出した薄布をそっとかける。レディはそれをごく自然に受け入れて、言葉を続けた。


「それで、何が聞きたいのかしら?」


驚いた表情をしたヒロに、レディは笑って言う。


「カオルがあなたを連れてくるって、そういうことでしょう?」


カオルは頷く。


「名持ちのことを詳しく教えて頂きたいです」

「魔女と、退魔師、悪魔憑き。それから魔法使い。この四つが名持ちと呼ばれている。それ以上のことって、なにかしら」

「名持ちになる条件、理由、です。わたしも、退魔師のことしかわかりませんから」


名持ちの条件、と聞いてヒロはハッとカオルの横顔を見た。


「名持ちにどういう人がなるのかってことね。K」


呼ばれたKはローテーブルの上に紙束を置いた。

レディはくるりと指を回して紙を一枚浮かすと、そこへ『退魔師』と書いた。

いや、書いたというのは少し違うかもしれない。

なぜなら、レディは筆も持たずにその紙に『退魔師』と文字を浮かび上がらせたのだから。


「一番わかりやすいのは、カオルも知ってる退魔師ね。彼らは血でその名を代々繋いでいる。つまり、生まれで退魔師は決まるってこと。彼らは術士同士での婚姻を推奨しているから、視える者の減った今でも本家筋から退魔師に成りうる器の者が現れているの。遇に分家の者が退魔師となることもあるらしいけれど、ここ何代かは本家の者が退魔師となっているわ。次の退魔師も西條家当主のお孫さん。今日会ったという、ナルがそうね」


ヒロは金色に染まった髪の彼を思い浮かべて、つまりはいいところのぼんぼんということかと考えた。


「ヤマネに、会ったのでしょう?あの子の悪魔、視えたかしら?」

「悪魔?」


その様子を見たレディは、ヒロは視ていないことを察した。


退魔師と書かれた紙が白く戻り、今度はそこに『悪魔憑き』と文字が浮かんだ。


「悪魔憑きは、その名のとおり、悪魔が選ぶの。悪魔といっても、魔のことなんだけど。これは、特定のある魔を示してそう表現してるだけ。その魔が選んで憑いた子が、次の悪魔憑きになる。わかりやすい基準よ」

「悪魔に選ばれる条件は、あるのですか?」


ヒロの問いに、レディは肩をすくめた。


「悪魔憑きに直接聞いてみなさい」


それからまた文字を消して、『魔女』とその紙に文字が浮かんだ。


「魔女は、次の魔女候補が幼い頃にその代の魔女が見つけるの。そして魔女の技と知識を教え込む。ただ、わたくしはカオルを見つけるのに時間がかかってしまって、申し訳ないことをしたわ」


カオルはハッとした顔をした。


「わたくし、先代から魔女を継いだばかりで、後継のことなんて考えもしていなかった。自分がどういう魔女になりたいのか、それしか考えていなかったの」


そっと目を伏せて言ったレディをカオルは目を見開いて見つめた。


「魔法使いは、どうなのかしら?」


レディは紙を白紙にし、ローテーブルの紙束の上に戻すとヒロへと投げかけた。


「え、ぼくですか?」


ヒロは戸惑った。


「魔法使いが、ぼくを弟子だと言っていたので……」


ヒロが魔法使いの弟子を名乗っているのは、ただそれだけの理由だった。

だから自身が魔法使いの弟子である強い自覚など、ないようなもの。

ただあの美しい魔法使いとの繋がりとして、握りしめているものに過ぎない。


「それなら、魔女と同じなのかもしれないわね。その代の者が次の者を見つけて、育てる。名持ち同士は、仲間というわけではないの。それぞれ独自の方法で魔と関わっている。だからね、同じ名持ちだからって全てを知っているわけではないってこと。ひとつ、どの名持ちにも共通しているのは魔を視る力を持つことね。なぜなら名持ちとは、人と魔の境界に立つ者。視えないままでは、名持ちの役目を果たせない」


カオルはぎゅっと、両手を強く握りしめた。


「二山のヌシの目玉を奪った者、カタメウオの犯人とでもいうのかしら。それについては、少しわかっていることがあるの。術は古いものだけど、確かに人の術で間違いないわ。ただ、それだけでは人かどうかの判別は確定できない。けれど、その者が人型であることは確かね。目玉が奪われた日、見慣れぬ人の姿を見たという話が多いから。若い男の姿で、黒い布で片目を隠しているのが特徴らしいわ。でも、人であるか否かは、あまり重要ではないの。二山のヌシはそのあたり一帯を治める、とても力の強い魔よ。そのヌシの目玉を奪うなんて、不意打ちだとしてもかなりの実力者ということ。あなたたち二人は、その者に遭遇してはいけない。もし遭遇してしまっても、必ず逃げなければならない」


約束よ、とレディは言った。

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