ナル
ヒロやカオルより頭一つ分身長の高い彼は、20代前半くらいに見える。
カオルは彼を知っているようで、ナル、と彼のものらしき名を口にした。
彼は長い足をゆったりと動かしてヒロの横を通り過ぎ、カオルの前に立った。
「これ、あなたの結界?」
「そんなわけないでしょー。こんなちゃちな結界、俺が張るわけないじゃん。俺はここに捕まえた魔を回収してきてくれってバイトを引き受けただけ。どんな魔を捕まえてるのか見に来てみれば、オワタリ様なんかを大量に集めてるなんて。バカなの?」
彼はハッと鼻で笑ってそう言った。
「ま、おかげで君にも会えたことだし、無駄足にはならずにすんだかな?」
「レディへ何か伝言でも?」
カオルは眉をひそめて尋ねた。
「ははっ!あるわけないじゃん。君に、カタメウオのことを言おうと思ってさ」
ピクリとカオルの肩が跳ねる。
「西條が探っているというのは知ってる」
「そうそう。耳が早いね。それでそのカタメウオの目を奪った犯人が、人間なんじゃないかって話が出ててね」
「え?」
ぐっとカオルの眉間のシワが深くなる。
「ありえない。二山のヌシよ。それほど力のある人間が西條にはいるの?」
「まっさかぁ。あれほどの大物、喉から手が出るほど欲しくても今の西條にそこまで力がある人材なんていないよ。いたとしても、ヌシがいなくなった後のパワーバランスを考えればリスクしかないからさせないよ」
疑わし気な目でカオルは彼を見る。
「どうだか。無節操に魔を狩るのが西條の十八番でしょ」
「ははは。西條への印象ひどいなー」
へらりと笑う彼の様子は、どこか余裕を感じさせる。
「人だって根拠は?」
「人の術の痕跡が見つかったんだよ。わざわざ人の術を使う魔なんて、西條は知らないからね。それでまずは、西條の分家まで術者の洗い出しをしている。でも使われた術が古いもので、今の西條では使われていないものだったから、他の同業者だろうって上の判断だよ」
それで、と彼はヒロを振り返った。
「少し会わない間に、男連れてるじゃん。なぁにぃ?俺じゃ不満?」
すっと細められた鋭い眼光に睨まれ、ヒロは肩を震わせた。
「あは。かわいい反応するね」
カオルはきっと眉を上げた。
「わかって言ってるでしょ。くだらない絡み方しないで」
彼は首を少し左に傾けて、開いた右手の平を下に向けて自身の耳のあたりから腰のあたりまで下げる動作をしながら言う。
「思ってたよりちーさな魔法使いだったからさ。つい、からかいたくなっちゃうよね」
「そんなに小さくありません!」
ムキになって言い返すヒロを笑って彼は見た。
「退魔師の後継のナルだ。よろしく」
キラリと光ったものが気になって、ヒロの視線は自然とナルの左耳をとらえた。
金色の髪からのぞく左耳には、青いピアスが飾られている。
「んー?ピアス、魔法使いくんも開ける?」
ヒロの視線に気づいたナルはそう尋ねた。
「いえ。あまり見たことなくて、珍しかったので。それにぼくは魔法使いじゃありません。魔法使いの弟子です」
そう言ったヒロをナルは興味深そうに視た。
「ふーん?ま、たしかに『まだ』だね。じゃ、半端者でいい?」
「な!?」
あまりの言いようにヒロが絶句していると、カオルが口を開いた。
「ナル。わたしたちもまだ、名を継いでないわ」
ナルはきょとりと目を瞬かせ、そしてへらっと笑った。
「それはそうだ」
くるりとナルは身をひるがえす。
「言いたいことは言ったし、帰るよ」
そうしてナルの姿が見えなくなった頃、ヒロは気になったことを口にした。
「今のは、誰なんです?」
カオルは大きく息を吐いて、答える。
「退魔師の後継。祓い屋業もしてるから、魔に関わるわたしは会うことも多いの。あのとおりどうにもつかめない言動をするのが特徴」
「西條の内情にお詳しそうでしたけど……」
「んー、」
カオルは地面を歩いていたオレンジ色のオワタリ様をまた一つ捕まえて、言った。
「報告もあるし、レディのところに行こっか。名持ちのことは、レディに聞こ」




