代表⑪
大会が開催されている地から日本に帰国すると、最後の負け方があまりにもということで否定的な評価を下した人もいたものの、全体的には「よくやった」と声をかけてもらえるなど歓迎ムードだった。葛城さんにブーイングが浴びせられる状況をつくらない働きができたことに改めてほっとした。
現地に応援にきてくれた奴もいたが、多くの友人や知人とはこのタイミングで顔を合わせた。
「すごいっすよ、先輩。七ゴールなんて、得点王だっておかしくない数字を記録して。しかも、たった三試合でですからね」
そう言ってくれたのは外原だ。向こうから誘われて、都合により二人きりで、高級そうな寿司屋でごちそうになった。
「でも、ラーセンがいたから、俺なんて完全に霞んだろ」
俺のゴール数はランキングの二位だったけれども、トップのラーセンが十五点も決めやがったので、得点王が惜しかったという感じはちっともしない。
「それより、お前、ちゃんとやってるのか? 人様の子どもなわけだし、生徒のこと、大事にするんだぞ」
「大丈夫っすよ、小学生みたいに幼いんじゃなくて、大人とほとんど変わらないんですから。それより、見ててください。必ずや『高校サッカー界に外原あり』ってなくらいの強いチームをつくりあげてみせますんで」
外原は現在、高校の体育教師になり、サッカー部の監督を任されていて、選手時代の自分たちは達成できなかった全国大会に教え子を連れていくのが目標だという。
俺としては、サッカー以前に「こいつが教育者なんて気が気でならない」との心配の感情がまずわき上がってくる。見た目は、昔の印象とあまり変化がなく、真面目という雰囲気はまったくないし。
しかし、進学校である俺たちの高校の生徒だったのだから勉強面に関しても問題はないだろうし、俺がその東明大付属を卒業した後、キャプテンになってしっかり部をまとめていたと別の後輩が教えてくれていたので、安心していいのかもしれない。
今日だって、かなり金額がいきそうだから「支払いは俺がするよ」と申しでたが、わずかも受け入れる態度をしない立派な社会人なところを見せたしな。
「そうか。サッカー部の活躍、楽しみにしてるぞ」
大手の企業に勤めている、鷲尾さんとも二人だけで会って、すごく喜んで祝福してくれたし、俺にとって最大の恩人と言える中学時代のサッカー部の仲間たちとは、みんなで居酒屋に行ってワイワイ騒いだ。もちろん工藤もそこに加わった。
「チームのベスト八に、二試合連続ハットトリック、おめでとう。野島、本当にすごくて、かっこよかったよ……」
そう口にして、水本は涙を見せた。あらら。
「水本、俺と会ったとき、けっこう泣くよな。そういうキャラだったんだ?」
俺が茶化して言うと、水本は軽くムッとした。
「何よ、キャラって」
ところが、またすぐにしんみりとなって、ハンカチで目もとをぬぐった。
「だって、嬉しいじゃん。本当に……」
すると、男どもが小声で俺の耳もとに次々しゃべった。
「泣くのは、お前だからだろ」
「え?」
「ちゃんと幸せにしてやれよ」
「はあ?」
「しっかりね、野島くん」
工藤まで。
「何言ってんだ? お前ら」
「水本は絶対にそういう気持ちだ。お前はどうなんだよ?」
羽村がそう問いかけた。
「どうって……」
中学生時代の水本はショートヘアでボーイッシュな感じだったが、今は肩より少し長い髪で女らしくなって、今日最初に目にしたとき、ちょっとドキッとしてしまったけれども……。
それからおよそ一年後に、俺と紗希は籍を入れた。
恋だの愛だのなんて柄じゃないから、その経過を詳しく述べるつもりはない。ただ、一言、彼女はとても良い妻だ。もちろん、そう説明しないと怖いから言ってるんじゃないぞ。
また、同じ時期、オファーを受けて、俺はイングランドのビッグクラブであるマンチェスターに移籍した。
公私ともに充実した状態で、次のワールドカップは三十歳と、ピークと言っていい年齢で迎えることになる。
目指すのは、何点取るだとか得点王といった個人の記録はもはやどうでもよく、今度こそ日本代表を優勝させる、それだけだ。




