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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太
第八章 隠主(おに)、覚醒(めざめ)し時

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御子姫の帰還

 幾度となく、御子姫の元へは響家本家へ戻るよう連絡が来ていた。御子姫はそれをすべて無視していた。

 剛拳と豪鬼は、自分たちが動けば戻る気になるかもしれないと、戦人の里に引っ越すことに決めた。養い親たちは寂しくなると泣いていた。


 屋敷の方では、洋巳と奏司が到着を今か今かと待っていた。

 戦人の里は石垣の壁で囲われた中にあった。門を開けてもらうと、久しぶりに剛拳の顔を見て門番は嬉しそうに挨拶をした。門番は奏司が建てた新しい家をよく知っていて、壁沿いにまっすぐどん突きだと教えてくれた。

 到着すると、さらにもう一回り壁に囲われた門のところで奏司が出迎えていた。


 屋敷の入り口まで車を回すと、洋巳が出てきた。

 豪鬼は大きな家になかなか入ろうとしなかった。しかし、家の奥から料理の匂いがしてくるのに気がつき「ごはん?」と聞くと荷物を運び始めた。

 洋巳は座敷の机へ焼肉の準備を整えて待っていた。


「長旅お疲れ様。まずはお腹いっぱいご飯食べてね。奏司もしばらくいるから」


 剛拳は食事をしながら、造船所の隣接地に建設中の建物のことを聞いて驚いた。


「もしや、もう実行に移されていたとは驚きです」


「御子姫待ってたら何も進まないからね」


 座卓の上には七輪が置かれ、豪鬼が嬉しそうに肉を焼いて食べていた。他にも洋巳が作った料理が並び、剛拳は美味しそうにビールを飲んでいた。


 奏司は図面を出してきて、新しく建設中の運動施設にはプールもあり、トレーニングジムも作ったことを話した。

 一番は何より、豪鬼の大好きな相撲の練習施設と土俵まで作ったことが自慢だった。


 奏家の近くの空き家の住居は、一階部分は改築して食堂にし、奏家の男たちがいつでも気軽に食事が取れるように整えた。それぞれには奏家の女たちが、何人か二階に住んで暮らしていけるようにした。


「奏家本家まで大改築されてらっしゃるようで驚きました」


「風呂と(みそぎ)場が狭いと聞いてたから増設した。鍛錬場は体育館を使ってもらうようにして。一応板間は残してあるけど。(ケガレ)の研究室を作ったんだ」


「御子姫殿が戻られたら卒倒されますぞ」


「そうだね、この前自分がいない間に好き放題している件も、併せて謝罪したと言うつもりだから」


 穢、とりわけアカメへの対策も進んでいた。引退した者の中から戦強者を選び出し、大砲(おおづつ)の特訓に入ろうとしていた。

 そして御子姫の構想として聞いていた、大砲二連、奏司と豪鬼との連弾も、なんとか現実のものにできないか考えていた。豪鬼なら俺と組んで、御子姫の連弾も真似できるだろう。


 外部からやってきた車が駐車場に止まる音がする。眴が遅れてやってきた。戦の件で御子姫の返答待ちの書類を、マンションから全部持ってきた。とにかく至急案件だ。


「響家本家まで持っていけばよかったのに」


「すみません、響家は苦手でして。帰りに寄りますので、よろしくお願いします」


「食後に豪鬼とチェスやる約束してて。終わってからじゃないと……」


「泊まっていくんじゃないの?」


「誰が第二の新婚家庭に泊まってくんだよ」


「奏司殿!」


 剛拳が真っ赤な顔で奏司を見ている。そこへパシッと軽く、奏司は頭を(はた)かれた。


「奏司、いい加減にしなさいよ!」


「しなさい」


 豪鬼まで笑って真似をする。


「本当に、豪鬼と剛拳が母さんと一緒に住んでくれて嬉しいよ」


「いやいや、よく考えたら洋巳殿には助かっておりますよ」


「……殿、なんだ」


「豪鬼はなんて言うかわかるよな」


「そうし、母さん」


「豪鬼も母さんだよ」


「ごうき、母さん」


「そうそう、母さんだよ」


 奏司が豪鬼に教えていると、洋巳がぽろぽろ涙を流している。


「母さん、なく、ダメ」


「いいんだよ、嬉しいから泣いてるの」


 困った豪鬼は剛拳の方を向くと、剛拳まで泣いていた。


「豪鬼、チェスでもしよっか」


 喜んでチェス盤を持ってきて勝負が始まる。食事を終えると、眴が観戦にやってきた。


「おや、奏司さん、押されてますね。チェックメイトじゃないですか」


「あーっ! 言っちゃダメだって!」


「もいっかい」


 豪鬼が嬉しそうに駒を並び整える。


 ほんの少し前、失意のうちに一人ホテル住まいだった頃には、思いもかけなかった光景に、奏司は嬉しくてたまらなかった。御子姫が帰ってきても、これが続くよう自分が努力しなければと思っていた。


