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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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俺の気持ち

 奏司のその話を聞いて、御子姫は切なくなった。


 奏司の体の中には二つの魂が混在してしまっているのだろうか。 

 果たして、そんなことが起こりえるのか。 それとも、幼い時から、何かされたのだろうか。

 なんとかしてやりたいが、誰かがどうにかできるものでもないだろう。


 その晩、御子姫は奏司と手をつないで寝ることにした。

 奨弥が帰ってきたように思えて、つい嬉しくなり、安易に受け入れてしまった。己にも非がある。


 翌日、朝起きてから、豪鬼はやっぱり不機嫌だった。

 奏司は暦を見せ、次に来た時の楽しい話をしてなだめていた。二人とも背丈はもう自分と変わらない。


「さあ、豪鬼、お見送りしてくれるか」


 以前は家の中へ入って出てこなかったが、今はぎゅっとして御子姫が車に乗るのを見ている。

 奏司も同じように抱きしめた。だが豪鬼のように無邪気にはできなかった。

 二人は並んで車を見送った。


「豪鬼は来るたびに成長しておるな。今日は奏司と一緒に手を振っておった」


「そうですな。もう十三です。この時期の成長ぶりは目を見張るものがあります」




 相槌を打ちながら、御子姫はふいに声を落とした。


「のう、剛拳。奏司のことなんじゃが……」


「どうかされましたか」


「もしかすると、あれの中には奨弥がおるのかも知れん」


「なんと……」


「いや、そうとは限らぬが……」


 剛拳は黙ったまま、御子姫が次に何を語り出すか待っていた。

 剛拳の内には、あの日以来なんとしても消え失せない疑念が、残り続けていた。

 ただ、そこまで愚かなことを、あの奨弥がするとは想像できなかった。将隆でさえ手を出さなかった、禁術。


 御子姫は、今回里へ来てからの奏司の様子を話し始めた。

 己が(ケガレ)を落としきれず連れてきてしまったこと、それが奏司の内に眠っていた何かに触れたのではないかということ。

 

 そして、昨夜のことをぽつりぽつりと語った。


「奨弥のようじゃった……前々から似たようなことをするなと……親子とはこんなに似るものかと思うておった」


 剛拳はそのまま、視線を落とし御子姫の話を聞き続けた。


「奏司は、己の内に潜む何者かに気づいておるようじゃった。その得体の知れぬ者が前へ前へと出てくるようになって、恐れ始めておった。ところが、昨夜は……」


 剛拳は、やがて重く息をつくと呟いた。


「やはり、そうでしたか」


「そなたも気づいておったのか」


「はい。時折、目つきが変わることがありました。それが奏司殿のものか、あるいは……ただ、私にはそこまでは考えが及びませんでした」


 御子姫はしばらく黙っていた。

 窓の外を、穏やかな風景が流れていく。


 ──考えが及ばぬと言った


 あるいは、奨弥のものかどうかまでは、ということか。

 やはり、剛拳は何かを知っている。しかし、己の口からは決して話せぬことなのだろう。そういうことは、この一族の中には多すぎる。


「初めは、微笑ましくもあった。それゆえ、つい嬉しくて受け入れた、私が悪かった。まだ、思い切れておらんかった、私のせいじゃ」


「御子姫殿……」


「私がもっと用心しておったなら……じゃが、もうそうは言ってはおれぬ」


 御子姫は、剛拳へ振り返った。剛拳は、すぐには答えなかった。その間を、御子姫は剛拳の答えとして受け取った。


「……長殿に、聞くしかあるまいかの」


「それがよろしいかと」


「そうじゃの」


 御子姫は窓の外へ顔を向けたまま、そっとため息をついた。


「私は女じゃゆえ、男の気持ちはわからぬ。まだ子供とばかり思っておった。じゃが、放ってはおけぬのじゃ。どうにか、奏司の気持ちを大切にしてやりたい。剛拳、おまえにばかり申し訳ないが、力になってくれるか」


 ある時から、奏司の御子姫に対する無邪気さがなくなり、時折見せる眼差しが男のものになっていることに、剛拳は気がついていた。


 それが奏司のものなのか、それとも奨弥のものなのかわからないが。そういう兆候はあったのだろう。

 ただ、決定的な何かがあったとすれば、御子姫が語ったことしかないだろう。


「はい。私から長殿に話しておきます」


「そうしてくれるか」


 剛拳は、己が犯した過ちを吞み下す他なかった。あの時、仏心さえ出さなければ、すべては変わっていただろう。




 本家に戻ると、双子が図面を持ってきて御子姫に広げて見せた。将隆亡き後、美琴が一人住んでいたが、必要ないと手放すことにした。その屋敷をもらい受け増改築を施し、双子が対と一緒に暮らせるように工事している真っ最中である。


