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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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戦の鬼

 奏司と豪鬼は、毎夜八時頃から輪紋を繰り出す特訓をしていた。

 剛拳から、輪紋を繰り出すのに必要な気の溜め方と、気を溜める容量の増やし方を訓練されていた。


 奏司は飲み込みが早く、どんなに難しいことをさせても器用にこなしていった。

 豪鬼は天才肌というのか、感覚で覚えていた。その点では豪鬼の方が御子姫に近いものがあった。


 剛拳は最初、御子姫から奏司だけでなく豪鬼にも教えてほしいと言われ、できるかどうか不安だった。

 御子姫はどうやら倒れた時に豪鬼の素質を見抜いていたようだった。


 身近に競争相手がいるのは良いことだった。

 二人はただの競争相手ではなく、共通の目的を持った同志でもあった。御子姫を守るのは自分たちだという意識が芽生えていた。


 外で訓練が終わったら、今度は家の中で戦法の勉強をしていた。

 豪鬼は、囲碁や将棋が強かった。我流で勝ち筋を見出していくのだ。


 それを受けていくうちに、奏司は豪鬼の勝ち筋を記憶し、先手で防いでいく。すると今度は、豪鬼がまた新しい勝ち筋を見出す。

 教則本なしでやることが、二人には楽しかった。


 (ケガレ)との戦では、臨機応変が求められる。

 もちろん、剛拳との駒を使った盤面での戦法のやりとりも、二人には初めてのことでおもしろがっていた。


 豪鬼の閃きは、一見めちゃくちゃなようでいて理にかなっているのだから驚きであった。


 特に御子姫は、二人が戦法を学ぶ様子を、いつも少し離れて見ていた。その方が二人の違いが手に取るようにわかった。


 奏司は理で組み立て豪鬼は感覚で切り込む。噛み合わぬようでいて、実のところ互いの足りぬところを補い合っている。

 もしこの二人を従えて、輪紋を繰り出させ次々に大砲(おおづつ)を放つことができたなら。


 そう考えた瞬間、己の方へ振り返り笑い合う奏司と豪鬼と目が合った。

 二人にとって、御子姫はただの戦頭領ではなかった。

 その眼差しを、どう受け止めればよいのか。


 頼もしいと先に思うべきところで、御子姫は真っ先に戦での使い道を測っていた。

 それがどういうことかも、わかっている。それでも、もはや視線を外すことなどできなかった。


 二人の才は、それほどまでに際立っていた。




 五年大戦も終わりが見えてきた頃、その後のアカメを本格的に祓っていくため戦略会議が行われた。

 そこで御子姫は(つい)を二人にし、確実に大砲の連弾ができる体制を築く考えを話した。


「決定ではなく相談じゃ。私は異形の大船で采配を振るう。そこへ二人の若い輪紋衆を率いて乗船する。異形衆の大砲で風穴開けたところへ私が確実に連弾する。

(となえ)言葉(ことは)は、私が連弾すると隙が生じる、それに備えて臨機応変によく見て仕掛けてほしい。一の船大将は唱の対、二の船大将は言葉の対じゃ」


「二人というと、もしや奏司と豪鬼ですか」


「そうじゃ。他に誰がおる」


 剛拳の表情がにわかに険しくなった。


「豪鬼は鬼です。常世(とこよ)(ケガレ)の気にどこまで影響受けるかわかりませんぞ」


「だから、豪鬼には無理強いはせぬ。奏司が里からいなくなって、よもや豪鬼の考えが及んだ時じゃ」


 鬼と聞いて、会議の席がどよめく。

 やはり、異形という知らない者への畏怖は、たとえ系譜を同じくするとはいえ、そう簡単に拭えるものではなかった。


 ことに豪鬼は近年久しく生まれることのなかった、異形の里で育った鬼の子だった。

 得体の知れぬ、その名が出たことで、席の空気は目に見えて強張った。


