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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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ケガレの変容

 御子姫が異形の里を訪れていた折のことだった。

 奏司と豪鬼は連れ立って、御子姫のためだときのこを取りに行っていた。御子姫は里長とお茶を飲みながら話していた。


「二人とも、たくましくなりましたな。先が楽しみでしょう」


「そうですね」


「豪鬼は化けましたな。奏司という良い手本を得て。互いの天賦の才が刺激しあい花開いております」


「そうですか、それは頼もしい。先行きが楽しみです。これからの戦は、難しくなっていくばかり。恐ろしい(ケガレ)が現れました……」


 御子姫は里長にアカメと名付けられた新しい穢の話をした。


「そこで、今まで同じように戦に出ていた異形衆の出陣を、しばらく取りやめようと思います」


「そうですな。御子姫殿も、決して無理はされませぬよう」


里での一週間はあっという間に過ぎていった。

 二人は別れ際に、昨晩書いたという手紙と、栗の渋皮煮を渡した。栗は二人で山へ栗拾いに行って取ったものだと言った。


「甘いの好きでしょ。無理はしないで」


 奏司はそっと遠慮がちに抱きしめる。その挨拶が、御子姫には散歩時の告白と重なった。


 帰りの車中で、御子姫は二人からの手紙を読んだ。奏司からは結婚誓約書なるものが、豪鬼からは囲碁と将棋の問題。

 御子姫が手紙を見ながら笑うのを見て、剛拳は奏司との関係性が一山越えたのを感じた。


「剛拳、帰りに穢の研究をしとる(げん)のところへ寄ってくれ。報告書が出来上がってきとる」




 眴の報告書は、今までにないほど厄介な内容だった。


 アカメの正体は、他の穢に負の気を送り込み、強大化を促す媒介だった。

 大河の水底(みなそこ)(よど)みに潜み、そこから得た負の気を放出し続ける。それによって穢は強大化し、やがて巨大化する。


 ザコと呼ばれていた穢も、一匹ずつが巨大化することで、大きなうねりや波を生じさせる。それによって船の安定性は損なわれ、運航にも支障を来すおそれがある。


 ザコ以外にも、トグロが巨大化することで、船の動力部や機動部に巻き付き、航行不能に陥る事例が確認された。


 今後想定される危険として、イタチは巨大化により側面から船体へ体当たりし、転覆を招く可能性がある。

 カマについては、巨大な鎌状の部位によって帆を切り倒し、船体そのものを損傷、沈没に至らせる可能性がある。


 今以上に強力な輪響紋による攻撃が必要となる。

 アカメは決して水底から上がってこないため、祓うには水面のザコの壁を切り裂き、その下に潜むアカメへと届く強力な一撃を正確に撃ち込まねばならない。


 アカメへの攻撃に失敗した場合の危険性は極めて高い。アカメは元来大型の穢であり、水底から船底めがけて浮上するだけでも、船を転覆させる可能性が大きい。

 そのため、アカメへの攻撃には遠方からの大砲(おおづつ)が有効と考えられる。


 あのザコでさえ、巨大化したものが数を頼みに押し寄せれば、津波のように堰を越えてくるおそれがある。

 大河は絶えず波立っており、船を大型化しなければ、波だけで持って行かれる危険がある。


 今のところ、そこまでの兆候は見られない。だが、アカメを見つけるたび一つずつ確実に仕留め、祓っていかねばならない。放置は、そのまま脅威の増大へ直結する。


 以上より、アカメの放置は単体の脅威に留まらず、大河全体の穢の変質と戦況悪化へ直結するものと考えられる。


 ──大砲が必要じゃ、それも数が!


