魔女レディ
「道は繋がれた。あなたを歓迎するわ」
促されるまま部屋へと入るとすぐ、高級そうな三人掛けのソファに寝ころぶ女性と目が合った。
年は、ヒロをここまで案内してくれた彼女よりもいくらか年上、20代半ばほどに見える。
女性が身にまとっている真っ赤なロングドレスは非日常的な要素ではあったものの、女性にはその服装がよく似合っていた。
「ようこそ、小さな魔法使いさん」
ヒロは女性の「魔法使い」という言葉に肩を揺らす。
赤い唇の口角を上げた女性は、ゆったりとした動作で自身の向かいにある二人掛け用のソファを示した。
「さぁ、おかけになって」
怖々と高級そうなソファの右端に座ったヒロは、落ち着かない様子で室内を見渡した。
部屋の広さは10畳ほど。
床一面に大理石が敷き詰められている。
向かい合って置かれた三人掛けと二人掛けのソファは白い皮製品で、縁には金色の彫刻がデザインされている。
向かい合うソファの真ん中に置かれた楕円のローテーブルはガラス天板。
脚はソファと同じような金の彫刻デザインとなっている。
壁にかけられた白をベースに金細工意匠のほどこされた仕掛け時計に既視感を感じて、ヒロは数度瞬きをする。
「時計が気になって?」
ハッと向かいの女性に視線を戻すと、彼女は変わらずくつろいだ様子でソファに寝ころんだままだ。
そのまま視線を下に下げると、いつの間にか紅茶の入ったティーカップがローテーブルの上に置かれていた。
「お茶でも飲みながら、お話をしましょうよ。わたくしは願いを叶える魔女。レディ、と呼んで頂戴な。あなたはいったい何を願って、わたくしの元へやってきたのかしら」
ヒロはぐっと両ひざに置いた拳を握りこんで、息を吸った。
「探してほしい人がいるんです。その人は、自分のことを魔法使いって名乗ってて……。な、名前はわかりません。住所は、えっと。前にいた場所はわかるんですけど、なんか場所ごと消えた、みたいな感じで。あ、電話番号とか連絡先もわかんないから……」
「その人の写真か、愛用していた物は持っているの?」
魔法使いは写真を嫌がった。
キレイなあの人とツーショットが撮ってみたいと思って、一度カメラを向けたことがある。
そしたらあの人は、「やめてくれ」と。
それだけ言って顔を背けてしまった。
古書店から、ヒロは何一つ持ち出すことは許されなかった。
魔法使いから物をもらったことだって、一度もない。
魔法使いについて、自分があまりに知らないことに改めて気づき、ヒロの頭は真っ白になる。
「いえ……」
「魔法使い、と。それだけじゃぁね。情報が少なすぎてよ」
「で、でも!あなたは知っているはずだ。だってあなたは、ぼくのことを『小さな魔法使い』と呼んだ。それはぼくが、魔法使いの弟子だと知っているからでしょ!」
「わたくしは魔女。会えば、名持ちの気配くらいわかるわ。あなたは特に、とってもわかりやすい」
「名持ちって、なんですか」
眉間にしわを寄せるヒロに、レディは小さく笑みを浮かべた。
「わたくしのような魔女。あなたも知ってる魔法使い。それからあと二つ。名前と役目のある存在が名持ちよ。魔女の願いはタダじゃないの。世の摂理と法則に基づいて、対価と引き換えに叶えているのよ。さて、小さな魔法使いさん。あなたの願い、叶えて差し上げてもよろしくてよ。その対価として、あなた自身を差し出せるのなら」
レディは右手の人差し指を立てた。
「一年。魔女の元へ来る依頼の解決を手伝うこと。それがあなたの願いの対価よ」




