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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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兄弟の出会い

 御子姫が怪我をして入院中に、洋巳の逮捕と奏将隆の急逝という大きな出来事があった。


 洋巳については、御子姫への傷害および殺人未遂、客の男性への傷害、違法薬物の所持と使用、子供への虐待および殺人未遂と、罪状が重なった。

 実刑は免れぬだろう。さらに薬物中毒も重く、勾留入院となっている。

刑罰が確定すれば、御子姫の元へ連絡が来ることになっていた。


 奏司については、次期総代と見做され奏家本家が後見役を引き受けることとなった。 

 父親である奨弥は、高熱で入院したのち意識障害が残り、療養型別棟病床へと移って継続治療にあたるよう手配された。


 将隆については、病死ということで葬儀は家族の希望で密葬となった。

 街では新型の流行性感冒に加え、まったく未知な新型感染症の流行が顕著となっていた。そのため本葬も見送られることとなった。


 一時代、一族を震撼させるほどの権力を持ち、意のままにしてきた男の最期はあっけなかった。

 奏家本家も、将吾が後継を辞し、奏司を次期総代とすることでようやく落ち着いた。


 奏司は神守(かもり)の姓を離れ、(かなで)を名乗ることになった。

 そして、異形の里で隠されて育っていた豪鬼は、正式に剛拳の養子となり、(かなで)豪鬼(ごうき)となった。 


 住まいは引き続き異形の里で、剛拳が引退後一緒に住むこととなった。

 その前に、奏司は十六になるまで、豪鬼と一緒に異形の里で暮らすことに決まった。


 奏将隆の死後、将隆には街の銀行に巨額の隠し財産があることが発覚した。もちろん生前に、すでに御子姫が確認していたものである。

 本来なら個人資産ではなく一族のものである。だが、相続人の妻美琴の提案で、奏家女子のための無償の職業訓練学校を開校する運びとなった。


 これで中学卒業後、二十歳まで六年間分け隔てなく学ぶことができる。それに伴い、奏家にはびこる悪習も一掃されるだろう。


 若年の輪経紋衆には、戦の基礎を学ぶ場を新たに設けることとなった。厄年で戦さ場から引退した者の中から技能に長けた者を選び、今しばらく協力してもらい戦い方の基礎を身につけるのだ。