 奏司については、元総代の血を引くというだけでなく、すでに御子姫が次代の総代として遇している。

 だが、豪鬼は違った。何者とも定まらぬまま、ただ御子姫の一声で押し出されてきた存在だった。


 皆が不安を抱くのも無理はない。だが御子姫には、その不安にかまけている猶予などなかった。


「私も異形じゃ。この先の戦のことを考えた時、豪鬼ほどの逸材を放っておくのは勿体ない。責任は私が持つ」


 御子姫はかまわず続けた。


「鬼が怖いか。知らぬものを前にして、身構えるのも当然じゃ。それなら、穢はどうじゃ。あれこそ、理屈も通らぬし、そもそも穢は待ってなどくれぬぞ。今は使える力を見極め、備えねばならぬ。豪鬼はそのための力を持っておる」


 御子姫の声音は静かだったが、異を挟ませぬものがあった。それは説得などではなく、すでに腹を決めた者の声だった。


 御子姫は剛拳の方を向くと、今まで見せたこともない表情をしていた。剛拳は、すっかり父親の顔になっていた。


「奏司のことは、皆知っておろう。元総代の子じゃ。奏司は長殿から総代の心構えを学んでおる。元服を里で済ませたのち、こちらへ来て祝言を挙げる」


 御子姫は会議の後に、剛拳と腹を割って話し合っていた。


「豪鬼は異形の里で今まで通り、剛拳殿と暮らす。私も戦以外の時は忙しいゆえ、奏司も総代として連れ回さねばならぬ。それを見て不安がらぬようしてやりたい」


「二人を対にするということは、豪鬼とも契りを交わされるということですか」


「ゆくゆくは、そうする。豪鬼が精神的にどこまで成長するか見ておるところじゃ」


 確かに、奏司と一緒になってからの豪鬼は、目を見張る成長ぶりが伺える。だが、精神面を御子姫は推し測りかねていた。


「それを見極める役目ですか」


「何を言うておられる。私は、豪鬼は養い親と私たち二人で育てたと思うておる。あれほどの見事な輪紋は見たことがない」


 そう言ったところで、御子姫は急に押し黙り、深く息をついた。


「豪鬼が初めて輪紋を繰り出した時も、奏司がそれを見てすぐに息を合わせた時も、私は何より先に考えた。どう戦に活かそうかと」


 御子姫は自嘲なのか、苦く笑った。


「二人が笑い合うとる姿を見ても、どう使うかばかりが先に立つ」


 剛拳は黙って聞いていた。ただ、その言葉を否むことができなかった。

 御子姫が二人を守ろうとしてきたことも、同時に戦人になることを見越して鍛えてきたことも、どちらも真実だったからである。


 剛拳には、それが御子姫の冷たさゆえとは思えなかった。

 守るために鍛え、鍛えるために近くへ置く。そうして育てた者を、いずれは戦へ送り出す。

 情がないのではない。情があるまま、戦へ向かわせねばならない。


 その業を、誰より御子姫自身が知っているからこそ、ああして己を鬼と呼ぶのだろう。


「結局、私は戦のことしか頭にない。戦の鬼じゃな。初めて豪鬼の紋を見たとき、あまりの見事さに心が震えた。私はまだ十三だったのに、あの鬼の子が欲しゅうなったのじゃ」


 御子姫の顔には、あきらめを通り越した、己の性を受け入れた色があった。


「豪鬼のことは、剛拳殿にお任せします。私は、親ではないゆえ、戦頭領の目でしか、最後はそういう目でしか見ておらぬ。

それゆえ、もう一つ頼まれてはくれまいか。奏司の相談相手になってほしい。

奨弥殿がおかしくなったのも、そのような目でしか見ることができなんだ私のせいなのじゃろう」


「そこまでお考えにならずとも……」


 御子姫は悲しそうに笑った。


「己の性分はわかっておる」


 どう誤魔化そうと、穢を祓うために生まれてきた戦神(いくさがみ)だ、鬼神なのだ。


──生まれた時のまま、あの時のまま


「戦の鬼。上等じゃ」

 

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