 今、大砲が撃てるのは、双子の(つい)と御子姫と異形衆。

 それも気を集めて強力な一撃で祓うのは、かなりの消耗戦になる。

 短時間での出陣を休み休みしなければ、気力が持たず気枯れを起こして穢に容易に呑まれてしまう。危機的な状況にすぐに陥るのが目に見えている。


 眴による報告書は、まず上部の者にのみ公開され会議が開かれた。

 今はまだ五年大戦の真っ只中である。影響は最小限に抑えたい。


「どうじゃ」


「どうじゃ、じゃないですよ! これは大変なことになりますよ」


(となえ)、落ち着いて考えてみてくれ、一の大将がこれしきで動揺してどうする」


「そう仰られても、姫様。大砲が使えるのは数えるほどしかおりません」


「先のことは考えるな。今の大戦をどうするかを考えてほしい。とにかく、事故が起こらぬよう、終わらせたいのじゃ」


「御子姫殿の御力を拝借できるなら、大将が大砲を撃ったところへ間髪入れず大砲を撃っていただく。これなら、水底のアカメへと届くかもしれません」


 駿英(しゅんえい)の案に御子姫は頷いた。


「もちろんじゃ、頭数には入れてくれ。そうそう、言うのを忘れておった。当面、異形衆の大船は出陣せぬ。一月(ひとつき)ほど、よろしく頼む」


 今回の大戦(おおいくさ)の目的は、水面を跳ねるカマ、大カマの掃討に加えて、水面から上に害をなす穢を、できる限り押し並べて祓うことにある。

 そこでアカメと一戦交えるにしても、物見(ものみ)が見ただけの資料では、実戦でどのような急変が起きるかわからない。


「アカメを狙うのは、遠方から様子を見つつ行う。アカメは大きい。底におるので底まで術が届かねば意味がない。最初は私の采配でやってみよう。その後にまた会議じゃ」




 出陣の時が迫ってくる。

 出港前に、大祓詞が朗々と奉じられる。

 今日の一の大将船は御子姫と剛拳の対という、特別な配置になっていた。


「今日はまず雁行(がんこう)で様子を見つつ進む」


 閘門(こうもん)を経て、常世(とこよ)へと出陣したところで、ザコを一掃しながら進んでいく。しんがりには二の船が付き従う。近くで跳ね上がるカマを一撃で祓いつつ、無事に進んできたところで、先方遠くにイタチの群れが見受けられた。


(となえ)鶴翼(かくよく)あまり広がらず、揃えて大砲(おおづつ)、行けるか」


 御子姫の合図とともに、二人の大砲がイタチの群れを祓う、同時に全船から前方や側面に術が続けて撃ち込まれていく。その時だった、水面がゆらりと波が起きた。

 高く飛んでいた御子姫には見えた。船団の真ん中の底の方に光る赤い目が。


「剛拳、アカメじゃ。船団の真下に潜っておる」


「これでは手も足も出ませんな」


「全体に速く進め!」


 御子姫はアカメがどう出てくるのかを見たかった。通常通り、前方のザコを一掃しながら進む。アカメは底に消えていった。

 突然、船団の最後尾から大声が聞こえてきた。巨大なトグロ、それも今まで見たことのない大きさのものが船を巻いていた。


「剛拳、祓うぞ」


 御子姫は後方へ向かって大砲を一撃命中させ、トグロを祓った。


「怪我人確認!」


 船が追いついてきたところで、後ろを見直すとアカメらしき大きな穢が見えた。


「唱、後方の波の揺らぎがわかるか! あの下底の方にアカメがおる! 私に続けて大砲を放て!」


 御子姫は、剛拳に輪紋の連弾を指示した。

 大きな輪紋が繰り出される、そこに御子姫の響紋が一瞬にして幾重にも打ち込まれる。


「いくぞ!」


 ひときわ高く飛んで、上から叩きつけるよう大砲がアカメめがけて放たれる。すぐ唱が同じ箇所に撃ちつける。

 そこへ御子姫が特大の大砲を放った。大河の水面を割って閃光が底の方まで穢を祓う。


「よし、祓えた。こやつはアカメの中でも中程度じゃろう」


 ふうっと御子姫は息を吐く。剛拳もかなりの力を使ったようだ。


「どうじゃ、これが続いたら、八時間祓い続けるのは無理じゃな」


「そうですね」


 その後は今まで通り、できる限りカマを中心に祓いながら帰途についた。

 しんがりを務めながら、御子姫は後方を高いところから見ていた。大河全体の様相を見ていた時、大きなトグロが船を追い驚く速さで迫ってきた。


「なんじゃ、この動きは」


 訝しみながら様子を見ているうちに、トグロは機動部を巻いた。船が止まる。

 御子姫は、口を開けニタリと笑う(ケガレ)を見た。


「笑った……」


 御子姫はすぐさま一撃で祓ったが、何やら得体の知れないおぞましさを感じた。


 あれはいったい、なんだったのだろう。


 (ケガレ)は事象であるはず。それが変わってきている。

 姿形ではない。穢が穢である理そのものが、変わり始めていた。


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