悪魔憑きのヤマネ
ふたりに案内されたのは、とある高層マンション。
慣れない場所に戸惑いながら、ヒロもふたりに続いてマンションの中へと入った。
「あの、ここは……」
「わたしの家だよ」
小声でカオルに尋ねると、少女からそう返ってきた。
エレベーターに乗ると、少女は上層階のボタンを押して、カオルとつないだ手はそのままにヒロを振り返った。
「わたしは悪魔憑きのヤマネ。11」
次はお前だとばかりにヤマネはヒロを見る。
「えーっと、ヒロ。14で、魔法使いの弟子……」
言葉尻の声量を落としながらヒロは名乗った。
「どうしてカオルおねえちゃんと一緒にいるの」
ヤマネの問いは、カオルが答えた。
「しばらく魔女の依頼を手伝ってもらうの。これはレディとの契約」
「じゃあ、ずっとおねえちゃんと一緒ってことなんだ」
そう言ったヤマネは、カオルとつなぐ手にきゅっと力を込めた。
「すごいですね……」
エレベーターを降り、扉を開けて案内されたリビングでヒロは思わずそうこぼした。
高層マンションの上層階というものに、ヒロは初めて足を踏み入れた。
高級品に囲まれたレディのアパートとはまた違った居心地の悪さを感じつつ、勧められるままリビングのソファに座った。
ベージュ色の6人掛けくらいの大きなソファが、ヒロの身体をふんわりと包みこんだ。
「まほーつかい」
ヒロの座ったところから距離を取って、同じソファに座ったカオルにピタリとくっついているヤマネはそう切り出した。
「え、はい?」
それが自分を呼ぶものだとヒロはわからず、反応が遅れた。
「まほーつかいはあなたよ。選ばれたのだから」
「あの、ぼくはただの弟子だから……」
「弟子はその名を継ぐ前段階の呼び名であるだけ。いずれまほーつかいになるのだから、今そう呼んでもいいじゃない」
ヤマネは顔をそむけたまま言う。
「それで、まほーつかい。あなたはどこまで知ってるの?」
「どこまで?」
ヒロはどう答えたらいいのかわからず、戸惑った。
「なにも」
つかの間落ちた沈黙を破ったのはカオルだった。
「名持ちのことも知らなかったよ。それが答えでしょう」
「そんなの、ただの足手まとい」
ヤマネはカオルの服の袖をぎゅっと握った。
「退魔師じゃないんだ。命を取り合うようなことは、よほどのことがなければ起きないよ」
カオルの言葉に、ヒロは驚いた。
「退魔師というのは、命がけなんですか」
カオルは小さくため息を吐いて答えた。
「あれは彼らが悪い。いらぬ火種をあちこちへと飛ばすから。祓い屋のことは聞いたでしょう?その祓い屋業をしている西條家の当主が今の退魔師。退魔師と言うのは、魔女や魔法使いと同じ名持ちを現す名前のこと」
「恨みを買うから、狙われる」
ヤマネはぽそりと言って、ヒロを見た。
「まほーつかいも狙われる」
「えぇ!?なんでぼく!」
「まほーつかいは空きが長かった。隠していたけど、気づいている魔もいるよ。それをわかって、魔女のところに来たんじゃないの」
「それは、どういう……」
「レディは強い。単純な強さだけならわたしたち悪魔憑きだけど、レディの怖いところは精密なコントロール。あんなのよくやるよね。ヒシイも見つけられないって言ってる」
カオルはそっと口角をあげて微笑んだ。
それを見たヤマネはため息を落とす。
「おねえちゃんはほんと、レディが大好きだよね。それで、まほーつかいはどこまで視える?」
「んー、意識をすればって感じかな。弱い魔は視えないみたい。でも、そのうち慣れてきて、視えるようになるんじゃないかな。ね、」
そう言って、カオルは同意を求めるようにヒロへ目線をやった。
「え?あ、はい?」
ヤマネはムッと眉間にシワを寄せて不服そうな表情で言った。
「やっぱり、足手まとい」




