代表②
ワールドカップの開催の前の年の十二月に組み合わせの抽選が行われて、日本は一次リーグをC組で戦うことになり、対戦する同じグループの国は、フランス、セネガル、パラグアイに決まった。
フランスは当然のことながら強くて優勝候補にあがるほどだが、セネガルとパラグアイに関しては、過去にはワールドカップでベスト八まで進出するなど、弱小国ではまったくないものの、予選通過がギリギリであったりと今回のチームは良いとは言えない。日本はフランスにも決して劣っていないけれども、実績からフランス有利と語る割合が高い海外のメディアやサッカー関係者たちも、他の二カ国より日本は上だと分析しているのが圧倒的なことがそれを証明している。
二位までは確実に決勝トーナメントへ進め、三位でも別の組の三位の国々との比較による成績次第で突破できる可能性があるので、見通しは明るく、くじ運に恵まれたと言って差しつかえないだろう。
初戦でぶつかる相手はフランスだ。引き分け以上なら、油断は大敵とはいえ、このステージを勝ち抜くのは堅い。
そうはいっても、敗北となった場合は、「もう負けは許されない」という心理的なプレッシャーがのしかかってくる。なかでも大差をつけられての敗戦となったならば、自分たちの力に対しての不安も出てきて、一層平常心では戦えなくなるおそれがあるので、ドローは頭に入れずに絶対に勝つんだというくらいの気持ちで臨んで、好ましい結果を得なければならないのだ。
この大事な一戦が迫ってくるなか、俺たち選手はみんな、決勝戦のような緊張感を抱きつつ、集中して練習に励んだ。
そして、肝心のフォワードのスタメンは誰なのかはっきりしないまま、ついに葛城さんの口から先発メンバーが発表された。
ゴールキーパー、ディフェンダー、ミッドフィルダーの順で、出場するプレイヤーの名前が次々に呼ばれていく。
「最後、フォワードは……」
ゴクリと俺は息をのんだ。
「工藤」
……そうか。
一瞬メンタルが落ち込んだが、すぐそばにいて視界に入った工藤が俺以上に暗い表情をしている。もちろん選ばれて嬉しくないはずはなく、プレッシャーによるものとも違う。俺のことを思ってくれているのだ。
こいつ……。
他の中学時代のサッカー部の仲間たちみんながそうだったけれども、この男も善い奴だとしみじみ感じた。
「工藤」
俺が声をかけると、悪いことをしたわけじゃないのに、工藤は申し訳なさそうにこっちに視線を向けた。
「おめでとう。頑張れよ」
俺が右手を差しだすと、それに応えて握手を交わしたものの、工藤は変わらず冴えない顔つきだった。
ミーティング中なので、その場はそれだけにして、終わって部屋を出てから再び俺は工藤に話しかけた。
「お前、俺を気遣ってくれてるんだろうけど、ワールドカップの本大会でのスタメン、それもフランス相手にだぞ。めでたいんだから、ちゃんと喜べよ」
「いや、だって……」
確かに、反対の立場だったら、俺もこいつと一緒の振る舞いをするかもしれない。一度ならず二度までも、大きな大会の直前に自分がレギュラーを奪い取るかたちになったのだから。
もちろん自分の中に残念な気持ちはある。しかし、高校の最初のサッカーを離れた時期に、俺を心配して自宅までやってきて、立ち直らせてくれた中学のときのメンバーたちとのことがあるから、もう己を見失ったりはしない。
工藤は引っ越していって居なかったので、あのやりとりのことを知らないし、きっと誰からも聞いていないだろう。俺はそれを話した。
「だから、俺は大丈夫だ。それに、さっきお前がまるで自分のことのようにショックな顔をしてくれて、感動してなおさらダメージが少なくて済んだよ。だいたい、俺たちはもうプロで、こんなことは日常茶飯事だろ。嬉しかったけれど、しっかりしろよ。日本が勝つために、お前の活躍は必要不可欠なんだからさ」
「……うん」
工藤が少し精神の安定性を取り戻した感じになった。もう一息だ。
「お前がもし、俺のことをいつまでも気にして、本番の試合で不甲斐ないプレーだったら、『こっちは先発で出られないのに何やってんだよ』って悔しくて、ずっと根に持つからな。覚えておけよ」
俺は、冗談を言う調子で、笑顔でそう口にした。
「……わかった。僕、フランス戦でいつも通り精一杯やるよ。もちろん僕にとってもワールドカップは夢の舞台なんだから」
ようやく工藤の表情も緩んだ。
「よし。頼むぞ」
相当悩んだのであろう葛城さんや、何より、応援してくれる日本の人たちのために、本当に頑張ってくれよ。




