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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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20/35

J①

 高校までは、俺のサッカーの能力はプレイヤーのなかで上位だった。けれども、プロでは確実に下、それも最下層だ。シュートの精度、パスの正確性、ドリブルやトラップの上手さなど、どれを取っても。唯一勝負できると誇れるのは、ポジショニングといった、ゴールへの嗅覚だろうか。

 もちろん技術的なレベルを上げる努力は欠かさないが、人一倍遮二無二プレーするしか、この世界で生きていけない。逆に言えば、徹底的にやれば活路はあると思っている。そうあってほしいと願っているのではなく、冷静に考えてだ。プロでも、それも世界じゅうで知られている有名な選手であっても、ゴールを量産するなど活躍していながら、テクニックはたいしたことがない人は大勢いるのだ。何より、かつて俺を追い抜いたように、工藤がそれを証明している。

 その必死な意識を常に持ってやっていたところ、六十代も半ばの歳にしてガタイが良く、「ごつい」や「いかつい」といった言葉がぴったりの、名前は奥田さんである、監督に評価してもらえるようになっていった。当然それは、結果がすべてのプロの世界、中学校時代の富田先生みたいに、頑張っているのだから認めてやろうという配慮的なものは一切ないのは間違いない。得点の確率を上げる、また、献身的な動きがチームにプラスといったことでだろう。

 そして、入団二年目の今年、徐々に試合で使ってもらえ、最も重要なリーグ戦でも出場が増えていったのである。

 一方で、俺の前には大きな壁が立ちはだかっている。今シーズンからうちのメンバーに加わった、フォワードで同じポジションの、ブラジル人であるルシオの存在だ。

 さすがはブラジル人と言ったら、たとえ褒め言葉でも人種で人を判断するのは善くないのだろうが、とにかく軽やかな身のこなしによる見事なボールさばきで、テクニックに関して俺は彼の足もとにも及ばない。

 どうしてこんなに力のある選手がJ3のクラブに加入するのだ? と思うけれども、それこそブラジルにはもっと秀でたプレイヤーが山のようにいるに違いない。

 とはいえ、二十一歳という低い年齢なども考慮すれば、やっぱり場違いなレベルの高さだ。過去にはJリーグから世界的なビッグクラブへ羽ばたいていった選手がいるが、そうなる可能性が大な、ダイヤの原石と言えるだろう。そんな優秀なプレイヤーとポジションを争わなくてはいけない俺はツイてないともいえる。

 しかし、ルシオのほうも盤石な状況ではない。というのは、奥田監督は組織的なプレーを好み、選手に規律を求める。それに、秩父は弱いチームだからどうしても守備第一になって、守りを優先した戦術を採るのだが、ルシオは攻めたがり、一人でゴールに向かっていってしまったりするので、監督は怒り、ルシオも反発してと、対立に近い関係に陥っているのである。

 おかげでという表現はふさわしくないけれども、ルシオに代わって、あるいは、ルシオと一緒に、というかたちで、厳しいはずの俺の試合に出る機会は反対に増加していったというわけだ。

 ただ、チームとしてはそんな状態はもちろんよろしくない。事実、成績は伸び悩み、J3の二十チーム中、ずっと下位の十チームの範囲にいる。

 他の選手の多くは、ルシオをなだめるときもあるが、あまり深くは関わろうとしない。それは、自分たちもルシオの勝手なプレーに腹を立てていたり、監督を敵に回す立場になりたくなかったり、とりわけ、ルシオの出番が減れば俺のように試合に出場できる割合が増えるといった気持ちによるものではないかと思う。人生が懸かったプロであり、いつクビを言い渡されるかわからないのだから、彼らを悪いと決めつけることはできない。

 でも俺は、試合中は熱くなって自分勝手な行為をしてしまうけれども、ピッチを離れればおとなしいくらいで、人間的に嫌な奴ではまったくないルシオを孤立させたくなかったし、応援してくれるサポーターのためにも、チームにとって好ましくないその現状を見過ごしてはいられなかった。外原が聞いたら、「やっぱり先輩は甘いっすね」と言われてしまいそうだが。

 事あるごとにルシオに話しかけ、食事に誘ったりしたのだ。

「ルシオの気持ちもわかるけど、監督のことも少しは理解してやれよ」

 俺のほうが学年は一つ下だが、ルシオのほうから対等に接しろと求められたので、そうしている。

「きつく言うのは、チームを勝たせなきゃいけないからで、ルシオを嫌ってるわけじゃないんだから」

 俺の妥協を促す言葉に、ルシオは反論した。

「そんなことを言うなら、俺は稼ぐために日本にやってきたんだ。こっちだって結果を残さなきゃならないからやっていることで、別に監督が憎いわけじゃない」

 ルシオには日本人の血が少し入っているらしい。それもJリーグでプレーする一因であるようだ。なので、ペラペラとまではいかないものの、日本語も会話は問題ないくらい使えるのである。

「まあ、そうだけどさ」

 俺の仲介的な振る舞いは成功とはならずに、その後もルシオと監督の険悪な関係は続いた。

 俺はどうしたらいいかをもっと突き詰めて考えた。

 今の我がSC秩父の基本的なフォーメーションは、俺とルシオのツートップ。俺が最前線で、ルシオは一・五列目だが、ほとんど二列目と言っていい。それは、俺の長所がゴールを奪えるところであるのと、ルシオは守備も上手いしキープ力もあるので、中盤を支配でき、試合を優位に運べるからだ。監督はルシオをしょっちゅう叱責するけれども、能力の高さはちゃんと買っているわけだ。しかし、ルシオ自身はフォワードとして攻めたいし点を取りたい。単なるわがままではなく、その力も十分備えている。

 ならば、高校のときに外原を活かそうと取り組んだように、俺がポストプレーをすることで、ルシオの攻撃の機会を増やせばいいのだ。

 ただし、それを監督は望んでいない。多少こなせるようになった高校時代はまだしも、プロの一流のディフェンダーを相手に、得意でもない俺のポストプレーが通用するのか不安もある。

 でも、やるしかない——。


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