 その御子姫は、帰ってくるのを随分とごねているようだった。




 電話があり、双子が対と一緒に祝いの品を持って来るという。何やら相談事もある様子だった。


「この度はおめでとうございます」


 二本縛りにした日本酒を持ってきて、どうやら男連中は飲む様子だった。

 食事は済ませているので、久しぶりに剛拳と酒が飲みたいと。皆で座卓を囲んだ。


 唱と言葉は、お茶菓子とお茶が出されていた。

 眴から預かった至急案件を、奏司は唱に渡した。二人は奏司を見るなり深々と頭を下げて詫びた。


「どうして、二人が謝るの、やったの御子姫じゃん」


「実は私どもは、母から姫様のお目付役を仰せつかってまして……」


 どうやら、双子の母は、御子姫を育てた祖母の妹の家系で、祖母が病気で亡くなってからはずっと御子姫を支える家筋になっているとのことだった。


「うちの母、まあえらい怖いんです。姫様のこんじょわるなとことか、よう知ってはって、今回もえらい怒ってはって……」


「母は、奏司さんのことえらい気に入ってはりまして。年下の婿はんをまあえげつないいちびり方して、って激怒してはるんです」


 双子はキャラキャラ笑いながらも、二人揃って大きなため息をついた。御子姫への至急案件も、本当なら自分たちでサッサと済ませたい様子だった。


「明日、母がこっちへ出て来はるんです。一緒に異形の里へ行きますの。姫様、ごっつう絞られはると思います」


「あっそう、なに? ラスボス登場みたいな?」


「笑いごとちゃいますけど、ほんま難儀なことなりそうで……」


「あっそう、俺、挨拶しに行った方がよくない?」


 唱と言葉は顔を見合わせて、どうするか話し合ってから、その方がいいかもということになった。

 駿英(しゅんえい)駆成(かいせい)は新しくできる運動施設について、剛拳と話が盛り上がっていた。


「奏司さん、俺筋トレマニアの仲間多いんで、マシンのこと聞いてもらっていいですか」


「それならいっそ、駿英さんに任せてもいい? 図面見て、お願いするよ」


「こっちの広い方はどうするんですか?」


「まだ全然決めてない。なんかいい案があったら駆成(かいせい)さん出してよ。一応、トランポリン入れようとは思ってて。戦の時に飛び上がったりするじゃん。そういうのを練習できたらいいなと」


「了解です、俺も仲間に聞いてみます」


 豪鬼が眠たそうにしているので、今日はこの辺でとお開きになった。




 さて、双子の母、織音(しきね)であるが、御子姫は何よりこの織音が苦手であった。一番の後ろ盾ではあるが、とにかく口煩い人物であった。

 突然、その織音が双子と共に、異形の里から動こうとしない御子姫を諌めにやってきた。


「姫様、お久しゅうございます。どないですか、聞いた話より、まあえらいお元気そうで、よろしおすなあ」


 御子姫は双子の方を見た。二人は最後の手段とばかりに知らん顔をしていた。織音は書類袋を御子姫に渡すと中を見るように言った。


「なんですか、これは。ようまあこないぎょうさんとためはって。せんぐりお願いしても(ほか)してはるそうやないですか」


 確かに、双子ではできない決裁ばかりが残っている。言い訳のしようもない。


「見かねて代わりにしてくれはった奏司はんに、聞くところえろうえげつないいちびり方しはったそうやないですか。ほんましゃっちもない」


 織音は御子姫にはっきりと言った。


「お早う、帰りよし。まだ駄々こねはるんなら、うちはもう、かなんさかい。金輪際面倒みませんえ」


 御子姫は苦虫を噛み潰したような表情をして、黙って織音に従った。


 双子は荷物をまとめて後からすぐ追うのでと、二人を先に待っていた車に乗せた。一緒の車の中で、御子姫は戦人の里に着くまで延々と説教され続けた。


 御子姫は嫌でも耳に入る説教の中に、事あるごとに奏司の名を聞いた。

 戻れば、否が応でも奏司とは顔を合わせることになる。

織音の言うことはいちいち癇に障った。しかし、それが響家の意向だと、ひいては一族全体のためなのだと、さすがの御子姫でもわかっていた。


 戻ったらもう一度、対として向き合わなければならない。今度こそ失敗するわけにはいかなかった。

 御子姫はあれだけのことをしておきながら、話し合いさえすればまだやり直せると、どこかで高を括っていた。


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