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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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代表③

 フランス戦の日がやってきた。

 日本の先発で出場する仲間たちみんな、引き締まった良い顔をしている。海外、それもハイレベルのヨーロッパでプレーしている選手がほとんどで、慣れない土地の厳しい環境で鍛え抜かれただけあって己に自信があり、優勝回数が多いブラジルだろうがドイツだろうが、どこの国を前にしても物怖じなんてしないだろう。

 日本は今やサッカーの強豪国という肩書に十分値する力を備えており、ワールドカップで優勝するという目標を笑う者がいたら、反対にその人のほうが馬鹿にされるくらいである。この一戦で、必ずや望ましい結果をもたらしてくれるに違いない。

 グラウンドに整列し、国歌斉唱が行われて、日本のキックオフとなり、審判が試合開始の笛を鳴らした。

 相対するフランスのチームで一番に名前が挙がるのは、過去には世界最優秀選手と双璧を成すビッグな賞であるバロンドールを獲得したことがある、リシャールというプレイヤーだ。

 テクニシャンで、攻撃的なミッドフィルダーのなかで中央に配置されるトップ下の見本のような選手であり、プレースタイルの変化によりファンタジスタという言葉が死語になりつつあることから「最後のファンタジスタ」とも称される。

 俺たちの世代だと、子どもの頃に遊びでサッカーをやっているとき、彼が得意として代名詞的なフリーキックの際に、自然と誰かが「リシャール」と口にするほどの存在で、クラブでも代表でも長く活躍し、年齢的に「ワールドカップは今回で最後になる」と本人も明言している。仕方がないことではあるけれども、俺はクラブでの対戦経験もないし、ぜひとも同じピッチに立って戦いたかった。

 だが、その天才リシャールのプレーはいまひとつだった。抜群の精度を誇っていたスルーパスなどでミスが目立ったのだ。

 大舞台を両手でも収まらないくらい踏んできた彼であるし、様子からしても、緊張によるものではないのは間違いない。元々衰えを指摘する声はあった。そのために「今大会のメンバーに選ばれないのではないか」とのサッカー関係者のコメントもちらほら聞かれた。しかし、フランスの監督は盤石の信頼を置いているようで、だからこその、この重要な初戦でのスタメン起用なのであろう。

 何にしろ、その影響もあって、試合は日本の攻める時間が多くを占めた。一昔前ならば、逆だった。こっちがフランスの猛攻をなんとかしのいで、どうにか少ないチャンスをものにしようという展開になったはずだ。

 とはいえ、フランスの今の基本的なスタイルは堅守速攻で、こういう状況もさほど脅威ではないのかもしれない。事実、日本は惜しいところまで幾度もいきながらゴールをすることはできなかったのだ。

 そして、前半残りわずかの時間である四十分過ぎ。またしても日本がゴールに迫ったものの得点できなかったボールがフランスに渡ると、二十二歳と若くてスピードがある、左サイドのフォンテーヌという選手が駆け上がって、一気にこちらがピンチに陥った。たまらず、うちのチームのセンターバックである松山が、フォンテーヌを止めるので足をかけて倒した。

 松山が計算して、今のフォンテーヌに対するファウルを犯した場所はペナルティエリアの外であり、PKではなくフリーキックだ。当然のようにリシャールが出てきて、ボールをセットした。

 少し距離はある。そうはいっても、かつての彼ならばほぼ百パーセント決めたのではというくらいで、直接ゴールに入れるのも不可能ではない位置だ。

 だが、調子の悪い今日のリシャールでは期待は持てない。チームのために、これまでならば必ずシュートだったこだわりを捨て、パスなど他のプレーを選択することも十分考えられた。

 ところが、リシャールの足から放たれたボールは、全盛期とたがわぬ綺麗な放物線を描いて、日本の右上隅のゴールに吸い込まれたのだった。

 嘘だろ——。

 日本の選手、監督やコーチ、それにサポーター、みんなが心の中でそう叫んだのではという感じで、頭を抱えたりして、茫然となった。さっきまでの冴えないプレーは何だったのか。こっちの油断を誘う目的の芝居だったのでは? と思ってしまうが、まさかそんなことはないだろう。

 ともかく、そのすぐ後に前半終了となり、ショック状態で後半を迎えることになってしまった。

 くり返しになるが、この試合で黒星がつくのは痛い。あとの二試合を「勝たなければ」という重圧がかかるからだ。そして得点を取りに前のめりになることで、カウンターでの失点というパターンにはまりやすいし、だからこそグループステージの初戦で敗北を喫した国が決勝トーナメントに上がる確率はものすごく低いのである。

 なので、なにがなんでも引き分けには持ち込みたい。しかし、そのための一点を奪いにいくと、この試合でカウンターからの失点となりかねないから、非常に難しいシチュエーションだ。

 それでも、中途半端な攻撃でフランスゴールをこじ開けるなど無理な話だ。ゆえに、日本はメンバー総掛かりで、必死にフランスに襲いかかった。けれども、なかなかゴールを決めることはできなかったのだった。

 が、焦りも出始めてくる、後半の二十五分が経過した頃だ。コーナーキックのボールを、マークしている相手のディフェンダーに競り勝った工藤が頭で合わせて、同点ゴールをついにもぎ取ったのだ。

「よおしっ!」

 フィールドプレイヤー、それに俺がいるベンチ内も、日本の選手全員がド派手に喜びを体で表現した。

 やってくれたぜ、工藤。幾多の困難をくぐり抜けてきている日本の他のメンバーたちも、さすがに失点した直後だったハーフタイムは少し気分が落ち込んでいたなか、あいつの目は獲物を狙うハンターのようにギラギラしたままだったので、絶対に得点してくれると俺は信じていたのだ。本当に頼りになる男だ。

 それからというもの、とりわけリシャールを下げてスタミナのある選手が投入されてから、フランスの攻撃が活発になった。向こうも日本の今の実力はわかっていて、リスクを冒すよりも、立場が同じと言えるだけに、ドローで構わないと考えてよさそうだが、自分たちのほうが力は上なのだと、こちらにも周りにも見せつけたい、サッカー大国のプライドもあるのかもしれない。

 一方で日本も、追いついた勢いに加えて、勝てるならばそれに越したことはないので、チャンスの際は果敢に攻めていった。

 激しい攻防がくり広げられて、もう少しでゴールというシーンも何度かあったものの、両チームとも勝ち越し点を手にするには至らずに試合は終了となり、勝ち点一ずつを分け合ったのだった。

 見応えのある、素晴らしいゲームであり、日本はやはりやれるんだと確信を得た試合となった。


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