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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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17/35

高校⑩

「ん?」

 相対している関ヶ浦の出場する面々から、違和感を抱いている声が漏れたのが聞こえてきた。

 その訳は、俺たちが奇襲を仕掛けたのだ。

 本来は、フォワードの俺が一番前で、外原はトップ下なのでそこから少し後方だ。その二人がポジションを交換した位置に立っているのである。

 向こうはそれをカモフラージュ、つまり動揺させようという意図の見せかけで、本気ではないと判断したに違いない。「落ち着けよ」といった具合のやりとりだけで、どう対応するか特別話し合う様子はなかった。

 けれども、真っ向からぶつかるだけでは分が悪いのが明らかな俺たちは、このかたちを密かに練習していたのだ。

 試合が開始してまもなく、俺がスルーパスを出し、外原が関ヶ浦のディフェンダーの裏を取って、あっという間に先制点を奪った。

「よし!」

 さらに、すぐさま従来のフォーメーションに戻し、相手が混乱している隙をついて、今度は外原からパスを受けた俺がゴールを決めることに成功した。

「ナーイス!」

「いいぞ! いいぞ!」

 立て続けの得点で、二―〇。

 とはいえ、相手は巨人というくらいの存在。これでようやくイーブンの気持ちで、油断はしていなかった。

 が、関ヶ浦の力はその上をいった。

 相手のシステムは、ワントップということになっているけれども、実質はスリートップで、その三人すべてに高い得点能力がある。しかも、それにとどまらず、ボランチやディフェンダーたちまでいつでもゴールを狙えるほどの、超攻撃型のチームだ。

 俺たちもオフェンスのほうが評価されるものの、守備陣も悪くは決してない。特に、ともに後輩の、石井と祖父江という二人のセンスはなかなかだ。

 それでも、前半の時点で三点を決められて逆転を許すと、後半にも二点を取られた。途中からこっちは十一人全員が守ることに専念した状態だったというのに、本当に関ヶ浦の攻撃はすさまじい。

 スコアボードは二対五で、試合は終盤に突入した。普通に考えれば、もう勝つ見込みはない。正直、俺も戦意を失いかけた。ふと見ると、外原が悔しくて泣きそうな表情になっている。

 時計を確認したところ、残り時間は十分を切った。通常ならばなおのこと気持ちは沈むが、その数字を目にして、俺ははっとなった。

 中学生時代の、大会前の早見中との一戦で、同じ三点ビハンドから、工藤は三ゴールを決めてドローに持ち込んだのだ。それをできないようじゃ、俺はあのときの工藤にすらまだ追いつけていないということではないか。高校の三年間、何人もの人たちが助けてくれたし、必死に頑張ってきたというのに。

 そう思うと、気迫がわき上がった。

「まだだぞ! みんな! 諦めんな!」

 叫ぶように声をかけ、中盤の位置でボールをもらうと、うちの部員のなかで最も冷静にプレーできる、右サイドハーフの瀬戸が、ゴール前に駆け上がっていくのが目に入った。俺はその方向へボールを送った。

 関ヶ浦のディフェンダーの一人が瀬戸の動きに気づいて、マークしつつ、同じくボールを自分のものにしようとした。二人が競り合う。

 だが、両者ともわずかに届かず、すり抜けたボールは、二人が邪魔になったことでキーパーの反応が遅れ、そのままゴールに吸い込まれた。瀬戸へのパスが第一の選択肢ながらも、あわよくば直接ゴールにというのも考えた位置に蹴ったのだけれども、その狙いが成功した。

 瀬戸がすぐにボールを拾って、試合が再開すると、まだ二点リードしていて油断が感じられる相手から俺はボールを奪った。

 その瞬間、俺は自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。ゾーンに入ったということだろうか。向こうのプレイヤーが二人同時にやってきたが、ボールを取られる気はまったくしなかった。ポストプレーができるようになるために、フィジカルを鍛えた成果もあったろう。

 そして、その二人と、さらにもう一人をドリブルでかわすと、ゴールの左上の隅に、ミドルシュートを叩き込んだ。

「よしっ!」

 理想通り、いや、理想以上のゴールで、俺は思わず声をあげたが、喜んだのは一瞬だけ。逆転したわけではないのだから。

 ただ、今の一点で、外原の顔つきがガラッと変わった。泣きそうだったくらいに落ち込んでいたあいつの魂が目覚めたのだ。それは他のメンバーたちも一緒で、すぐにボールを自軍のものにした。相手も、次に決められたら同点なので、同様に気合いが入ったものの、焦りもあって動きはあまり良くない。

 俺のところにボールが来た。しかし、防ごうと猛然と体を寄せてきた敵の選手の足に当たって失った。

 だが、俺は取り返す。そうして、中盤でボールがこっちのものになったり向こうのものになったりという状態がしばらく続いた。

 やばい。時間がない——。

 少しして、ようやくまた俺はボールを手に入れた。前方に目をやると、外原がゴール前に向かって走っている。

 関ヶ浦のディフェンダーの二人が近くにいて不利だけれども、もう得点の可能性があるのはここしかない。俺はパスを出した。

 ボールを三人が取りにいった。それで接触し、外原が倒れた。

 ファウルで、PKだ——。

 すぐにそう思ったほど、これ以上ない見事な転倒の仕方だった。

 が、審判の笛はならなかった。

「なんでだよ!」

 怒った外原が、勢いよく立ち上がり、殴らんばかりに審判に向かいかけた。

「やめろ! 外原!」

 その俺の声で我に返った外原は、急ブレーキといった感じで足を止めた。

 そして、試合終了となった。

「先輩……」

 外原は、再び泣きそうな表情になって、俺のところに重い足取りでやってきた。

「よくやった。ありがとう。ここまで来れたのはお前のおかげだよ」

 頭をなでながらそう言うと、外原の目から涙がこぼれ落ちた。

「みんなもよく頑張った。このチームは最高だ」

 これで、俺を含めた三年生は引退だ。目標の全国大会出場はならなかったが、高校のサッカー部での日々はとても充実したものだった。あのとき、再びサッカーをやると決断して、本当によかった。


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