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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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高校⑤

「俺、サッカーをやめていたけど、もう一度サッカー部に入る。そんで、プロの選手を目指すから」

「なっ……」

 親父がそう驚きの声を発した。

 俺を除くと、家族は両親と兄貴の三人で、その全員がびっくりした表情になったが、なかでも親父と兄貴がセレクションのときのようにネガティブな発言をする気持ちがあるのが見て取れた。水本に話した通り、二人は優等生タイプで、俺も勉強はできるけれども、もっと賢いのだ。

 先手を打とうと、俺は素早く言葉を続けた。

「将来はプロサッカー選手にしかなるつもりはないとまでは考えてないよ。無理だって感じたら、ちゃんと諦める。ただ、高校卒業までは本気でプロになる意識で取り組むから。うちは付属だから大学進学はそんなに大変じゃないし、ちょっと勉強はおろそかになるかもしれないけれど大目に見てほしいんだ。まあ、許さないって言われても、もう決めたから、変える気はないんだけどさ」

 少しの間、沈黙状態になった。

「わかった。お前はバカじゃない、叶わない夢をひたすら追うなんて愚かなまねはしない、って信じてるからな」

 親父が、俺の強い意志を感じ取ったのではないか、妥協してという本音がかいま見えつつも、そう言ってくれた。

「俺も」

 兄貴が口を開いた。

「邪魔するようなことをして、一生恨まれたりするのは勘弁だからよ。大人になったら忙しくてそんなに何かに打ち込んだりできなくなるんだろうから、今のうちにやっときゃいいさ」

 しぶしぶ認める様子の二人には気づかれないようにといった感じで、母さんが「よかったね」という笑顔を俺に見せてくれた。

「ありがとう」

 俺は全員に言った。

 よし。これであとは精一杯サッカーをやるだけだ。


 登校した俺は、すぐに二年生の教室へ向かった。

 何組かを知らなかったけれども、近くにいる数人の二年生に訊いて、鷲尾さんのもとに足を運んだのである。

「先輩!」

 廊下から、教室内にいた鷲尾さんに呼びかけた。

「ああ、野島くん。どうしたの?」

 俺があまりに勢いよくやってきたものだから、鷲尾さんは何事かと少々引いた態度で、そう返事をしながら近づいてきてくれた。

「俺、やっぱりサッカー部にお世話になることにしました。どうか、よろしくお願いします!」

 思いきり頭を下げると、鷲尾さんの顔にぱあっと笑みが広がった。

「本当かい?」

「はい」

「うんうん、よかった。こちらこそよろしく」

 鷲尾さんに求められて、俺たちは握手を交わした。

「それで、笑われるかもしれませんが、やるからにはプロを目指します」

 先輩は、その常識外れというくらいの大きな目標に、戸惑ったりするどころか、もっと喜んだ。

「ああ、いいね! 達成できるように、俺、全力でサポートするからさ。あ、ちょっと待ってな」

 鷲尾さんは教室に入っていってしまった。

 が、すぐに別の男子を連れて出てきた。

「こいつ、俺と一緒のクラスでサッカー部の上本っていうんだ。とりあえず一人だけだけど、よろしく」

「俺、遅れてで申し訳ありませんが、サッカー部に入部させてもらいます、野島です。よろしくお願いします」

 その先輩にもおじぎをすると、悪かったり怖かったりという感じはまったくない上本さんは、軽い調子で口を開いた。

「あ、そう。メンバーが増えるのはありがたいよ。よろしくね」

 隣にいる鷲尾さんが、上本さんに向かってしゃべった。

「野島くんは、中学時代はエースストライカーで、何点も取って、すごく上手いらしいよ。プロを目指すんだっていうから、みんなでフォローしような」

「え? プロ?」

 上本さんは笑みを浮かべた。

「面白い冗談を言うねー」

 俺に視線を注いで、そう口にした。

「冗談ではありません」

 俺は真顔で言葉を返した。

 すると、穏やかだった上本さんからその雰囲気が消えて、また鷲尾さんのほうに顔をやった。

「何だよ。イタい奴なのか?」

「あー? どこがイタいんだよ?」

 鷲尾さんは、俺の味方といった、怒った口調で言ってくれた。

「なれるわけねだろ、プロなんて。バカかよ」

「チッ。もういいよ、お前」

 鷲尾さんは上本さんにさらに腹を立てた態度を見せると、俺には一段と優しく声を発した。

「ごめんな。じゃあ、放課後、部室に来てよ。待ってるからさ」

 これ以上やりとりを続けると、俺がサッカー部を入るのを考え直してしまいかねないなどと思ったようで、上本さんを押して一緒に入る格好で、自身のクラスの教室に戻っていったのだった。


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