高校③
「ふざけるなよ」
「ふざけてなんかいませーん」
「ハハハハーッ」
高校のクラスの教室で、俺は友人たちとはしゃいで笑った。人間関係だとか、学校生活は悪くはない。
しかし、心はぽっかり穴が開いたような状態だ。何かサッカーに代わるものを手に入れたい。けれども、一向に見つからないのである。
「ハーア」
おっと、いけない。帰り際、ため息をついた後で、ついグラウンドにいるサッカー部のほうに視線を向けてしまった。
「げっ」
あの、サッカー部のマネージャーの鷲尾さんが、俺のことを見ていた。
俺は慌てて校門の外へと走ったのだった。
別の日。放課後に、帰宅するので下駄箱で靴を履き替えていたところ、背後から声が聞こえた。
「野島くん」
まただ。
鷲尾さんが俺のもとにやってきた。
「サッカー部に入る気になった?」
「いや、だから、入りませんって」
「なんでだよ?」
「それはこっちの台詞です。何度断ったら気が済むんですか?」
あの初対面以降、この人は俺をサッカー部に勧誘し続けているのである。
「別にサッカー部はメンバーが足りてないわけじゃないんですよね? それなのに、どうして……」
そこで、俺ははっとした。
「もしかして、水本に頼まれたんですか?」
じゃなきゃ、おかしい。いくらサッカー部の活動する姿を興味深そうに眺めていたからって、俺がサッカーをずっとやっていたとか、何も知らないはずなのに、そんなしつこく誘うなんて。
「うん、水本さんが訪ねてきて、俺が応対したよ。きみのことをすごく心配してて、彼女からきみの中学時代の話を聞かせてもらった。でも、サッカー部に所属しているか尋ねられただけで、勧誘してくれってお願いされてはいないよ。俺が入部してもらいたいから声をかけてるんだ」
んん?
「だとしたら、やっぱり、どうしてなんですか? 部員が足りなくて試合に出られなかったりするんじゃないんですよね? それに、よく知らないですけど、うちのサッカー部って、大会で絶対に優勝するぞみたいに、そこまで熱心には活動してないんじゃないですか? なのに」
我が東明大付属高校は、また述べるが、進学校だ。学校が部活に力を入れているならともかく、そうではないから、運動部の生徒も少なくはないけれども、多くは勉強のほうが大事というスタンスで活動している。
「だって、もったいないじゃないか。そんなにサッカーが上手いのに」
何だ、シンプルなそういう理由か。水本にも同じことを言われたな。しかし、あいつとは意味合いが異なる。
「もったいないって、先輩は俺のプレーを見たこともないのに」
俺は「軽い気持ちでそんな言葉を口にしないでくださいよ」という態度で言った。水本にちょっと話を聞いた程度で、何も知らないくせに。
「俺さ」
すると、それまで柔和といった感じで俺に接していた鷲尾さんが、堅い雰囲気になって口を開いた。
「本当はサッカーをプレーしたいんだけど、病気で激しい運動ができないから、マネージャーをやってるんだ。体が健康で、そんなに能力があって、うらやましいよ。もったいないじゃないか」
……そうだったのか。
そんな立場の人に、んなことを言われたら、何も返せないよ。
お互いにそれからほとんどしゃべることなく、俺と鷲尾さんは別れた。




