高校⑫
そうと決まったら、みんなにすぐに報告しなくては。
まず鷲尾さんのもとに電話をかけたところ、つながって出てくれた。
「もしもし」
「先輩、俺ですけど、Jリーグ三部のSC秩父というクラブから入団の誘いの声がかかりました! うちは特に親父がサッカー選手なんてやっていけるわけがないとずっと反対する姿勢だったんですけども、話し合ってどうにか認めてもらったので、晴れてプロの選手になります!」
「おー、そうか。やったな」
あれ?
俺は違和感を覚えた。鷲尾さんは、喜んでくれてはいるものの、驚いている感じがまったくなかったのである。
それで、俺はピンときた。
「もしかして、鷲尾さんが何かやってくれたんですか?」
「あ、いや……まあ、いいか。隠すことじゃないよな。そう、実は、Jリーグのなかで、優秀な選手を獲得する資金力が乏しく、攻撃力に問題を抱えているところを重点的に、野島の、得点シーンを中心としたプレーの映像や、どういった選手かという特徴や長所などアピールポイントを記した資料を用意して、売り込みにいったんだ」
ええ?
「マジですか? そんなの、門前払いされたりしたんじゃないですか?」
「確かに、まるで相手にしてくれないクラブもいくつもあったよ」
「そりゃ、そうですよ。どのクラブでも何人ものスカウトが日本じゅうのアマチュアの選手を調査してるんでしょうから、そんなもの必要ないって判断して」
「うん。だから、俺がやったことのみで事がうまく運ぶはずはない。オファーしてもらえたのは、お前にそれだけの力がちゃんとあったからだよ」
鷲尾さん……。本当にこの人と出会えてよかった。
「ありがとうございます。感謝してもしきれないです」
「そんなに恩を感じることなんかないよ。だって、高校で俺が誘って、サッカー部に入る気になったお前が『プロを目指す』と明言したとき、俺は『サポートする』って言っただろ? その約束を守っただけなんだから」
だからって。もう鷲尾さんは高校を卒業して、近頃は連絡さえほとんどしていなかったというのに。
「では、また。失礼します」
鷲尾さんとの通話を終えた俺は続けて、高校の現メンバーたちはクラブから誘われたことをすでに知っているので全員に入団するとメッセージを入れて済ませ、鷲尾さん以外の先輩と、中学時代のサッカー部の仲間、それに、サッカーの指導をしてもらった方たちなどに、電話やメッセージをして伝えた。
そして、俺にとって鷲尾さんと並んで特別というくらい大事な存在である水本には、会いにいくことにした。高校生になってサッカーをやめていた俺のもとに率先して足を運んでくれたから、こっちも同じようにしたかったのだ。
水本の自宅まで行き、インターホンで呼んで、本人が外に出てきた。
「どうしたの?」
用件をまったくわかっていない水本は、ちょっと心配そうな表情で、やってくるなり俺に問いかけた。
「俺、Jリーグ三部のSC秩父というチームからオファーをもらったんだ。つまりプロの選手になるから、その報告」
「うそ……」
水本は目を見開いた。
「やったねー! すっごーい!」
そう言って、一気に顔をほころばせた。
「ハハハ。高一のサッカーをやめてたときに、わざわざ俺ん家に来てくれただろ? だから、中学時代の他の奴らには何人もいるから電話やメッセージにしたけど、水本には直接伝えようと思ってさ」
「そんな。私も同じでよかったのに……」
すると、水本は涙をこぼした。
「よかったね……」
「おいおい、なにも泣くことはないだろ」
「だって、すごいよ、本当に。頑張ったんだなって」
「でも、一年やそこらで解雇されるかもしれないよ。もちろんそんなに簡単に放りだされないように必死こいてやるけどさ。そうだ、水本はどうなんだ? 今後は」
「私は、だいぶ上達したとはいえ、サッカーは、もう限界だし、十分楽しんだから、高校で終わり。大学に進んで、何か別のスポーツをやろうかなって考えてる」
「そうか」
「ほんと、頑張ってね。前に、誰だっけ? 口にしたけど、野島は私たちのヒーロー、誇りなんだから」
「ハハ。その言葉は立派すぎて、重荷になっちゃうけどな。俺をサッカーへ引き戻してくれた恩を忘れず、みんなを代表するつもりで、精一杯やるよ」
「うん。ずっと応援してるから」
水本はやっと笑顔になった。
これでみんなに伝え終え、すっきりした。
そうして、小学生のときにセレクションで挫折を味わった俺は、念願のプロのステージに上がっていったのだった。