「よいか、大戦が終わったらすぐに住める状態でないといかんのじゃぞ。注文ばっかりつけておって、大丈夫なのか」


 御子姫は出陣が始まると、(となえ)の対の船、言葉(ことは)の対の船と交代に乗り指導していた。

 唱と駿英の対は、相変わらずぎこちなかった。原因は、それとなく頭領代理から聞かされた。そうか……と、御子姫はため息をつくほかなかった。


 それとは裏腹に、言葉と駆成の対はもっとも若い対であるのに、皆の手本となる戦振りだった。

 それに追随する若い対が増え始め、御子姫が理想とする形には近づきつつあった。


 御子姫は万が一の場合に備えて、奨弥を退院させ奏家本家へと移した。

 奏司のことがあったので、御子姫は奨弥と向き合うことに決めたのだ。


 この抜け殻のようになっている奨弥はいったい何なのか。

 ここに奨弥の魂は残っていないのか。


 異形の里へ連れてくる直前まで、奏司は父奨弥と一緒にいた。

 剛拳もその辺りを気にしていたようで、奏家本家にいる間、御子姫と交代で面倒をみることにした。


 いつも通り、常世での戦を終え、御子姫は今度こそしっかりと禊をしてから里へ向かう準備をした。

 異形の里では、御子姫からの連絡で到着が夜半になると伝えられた。奏司は里長の家へ行くと御子姫へ電話をかけ直した。


「御子姫、明日でいいから。無理して今日来なくても」


「豪鬼が怒るじゃろう」


「大丈夫、御子姫がこの前みたいになっちゃうよって言ったらダメだって」


「豪鬼がそう言ったのか」


「そうだよ。あの時、御子姫が黒いのに食べられていたの、俺たち見えたんだ。だから、来なくていいから。明日でいいんだよ」


 翌日、御子姫が到着すると、豪鬼も奏司も変わらずにこにこと笑って出迎えてくれた。 二人とも背は御子姫より高くなっていた。

 豪鬼は相変わらずがっしり抱きついていたが、奏司は軽く抱擁すると疲れてないか御子姫を気遣った。


 奏司は、御子姫の荷物を里長の家へと運んだ。


「どうしたんじゃ」


「俺と豪鬼はもう子供じゃないよ。豪鬼も剛拳と暮らすんでしょ。だから今度から男同士で寝泊まりすることにしたんだ」


 剛拳と一緒に当面の食料を里長の家へと運び込むと、奏司は御子姫に向かってニカっと笑った。

 豪鬼もクーラーボックスを運び終わると大声で「ごはん!」と言った。


「ご飯は食べにくるから」


 食後に豪鬼が昼寝をしている間、奏司は御子姫に話があると散歩に誘った。


「急にビックリした?」


「そうじゃの……時の経つのが速すぎて、置いてきぼりを食らったようじゃ」


「俺、もうすぐ十四になる。御子姫が常世ってところで戦している間にどんどん時が経ってる。俺が十六になるのも、あっという間だよ」


 奏司はゆっくり歩く御子姫を振り返りながら歩いていた。

 そして御子姫が追いついてくると、そっと抱きしめた。不器用な、唇を重ねるだけの口づけと、見つめる瞳に、間違いなく奏司の気持ちがそこにあった。


「俺さ、ケジメがつけたいんだよね。御子姫への気持ち、俺にとっては大事なんだ。俺の中にいるもう一人の俺がどうして生まれたのか、俺にはわからない」


 奏司はどこかふっ切れているようだった。


「けど、そんなことはどうでもいいんだ。俺は、俺が御子姫のこと好きだっていう、俺自身の気持ちだけは誰にも譲れないんだ」


 あの時、子供のように己を持て余していた姿はなく、心まで少年らしく成長した奏司が御子姫の目前にいた。


 「だから、俺は十六になったら、元服式やって大人の仲間入りして、御子姫と結婚する。そしたら堂々とやる! そんで御子姫の隣に立てる男になるんだ!」


 大まじめな奏司に、御子姫は嬉しかった。

 ただ、そこまではっきり(ちぎ)る宣言されると、思わず笑ってしまった。

 奏司はどれほど長い間、まじめに考えただろう。


「笑うなよ!」


 嬉しくて、御子姫は少し涙が出てきた。


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