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御子母の惑星─みこものほし─第一部 運命  作者: 宮生さん太


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19/42

決意(二)

 戦の日程が組まれた。


 今回から双子も剛拳との特訓の成果を見て、二の船で出陣することとなった。二人は出陣当日は、戦装束に着替えると御子姫に挨拶に来た。

 初々しい初陣の姿だった。


「お母上から、(たすき)が届いておる。護符が縫い込まれておるようじゃ。自分でできるか?」


 御子姫は手伝ってやりながら、唱え言を していた。


「姫様、心配しすぎ」


「見てて、いっぱい祓うから」


 御子姫は自分の初陣の時を振り返ると、笑みがこぼれた。まるで自分の時のようだと。わくわくして、胸が高鳴った。


 今はどうだろう。頭領としての責任感が先に立つ。

 それよりも──力を出し切っての戦ができない歯がゆさに揺れていた。


 奨弥を愛おしく想ってはいる。だが、思い切り力を出し戦をしたい自分もいる。

 いつからか、御子姫は奨弥の力量に合わせて術を使うことへの、言い表し難い葛藤を抱えこむようになっていた。


 双子に船を間違えず乗るよう注意すると、剛拳は目立つから大丈夫だと返ってきた。二人の明るさは、御子姫にとっては心が弾む、そう、胸踊る出来事が起こりそうな明るさだった。


 御子姫は、奨弥が待つ一の船へ乗る。

 閘門(こうもん)が開き、広い閘室(こうしつ)に船団が入る、第一の門は閉ざされ、第二の門が開くのを待つ。


 御子姫はここで皆に(げき)を飛ばした。


「戦頭領として言う。そなたらはよく鍛錬した、あとは実践あるのみ、己に自信を持て!」


 第二の門が開く。船団は(ケガレ)の待つ大河へと出立した。


 御子姫は誰よりも高く飛べる。その高さにも劣らぬ高さに、双子がいた。横目にチラリと見ると、御子姫は思わず笑ってしまった。


 ──あれでは剛拳は大変じゃ


 御子姫が珍しく笑っているので、奨弥は初陣の頃を思い出した。あの頃はまだ十分受け止めてやれていた。

 戦を経るごと、驚くべき早さで御子姫の力量は上がっていった。

 穢が強くなればなるほど、まるで追いかけるように強さを増していく。


「二の船! 前方右手、イタチの群れじゃ!」


「一の船! 左手向こう、イタチじゃ、大きいぞ! 陣形整えよっ!」


(となえ)言葉(ことは)、見えたら剛拳に伝えるんじゃ!」


 戦の采配をしつつ、次までに双子を物見役に育てようとか、主船に付く副船の大きさを主と同じにせねばとか。目まぐるしく考えが巡る。

 そして、前方ど真ん中にイタチの群れが見えた。


「奨弥! 行くぞ! 前方真ん中」


 御子姫は経紋を繰り出してくる。奨弥にはすぐにわかった。

 一度、御子姫の最大に近い力を受け止め、受け止めきれず輪紋が崩れそうになったことがある。それ以来、御子姫は決して無理な術をかけようとしない。


「連打する! 続けて頼む!」


 ──二人でできる戦い方をすれば良いのじゃ


 奨弥は輪紋を繰り出すことは速く、幾重にも続けて重ねて出すこともできた。

 ただ、単発で大砲(おおづつ)のような、強大な力を受け止めることには長けていなかった。


 御子姫の最大の強みは、限りのない強大な経紋を繰り出し、一撃にして穢を一掃してしまえる術の放出だった。


 術を繰り出しイタチを祓うと、見渡せば船団皆それぞれしっかりとイタチの群れに対応していた。

 船に巻こうとするトグロにも船尾の高い所から術が繰り出され、持ち場を決めて訓練した成果が現れていた。


 二の船を見れば、双子が剛拳の指示に従い、くるくると代わる代わるに術を繰り出していた。

 あの二人の速さと強さを巧みに操っている、剛拳の経験と力量は御子姫から見ても大したものであった。


 戦は見える範囲のイタチの一掃を見届けて、無事帰港となった。


 閘門(こうもん)を閉め、閘室(こうしつ)で点呼を取ると、皆一斉に誰からともなく、おおーっ!! と(とき)の声が上がった。

 それだけ、十二分に力を奮うことができた証でもあった。


 ただ一人を除いて。

 奨弥は、二の船での双子と剛拳の戦ぶりを見ていて、なんとも言えない己の不甲斐なさを感じていた。



 御子姫はいつものように、奨弥の(みそぎ)を行なっていて感じた。

 今日の戦は、今までと違い組織立って訓練し学んできた成果が、こんな形で得られた。奨弥の傷や怪我が、段違いで少なかった。


 ──今までいったいどれほど無理をさせてきたのか


 御子姫はもっと早くにこうすればよかったと思い知った。

 たとえ人の何倍も力があるからといって、一人でできることには限りがある。

 戦は一人でするものではない。それを少しずつ気がつかせてくれたのは、誰でもない奨弥だった。


「今日は傷が少なくてよかった」


 御子姫がぽつりと漏らした一言に、奨弥は苛立ちを覚えた。


「それは、どういう意味だ」


 思いもかけない、奨弥からの強い口調で返ってきた言葉に、御子姫は何と返していいのかわからず押し黙った。


「今までは深手を負ったり、おまえの術にまで傷を負わされて大変だったからな!

