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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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22/35

J③

 決勝は、リーグで三位だった横須賀ノーリミット戦。

 ここは、上位の成績だったのだから強いのはもちろんのこと、J1にも在籍歴があり、勢いだけではない、熟練の戦い方が身についた、タフで本当に手強いクラブだ。また、今シーズンのJ3の全二十チームで最少失点だったほど守備力が優れている。

 高松との試合はこっちが順位が上だったのでホームだったけれども、今度はアウェーで応援の多くは向こうになるうえに、九十分で同点の場合、延長戦はやらずに横須賀が昇格になるという、不利な条件も備わっている。ディフェンスに力があり、したたかさがある横須賀は、スコアレスドローでの勝ち抜けをもくろみ、徹底して守りを固めてくるなど、かなり過酷な試合展開が予想できた。

 ところが、ふたを開けてみれば、それは杞憂に終わった。

 俺も一ゴールを決めたが、この試合のルシオは今までに増して素晴らしいプレーだったのである。いわゆる「キレッキレ」というやつだ。

 いつも通りの華麗なドリブルで散々魅せておいて、小馬鹿にしたようなキーパーの股を抜くシュートに、繊細なタッチのループシュート、さらには一転して、角度のないところから、火を噴くような威力のシュートをサイドネットに突き刺した。あいつのショーかと思ってしまうくらいの活躍で、三点を取って、この大事な一戦でハットトリックを達成しやがったのだ。

 ディフェンダーの貢献も当然大きいとはいえ、相手のキーパーはリーグ最少失点だったというのに、ルシオがその気になればもう一、二点は簡単に取れたという空気すらある、あまりの無残なやられ方で、精神的にも相当参ったのが手に取るようにわかり、俺は試合中にもかかわらず、ついその選手に同情してしまいそうになった。

 こうして、四対一の圧勝で、我らがSC秩父はめでたく、クラブ史上初となるJ2入りを決めたのだ。

「やったー! ルシオ! すげえよ、お前! 天才!」

 試合終了の笛が鳴って、俺が抱きつくと、さすがにこのときはルシオも堂々と喜びをあらわにした。

「ヘヘヘ」

「もうさ、こんなにゴールできるんだったら、あの監督と揉めたのは何だったんだって話だよ」

 俺は冗談交じりの口調で言ったのだが、ルシオは真面目な顔で答えた。

「いや、得点能力があるお前がいたからだろ。マークがそっちに行くから、俺が自由になれる時間が多かったんで、じゃなければここまで得点を積み上げることはできなかったはずだ」

「そうか? だったら、俺に感謝しろよ」

 俺は、真剣な表情で褒めてくれて気恥ずかしかったこともあり、変わらずくだけた調子でしゃべった。

「してるさ」

「えー? マジかよ?」

「もちろん本当だ。監督に命じられて、『どうして俺が日本なんかで守備や黒子的な役割をしなければならないんだ』と腹が立っていたんだ。『そんなもんは残りの日本人たちがやって、俺にパスをよこせば、いくらでも点を取ってやるのに』ってな。でもお前は、俺と同じくゴールを奪う力があるのに、わずかの不満も口にせず献身的なプレーを行い、俺のためにさらに自己犠牲を払う姿勢を見せてくれた。お前のおかげで、『チームが勝ってないんだから、自分もやらなきゃいけないんだ』って、それまでのうぬぼれていたところから意識が変わったし、ディフェンスや地味な動きも練習や実戦で何度もやったことで上達したんだ。今後のサッカー人生のためにも、とても良かったのは間違いない。ありがとう、暁斗。お前のことは一生忘れないよ」

 ルシオにそこまで言われて感激したし、俺も態度をちゃんとしたものに改めて言葉を返した。

「そんなことを言うなら、俺のほうこそありがとうだよ。お前の圧倒的に質の高いプレーを目の前で見続けて、とにかく勉強になったし、技術面で少しでも近づけるようにって、たくさん刺激ももらったんだ。俺だってお前のことを忘れない、っていうか、すごすぎて、忘れたくったって忘れられないよ」

「そりゃあ、褒めすぎじゃないか?」

「いやいや、自覚があるだろ? 自分はすごいって」

「フッ。確かにな。とはいっても、ブラジルには俺くらいの奴はうじゃうじゃいるから、負けないように、俺はサッカーの才能のかたまりだって、自己暗示をかけてるようなところもあったんだ。お前に今そこまで言ってもらえて、自信がついたよ」

「そうか、よかった。自信は大事だぞ。厳しいプロでの生活、上手い選手は数えきれないくらいいて、心が折れないようにさ」

「ああ」

 ふと前方に目をやると、腕を突き上げるなど、監督がどのチームメイトよりも激しくサポーターの声援に応えていた。

「何だ、ありゃ」

 思わず俺はつぶやいた。

「あの人、酔っ払ってるんじゃないのか?」

 ルシオが呆れてそう続けた。

「ハハハ。普段は威厳を保つために懸命に抑えてるんじゃないか? あれが本来の姿なのかもな」

 俺たちはまたも監督の振る舞いで笑い合ったのだった。


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