海外⑤
自分の人生史上最大と言っていいビッグニュースだったけれども、先に述べてしまうと、この日本代表初選出はたいした出来事にはならなかった。ノルウェーとアイルランドという、今乗りに乗って好成績を残しているヨーロッパの強豪二カ国を招いて、国内で親善試合が行われたのだが、俺はまったく出番がなかったのだ。
しかし、「本当に俺は日本代表の一員になったのか? 夢じゃないよな? テレビのドッキリなんかでもないよな?」とベンチで完全に舞い上がっていたので、出場しても何もできなかったのは目に見えていたから、監督にも先輩のメンバーたちにもサポーターにもお粗末なプレーをさらすことにならず、よかったかなとも思う。
ただ、戦術を聞いて頭に入れたり、他の選手と連携やコミュニケーションを取ったりと、練習はしっかり参加したわけで、今回は顔見せ程度でも意味はあったはず、いや、意味があったかどうかは、今後また代表に呼ばれるだけの働きをクラブで持続できるかどうかにかかっているのだろう。
それに、この期間の帰国全体として捉えると、俺にとって非常にでかいものだったのだ。というのは——。
「工藤! 久しぶり!」
俺はその男を目にするなり大声で言った。
「野島くーん!」
相手は走って近づいてきた。
そう、工藤と再会を果たしたのである。所属先である釧路FCなど、居る場所ははっきりしているのだし、連絡を取ることができて話をしたところ、向こうが代表がいる場所にやってきてくれる運びになったのだ。
「ほんと、久しぶり。それにしても、さすがだね、野島くん。一緒にプレーしていた当時からすごかったけれど、やっぱり只者じゃなかった。ヨーロッパで大活躍して、日本代表なんてさ」
工藤は、プレー同様、試合中の激しさを見ると別人じゃないかと感じてしまう、柔らかい物腰に変化はなかったのだった。
「お前のおかげだよ」
俺は笑顔で言葉を返した。
「工藤蒼太という存在が、俺をここまでのサッカープレイヤーにしてくれたんだ。ありがとう」
「え? 本当かい?」
同じく笑みを浮かべていた工藤の顔が、少し曇った。
「あの中学での大会前のこと、僕も富田先生に対して『それはないんじゃないか』と思ったけど、当事者でもある自分がそう発言するのはどうなのかなというのが頭に浮かんで黙っていて、良かったのかずっと引っかかってたんだ」
「そうか。悪かったな」
こいつも苦しんだんだな。
「って、俺が何かしたわけじゃないけど、あの後のいつまで経っても立ち直れなかった自分の情けない姿を考えると、やっぱり俺もお前を傷つけちまったかなって思うよ。ほんと悪かった。ごめんな」
俺は頭を下げた。
「いいよ、いいよ、全然、謝罪なんてしてくれなくて。ショックを受けたのは当然だよ。その後の次々に伝わってくる野島くんの活躍のおかげでだいぶほっとできていたし、大丈夫だったんだって今きちんと確認できて、完全にすっきりできたしさ」
「そうか。じゃあ、もう、あのときの件は、お互いに今につながる良い思い出ってことでいいかな?」
「うん」
工藤は、にっこりと微笑んで、大きくうなずいた。
俺は話を続けた。
「そうだ、俺のことをさすがだなんて褒めてくれたけど、お前だって、大学で結果を出して、Jリーガーだもんな。すげえじゃんか」
「でも、野島くんは、海外のクラブで大活躍して、日本代表だもん。一歩も二歩も先を行っていて、僕なんかとは格が違うよ」
「お前だってすぐに代表に呼ばれるだろ。逆に、俺はこれが最初で最後かもしれない。何にしろ、厳しいプロの世界、負けないように頑張ろうな」
「うん。そして、できることなら、一緒に日本代表に選ばれるように」
「ああ」
そうなれば最高だ。
一方で、もしも現実となったときは、またポジションを争うライバルになるわけだけれども。
それでも、きっと嬉しいほうが上回るんだろうな。




