ハナドロボウ-2-
「人間の声、オレ喰う。場所、キレイになる。オレ、腹いっぱい。でも、花は変なモノだ。そんなもの、オレ喰わないのに。なんで喰ったんだろ。花を喰っても、腹は膨れねぇ。でも今は花がホシイ。喰いたくてたまんねぇ」
魔は首をかしげて、その場をぐるぐると回り始める。
「なんでだろ、なんでだろ」
カオルはその魔の背中に、黒いうねうねとしたものがへばりついているのに気づく。
「ねぇ、背中におかしなものがついているわ。とってもいいかしら」
「ん?背中??」
魔は動きを止めて、カオルへ背中をむけた。
「いいぞ。取ってくれ」
カオルがその黒い物体に触れた途端、そのうねうねとしたものはボロボロと形を失い崩れていった。それと同時に、カオルの頭の中ある言葉が浮かぶ。
「くらう?」
全ての黒いうねうねが消えると、魔は大きく伸びをした。
「身体が軽くなった感じだ。ありがとよ、魔女の弟子。花もホシクない。よかった、よかった。ところで魔女の弟子、オレになんのようだ」
「あなたに、というか、花を獲ってしまう魔を見つけにきたのよ」
「ふうん。それはわりぃことしたな。ここらは違う名持ちのあたりだろ。迷惑ついでに最近聞いた噂を教えといてやるよ。オレもチラッと聞いた話だが、魔を殺して回ってる人間がいるらしい」
「それは、退魔師のこと?」
カオルの傍に来ていたヤマネは、魔にそう投げかけた。
「うわっ!あんたもいたのか。名持ちがそろうなんて珍しい」
魔はカオルとヤマネのあいだで視線をきょろきょろとさせ、ヒロの存在にも気づく。
「見ない顔だ。あんたらの連れか?」
カオルは魔の視線を遮るようにヒロの前に立ち、頷いた。
「ええ」
「そうか」
魔はヒロには興味がないようで、しきりにヤマネを気にするそぶりを見せながら話を続けた。
「いんや、退魔師じゃねぇよ。そこの家門の一派でもねぇ。あいつらが魔を殺しちまうことに、オレたちはいちいち騒がねぇしよ」
「もしかして、川のヌシの片目をとったのも、その人間?」
カオルは片目を失ったヌシを思い出し、聞いてみる。
「あぁ、二山んとこのヌシか。オレたちの間でも話題になってら。なんせあそこのヌシはじっとしていることが多いが、退魔師もうかつに手を出せねぇって存在だ。オレは誰かに寝込みを襲われて取られちまったってことしか知らねぇ。どこかの威勢のいい魔がヌシに喧嘩売ったんだろってくらいに思ってるけどな。名持ちでもない人間がヌシの目玉を取るなんて芸当、できっこないとオレは思うぜ」
「そう、ありがとう」
「それじゃオレはそろそろ行くな。あんたの近くはどうもかゆくなる」
魔はヤマネの後ろにちらりと目を向け、そそくさと立ち去っていった。
ヒロ、とカオルは呼んだ。
「視えた?」
「視えました」
驚くほどはっきり、花泥棒の姿はヒロには視えた。
狼たちのように途中で視えなくなることもなく、その姿を捉え続けることができていた。
「そう」
カオルは安堵の息を吐き、ヤマネを見た。
「場所、借りてもいい?」
「おねえちゃんはいつでも歓迎!」
笑顔で答え、そっと手を出す少女の手をカオルは握る。
「ヒロ、行くよ」
歩く二人の後をヒロは追いかける。
ふたりが向かったのは、学校を囲むようにあるフェンスの前。
そしてふたりはそのまま、フェンスに手足をかけた。
ヒロはふたりがガシャガシャとフェンスを越える様子を、驚きながら見守った。
「なにしてるの。早く来なさい」
向こう側に着地したカオルがそう言った。
「あの、校門使わないんですか」
「わたしたちは不法侵入者だから、人目につかないようにしないと」
ヤマネも続く。
「ここから出ると近い」
「なるほど?」
カオルと少女の言い分に、ヒロは首をかしげながら納得して、同じようにフェンスを越えた。