 そりゃあ、そうさ。今日は全体で戦えたし、双子と剛拳も見事だったよ。

 だからかすり傷程度で済んだんだ、それくらいわかっている!」


 奨弥はまくし立ててから、はっと御子姫を見た。

 宙を舞っていた白い髪は床に散らばり、紅い瞳からは涙が溢れ、一筋つーっと頰を伝った。唇は薄く開かれ、ただ呆然としていた。

 奨弥は慌てて起き上がり、御子姫を抱きしめた。


「悪かった、すまない。……泣かないでくれ、俺が悪いんだ」


 ──俺が、力がないばかりに、いや、俺が……


 御子姫を愛しすぎたがゆえに、執着が芽生え、さらに傍目にはどう映るのか恐れるようになった。

 もっと突き詰めれば、釣り合わぬ末に奪われ失う羽目になるのではないかという、形容し難いどす黒いものが心をを占めていた。


 一晩中、奨弥は腕の中に御子姫を抱いて眠った。寝顔を見つめながら、いつまでもあれこれ思いあぐねていた。

 このままではどうすることもできない。今までどれほどの時間、思いを持て余し、考えを巡らせてきただろう。


 そうして、奨弥はとうとう、ある結論に至った。


 数日後、奨弥は剛拳の家へ行くと、洋巳の居所を知っているか尋ねた。


「どうかされましたか」


 思いつめた表情の奨弥に、剛拳は何か良くないものを感じた。奨弥は包み隠さずすべてを話し、剛拳に相談した。


「なんということを……」


「もう、これしかないんだ」


 剛拳は深いため息をつくと、奨弥の憔悴しきった顔を見て、またため息をついた。


 ──本家の(もん)は、結局皆、同じなんかの……


「わかりました。先日いただいた文書をお預けします。大切にしてやって下さい」


 たとえ仮初めの夫婦とはいえ、奨弥と一緒になれるのなら、ほんのひとときでも幸せだろう。剛拳はそう考えて、奨弥に洋巳の居所を知らせた。



 奨弥は街に出たついでに、御子姫の大好きな和菓子を買って響家本家を訪れた。数日、奨弥は姿を見せなかった。 あのようなことの後なので御子姫は余計に心配していた。


 奨弥が来たと双子が知らせに来ると、一緒に部屋を飛び出し玄関まで迎えに出た。

 奨弥が手土産だと、風呂敷包みを手渡すと、大喜びして双子が奥へと持っていった。


「おかえりなさい」


 言うが早いか、御子姫は奨弥に飛びついた。奨弥はにっこり笑うと、ただいまと言って御子姫の頭を撫でた。


「まるで子供のようなはしゃぎっぷりだな」


 だって……と、御子姫は指を折って数えると、こんなにも来てないと言いたげに奨弥に見せた。


「すまなかった、用事があったんだ。その代わり、姫の大好物をたくさん買ってきたよ」


 部屋では双子が待ち構えていて、何から召し上がるかと土産を広げていた。

 双子に選ばせてから全部片付けさせると、二人きりになったのを見計らって、御子姫は奨弥に抱きついた。奨弥も髪を撫でながら、御子姫の顎をくいっと上げると、静かに唇を重ねた。


「今夜は泊まっていかれますよね」


 御子姫の可愛らしい念押しに、奨弥は笑って頷いた。


「風呂に入って、夕餉を取って、少し酒でもいただこうかな。

 一緒に風呂に入るか」


 今さらのように真っ赤になる御子姫に、奨弥は愛おしさが込み上げてきた。


 双子がお茶と一緒に土産の菓子を運んできた。奨弥が双子の戦ぶりを聞きたいといって、四人でお茶を楽しんだ。

双子は嬉しそうに、先日の初陣を話していた。


「まるで姫の初陣を思い出すようだよ」


 奨弥は、それがもう随分と昔のことのようだと語った。

 御子姫は、ほほほ……と笑みをこぼしながら、たった三年前のことだと言った。


 夕餉のあと酒を飲む奨弥へ、御子姫は奨弥が来ないのでどれほど切なかったか、お酌をしながら話していた。

 奨弥は酒を飲みながら、御子姫を抱き寄せた。突然ぎゅっと抱きしめると、奨弥は苦しそうに言った。


「愛している。気が狂いそうに、愛している」


「奨弥……」


 御子姫を放し、もう少し酒を飲もうと、奨弥は先日の戦の話を始めた。御子姫を膝に抱き、自分が強くなるのを待ってくれと話していた。


 酒が尽きるまで飲むと、二人は寝屋へと移った。

 その夜の奨弥は、これ以上なくやさしかった。


「どうか、待っていてくれ」


 奨弥は、愛してる、愛してると、幾度となく唱え言のように繰り返し呟いていた。


「愛してる、誰にも渡さない」


「奨弥……」


 果てしなく、夜は更けていった。


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