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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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対という名の元に

 会議の際に話し合われたのは輪経紋の術についてだった。術を繰り出すには対の連携がとても重要な要素となる。

 (となえ)駿英(しゅんえい)(つい)には問題が浮き彫りとなってきていた。

 

 会議の後、二人は御子姫に呼ばれた。


「どうして呼ばれたか、わかるか」


「はい……」


 唱は口ごもった。いつもははっきりと答えるのだが、今回はどうも様子が違う。


「そなたら、今ひとつ息が()うておらんのじゃ。唱もわかっておろう。言葉(ことは)と二人で繰り出していた時に比べて、威力が半減しとる」


「すみません……」


 駿英も、実際どうしたらいいのか、わかりかねていた。


「そなたら、抱きあう以前に手さえ握ったこともないのじゃないか」


 唱は黙ったまま顔を引き攣らせた。駿英は参ったな、という素振りをした。


「戦のためにと無理強いはしとうない。ただ、契ったからといって、すぐ解決するものでもない。互いに話し()うたことはあるのか」


 唱はうつむいて首を振った。


「あの……苦手なんです。他人(ひと)に内側に入って来られるようで。どうしたらいいか、自分でもわからなくなってしまって」


「俺は唱さんをいつでも受け止めてあげたいと思っています。少しでも、受け入れてもらえるよう努力しています」


 御子姫はしばらく二人のやりとりを聞いていた。

 どうにもちぐはぐなところは、この場でも滲み出ていた。


 力はあっても、この『対』で戦う仕組みそのものが、唱には向かないのかもしれなかった。

 それを克服できなければ、大将には据えられない。それどころかこの先の戦には厳しいだろう。


「唱、無理はせずともよい。戦人を辞めても構わん」


「そんな! 御子姫殿、今しばらく……」


 思わず、剛拳と代理が割って入る。


「向き不向きがある」


 厳しい御子姫の一言に、唱は思わず振り返り、御子姫を見つめた。


「いつまでも対の気持ちにさえ壁を作って、己大事でいるような者に、輪経紋衆としての戦など無理じゃ。駿英は見事な輪紋衆じゃ、このままでは勿体ない」


「姫様……」


「今まで何を学んできた。覚悟が足りぬ。実家へ戻って神守にでもなるがいい」


 唱の肩が震えた。子供の頃から憧れ追いかけてきた、御子姫からのこの一言は唱にはこたえた。

 少し(おもて)を下げると、唱は微動だにせず畳を見据えていた。


 御子姫は深く息をつくと、口調を変えて話を継いだ。


「きついことを言った。じゃが、今までとは状況が違う。常世がいつ急変するかわからぬ」


「生ぬるい覚悟ならば必要ない。駿英とよく話し合うて答えを出しなさい。契ろうが無かろうが、互いの心が通いおうておらねば何も始まらん」


 駿英は唱の震える手に自分の手を添えると、やさしく握った。それでも、唱の手は強張ったままだった。


 思わず言いたくもないことを、踏み込みすぎてしまった。

 御子姫は己の焦りを嫌な形で、唱と駿英にぶつけてしまったことに苛立っていた。


 ──なんと不甲斐のないものか


 その後の戦では、アカメの存在に注意を払いつつ、一進一退の戦が続いていた。唱と駿英の対には、少しずつ変化は見受けられるようになってきてはいた。

 しかし、この程度では大将などとうてい任せておけなかった。




 双子の対が暮らす屋敷の工事も終わり、注文していた調度品などが運び込まれていく。屋敷のお披露目も済み、やっと戦のあとに帰る家ができた。

 居を構える、それは戦人として本当の意味で一人前となったという意味でもあった。


「あともう少しで大戦も終わるね、そしたら祝言かあ」


「あのね、言葉(ことは)はもう契りって……」


「うん、もう大戦に入る前に契ったよ」


「えっ……うそ……」


「それからは、術も前よりずっと合わせやすうなった気ぃする」


 思いがけない返答に、唱は声もなくじっと言葉を見つめた。


「もしかして……やっぱり、まだなん」


 唱は、恥ずかしそうに頷いた。


「どうしたらいいか、わからへんねん……」


 言葉は唱にずけずけと根掘り葉掘り進展状況を聞いた。


「ええっ! まだ口づけもしてへんの。付きおうて、もう結構経つやん。うわぁ、信じられへん」


