オンギョウ
「ひとつ、気になることが」
「なに?」
「オンギョウって何ですか」
「気配と姿を隠して消すこと。めちゃくちゃ上手なかくれんぼ、みたいな。形を隠すって書くの。サンタに教えてもらった?」
「隠形していないボクらのことを視えてないやつが、カオルさんの隣にいるなんて笑えないと言われてしまいました」
頬をポリポリとかいて、目線をさまよわせながらヒロは答えた。
「悪く思わないであげてね。あの子はわたしに懐いてくれてるから、心配してるの」
「魔女が、有名だから?」
カオルは頷いた。
「願いを叶えるって、素敵じゃない?だって、誰しも願い事の一つや二つ、持っているでしょ」
「カオルさんも、そういった力があるのですか?」
「ないよ」
軽い口調で、カオルは言って歩き出す。
ヒロはその横に並んで歩いた。
「わたしは魔女じゃなくて、魔女の弟子だからね。願いを叶える力はないし、黒猫もいない。わたしはあくまでレディの代行。そのために必要な力を、レディから貸してもらっているの」
そう言うカオルの雰囲気が、時々何かを思い出すような仕草をしていた魔法使いとよく似ていて、ヒロは息を呑んだ。
「魔法使いの弟子のヒロは、何か変わったことができるの?」
ヒロは首を振った。
「できませんよ。ぼくは弟子といっても、直接何か教えを受けたりはしたことありませんから。弟子の特権は、魔法使いの店にある大量の本を読めることと、綺麗な魔法使いのお顔を好きなだけ眺めていられることです」
「魔法使いは美人さんなんだ」
カオルは興味深そうに、帽子の影に隠された瞳をきらめかせた。
「レディより?」
問われて、赤い色の印象が強く残る魔女をヒロは思い浮かべた。あまりにも鮮烈な赤で、容姿の記憶はないに等しい。
「ええっと……」
目線を泳がせるヒロを見て、カオルは察した。
「覚えてないか。他のインパクトが強すぎるものね」
ヒロは苦笑した。
「魔法使いはなんというか、人外めいた容姿なんですよ。表情も少ないから、時々本当に人間なのか疑ってました」
カオルは少し考えて、頷いた。
「もしかしたら、そうなのかもね」
「え?」
「魔法使いは、人間じゃないのかもしれない。人のふりをする魔って、そう珍しくはないの。人ではないから、姿を消した。人ではないから、レディが依頼を引き受けた」
「それは、どういう……」
「魔女はね、願いを叶えるなんて言われているけれど、レディが引き受けるのは主に『魔』に関する依頼ばかり。人の領域では解決できない願いを魔女は引き受ける。まぁ、名持ちだから、同業のよしみというのもあるのかもしれないけれど」
「魔法使いも、願いを叶えるのですか?」
「まさか。名持ちはそれぞれ役目が違うから、名持ちなの。魔女が願いを叶えるなら、魔法使いは別の何かが役目のはずよ」
カオルはあ、と声をあげて立ち止まった。
「もう一人、名持ちの弟子に会ってみる?」