 本来は各家々で行われてきたことを、十六になったら全員本家へ寄宿し学ぶ。そのためにしきたりとも折り合いをつける必要が生じてきた。


 御子姫は、しきたりはしきたりとして、どうして脈々と受け継がれてきたのかを考える良い機会だと言った。


「たとえしきたりがあろうと、その中ででき得る限り、皆の心持ちを大切にできたらと思うておる。(つい)についてもそうじゃ。

 好き()うとる者同士がおるのなら、なるべくそれで対を組めるようしてやりたい」


 御子姫はもう二度と、洋巳のような存在を出したくはなかった。


 ただ、人の本質が問われることでもある以上、決め事を作ったからとして、そううまくいくものではないだろう。




 奨弥が落ち着いたのを見届けて、御子姫は退院した。

 奨弥の魂は、多分奏司の中にあるのだろう。だが、奨弥は御子姫の目の前で生きている。

 たとえ、ただそこで息をしているだけでも、髪も伸び髭も生える、捨て置くことなどできようもなかった。


 奏司は異形の里へ行くまでの数日を、父奨弥と過ごすことにした。

 里へ向かう当日には、迎えが来ることになっていた。




 御子姫は久しぶりに響家本家へ帰ってきた。

 双子だけでなく、奥に仕える者たちも、敷地内にいる者が皆総出で出迎えた。


 特にいつもは素っ気ない(となえ)などは声をあげて泣いていた。

 御子姫が切られて入院したと聞いてから、たとえ大丈夫だと知らされても顔を見るまで心配で仕方がなかったのだ。


「泣くな、心配かけてすまなんだ。おまえが泣くとはな」


「泣きますよ! 人をなんだと思ってるんですか……」


 泣きながら怒っている様子は、いつもの唱に戻っていた。


「ええっ! 大戦(おおいくさ)ですか。また、どうして」


「ぱしゃん、ぱしゃんと跳ねるやつがおるじゃろう、大きゅうなってきて。(えら)洗いをしとる。あの鰓が鎌のようになっておって危ないというのじゃ」


「どうしてわかるんですか」


神守(かもり)衆の中に、(ケガレ)の研究をしとる者がおる。今のうちに片付けておきたい。あとは、(まつりごと)との兼ね合いじゃ」


「新しい流行病(はやりやまい)ですね」


 御子姫はうんともすんとも言わず、ただ笑って受け流した。


「ところで、二人の(つい)のことなんじゃが……どうじゃ。里の親元へ縁談は来とらぬか。それとも剛拳が……」


「姫様、うちの祖母が申しますには、双方本家本元に祖還が起きているのではとのことです。対は、なるべく縁遠くから選んだ方が良いと」


「そうか。なるほどの。私の父親は末筋だが力だけはあったそうじゃ」


 本元が祖還ならば、己の出自にも意味がある。御子姫は、それもそうかも知れないと思った。


「大戦の準備に入る前に、異形の里へ用があるので行ってくる。今度は二人には留守番をして、私の代わりを務めてもらう、よいな」


「えっ、ええーっ!」


「それと、私が帰ってくるまでに、対の候補を決めておけ」


 先程の何倍もの驚きの声が、双子から返ってきた。そう言い残して、御子姫は剛拳を伴い異形の里へと向かった。




 剛拳は奏司を連れに来た。

 御子姫は、奏司に頼まれ奨弥を病院へ入院させてからも、一度として顔を見に行ったことはなかった。

 どれほど手厚く世話をしようとも、会おうとはしなかった。

 なぜなら、それを奨弥が望んでいないように感じていたからだった。


「御子姫! おまたせ!」


「おう、なんじゃ。結局、そう呼ぶことにしたのか」


「うん、それよりさあ、剛拳が俺のこと(わか)って呼ぶの、なんとかしてくんない」


 御子姫の笑い声とともに車は異形の里へと出発した。


 里に着くと、里中の者がやってきて御子姫たちを出迎えた。説明はしていたが、不思議なことに奏司はそれほど驚かなかった。


「えーっ! だって剛拳と変わんないじゃん」


 皆大笑いしながら、奏司を快よく迎え入れてくれた。さすがの御子姫も、奏司の一言に剛拳を見ながら大笑いしていた。


 里の皆も、異形と呼ばれることには然程(さほど)気にしていなかった。

 初めて御子姫が里で、真っ白な髪に紅い瞳の姿となり、己こそが異形だと言ってから、姫様と一緒だと喜ぶようになっていた。

 御子姫もまた、それほど里の皆のことを好いていた。


「では、長殿。今日から豪鬼の家の結界を解きます。どうか、よろしく頼みます」


 御子姫が頭を下げようとするのを、里長は引き止めた。そして、にこやかにこう言った。


「賑やかになる」


 御子姫は奏司を連れて結界まで来ると、剛拳が大荷物を抱えてやってくるのを待った。


「この向こうに、その豪鬼っていう子がいるんだ」


「そうじゃ、ちょうど奏司と同じくらいじゃ。よろしく頼むぞ」


 御子姫が結界を解くと、急に目の前が開けたので、豪鬼は驚いて立ち尽くしていた。


「豪鬼、豪鬼! やってきたぞ、どうした」


 いつもなら走って飛びついてくるのが、突然の変化にどうやら恐怖が先に立ったようだった。

 豪鬼は、慌てて家の中へ入ってしまった。


「豪鬼! びっくりさせたか、すまんかった! 豪鬼!」


 御子姫は声をかけながら家へと向かっていった。奏司も一緒に呼びかけ、豪鬼の名を呼んだ。

 一番よく効いたのは、やはり剛拳が持ってきたクーラーボックスのようだった。玄関の上がり(がまち)に置くと、部屋の奥から豪鬼が顔を覗かせた。


「ひめ! にく! きた!」


 そう繰り返し言いながら、大きな男の子が出てきた。


「うわっ! でかっ!」


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