「駿英さんは待っててくれはるって」


「そんなん、待っててくれはるにも限度あるやんか。唱、勇気出さなあかんて。駿英さん、もう二十歳やし、ようまあ……耐えてはるわ」


 あけすけな物言いの言葉に、唱は唖然とした。一気に言葉が大人に感じる。


「今夜、うちら出陣やし、唱は二休でしょ。今夜からここ住むし、美味しい夕餉作って待ってたら」


「うん……」


 言葉は緊張する唱を抱きしめた。


「案外、平気よ。そんな言うほど痛くないって。ぎゅうってしてたら終わってた」


「ぎゅうってしてたらって……なに?」


「目を閉じてぎゅうって抱きついてたら、契り終わってた。なんだか心が近くなった気ぃしたよ」




 唱は今まで褒められた料理を作って、駿英の帰りを待っていた。

 駿英はどれだけ待っても帰ってこなかった。テーブルに料理を置いたまま、唱はソファで眠ってしまっていた。

 しばらくするとガヤガヤと声が聞こえてきた。


「おい、ダメじゃないか。待ちくたびれてこんなとこで寝ちゃってるよ」


「あ……ホントだ悪いことしたな」


「こうして見ると、なんか戦の時と違って子供(ガキ)っぽいな。さわると嫌がるって?」


「しょうがないって、本家筋のお姫様だしさ。けど、力はあるし、頭もいい。戦の対としてはこれ以上ないよ」


「戦の対な。けど正直どうよ」


 どうやら数人、酒でも飲んできたようだ。同じように中二日休みになったのだろう。

 唱は自分のことが話題になっている様子に、どうしたらいいかわからないまま会話を聞いていた。


「みんな戦人になるって決めた時点で割り切ってるからな。ていうか、おまえだって付き合ってたやついたじゃん」


 駿英は、勘弁してくれと言わんばかりになった。


「見合いの話来た時点で、家中舞い上がっちまってさ。俺だけ断ったら角が立つってんで、まあ……」


「結局別れたんか。三年近く付き合ってたよな、契る寸前だったろ」


「うん。でも、お互い話し合って別れた。本家筋の中でも御子姫付きの姫様相手じゃ勝ち目がないって。かえってあきらめつくって」


「まあな、誰も口には出さねえけど。みんな一度や二度はあるだろ」


「厳しいっていうか、案外容赦ないよな」


「ああ。御子姫もさ、口ではいいこと言うけど、戦のことになるとキツいしな。冷徹というか。好き合ってる同士の対なんているのかよ」


「御子姫自身、対に逃げられてるじゃん」


「もうそのへんでやめとけって」


 酒が入って言いたい放題の仲間たちに、駿英は大きなため息をついた。


「結局、俺たちは穢を祓う道具なんだって」


「もう祝言挙げたら、どのみち否応無しに契りの儀式するわけだし。ダメならダメってことでいいんじゃないか。おまえ、優しすぎるのもよくないぜ」


「どうせ、御子姫だってやっぱり無理だって言うに決まってるさ。どんなお姫様だろうが、そんな甘ちゃん」


「そんなふうに言うなよ。本人必死なんだから」


 駿英は、そのままソファに寝てしまっている唱に、寝室から毛布を持ってきてかけてやった。


「いつも俺からなんだよな。今日だって、待ってるって言ってくれたらすぐに帰ってきたのに」


 話が尽きないところを、駿英はいい加減帰るよう皆に促した。ガヤガヤと部屋を出て行く声が遠のく。しばらくすると玄関が閉まる音が聞こえた。


 唱は初めて聞くことばかりに、心がかき乱された。何より、自分のことだけでなく、駿英までが自分のせいで言われ続けていたのを聞き、申し訳なく泣けてきた。

 駿英が部屋に戻ってくると、唱はソファに座り声もなく泣いていた。顔を覆う手からは雫がこぼれていた。


「唱さん、もしかして聞いてたの? みんな酒入ってるから、口が悪くなってただけだから。気にしなくていいよ」


 駿英は隣に座るとやさしく抱きしめ、涙を拭う手にそっと口づけた。


 唱がはっとして駿英を見る。


「うちのせいで、付き合うてた人と別れはったんでしょ……」


「違うよ。唱のせいじゃない、俺が唱を選んだんだ」


 駿英は涙を拭いてやるとやさしく口づけをした。唱は一瞬びくんとしたが、そのまま目を閉じ駿英の口づけを受け入れた。


「やっと口づけできたね」


「ごめんなさい……うちのせいであんなん……」


「気にしないで。俺は何言われても、頑張ってる唱をいじらしく思うよ」


 唱と呼ばれるたび、固く強張っていたものがほどけていくようだった。


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