代表⑥
アルゼンチン戦の当日、葛城さんがスタメン発表の際に、フォワードで俺の名を告げると、誰も言葉を発したりはしないものの、選手みんなに若干の驚きと動揺があるのが見て取れた。
なかでも、工藤はその度合いが大きかった。当然だろう。自分がピッチに立つ気でいたはずだ。
直後に葛城さんは、俺に昨日した説明を行った。今日のゲームが大会における一番の勝負どころで、そのために自らがエースと判断している野島を温存しておき、この試合から起用するプランであった、と。
確かに日本はこれまでのワールドカップにおいて決勝トーナメントの一回戦で散々痛い目に遭ってきたし、相手が優勝候補の筆頭と言ってもいいくらいに強敵のアルゼンチンであることも踏まえれば、オーソドックスにぶつかっていくだけでは劣勢に立たされた場合に「またか」といった心理に陥ったりもしかねず、奇襲に近いほどの思いきった戦い方をしようという監督の気概はうなずける、などと考えたのではなかろうか。また、偉そうな言い方になってしまうが、葛城さんは指揮官としてだいぶ板についてきて、話しぶりが良かったのもあると思う。メンバーの大半は今の語りで納得した様子で、一気に落ち着いた雰囲気になった。
ミーティングが終わって部屋を後にし、俺は工藤に近寄った。
「工藤……」
ただ、こいつもそうだったように、名前を呼んだ後で、なんて声をかけたらいいか困ってしまった。
すると、工藤がこっちに視線を向けて口を開いた。
「正直、ショックだよ」
「……ああ」
だよな。
「でも、野島くんはこの悔しさを二度も味わったんだもんね。それに、野島くんがこれ以上ないくらい大事な今日の試合の先発に選ばれたのが嬉しいのも本当の気持ちだからさ、頑張ってよ」
その言葉を口にし終えると、気持ちを整理できたのか、心の底から応援してくれているとわかる表情になった。
ありがとう、工藤。
「おう、任せとけ。お前のぶんまでじゃないけど、俺の持っている力をすべて出しきって、必ず勝利をつかみ取ってみせるからよ」
「うん。頼んだよ」
工藤は相好を崩した。
よし。絶対に勝ちにつながる働きをしてやるぞ。




