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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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高校②

「ハー」

 俺は、自宅の自分の部屋にいて、ベッドで寝転がっている。

 家に帰ってからやることがない。コンピューターゲームも、好きだったのに、最近は楽しく感じない。

 だったら、クラスの奴に誘われたバレーボールなり、他の運動部に入るか? スポーツは全般嫌いじゃないし。

 でも、近くでサッカー部が活動しているのを目にするだけでも気が滅入るからなー。それに、やっぱり別の部じゃ頑張れそうにないよな。

「暁斗ー」

 遠くからの、母さんの声だ。

「お友達よー」

 ええ? 友達?

 高校は、電車通学をしているくらい、自宅からだいぶ離れているから、今まで同じ学校の奴は一人も家に来たことはなく、思い当たる人物はいない。

 誰だ? とモヤモヤしながら、俺は玄関まで行って、顔を出した。

「よっ」

 うちの前に立っていて、そう声を発したのは、水本だった。水本は別の高校に進んだから、会うのは中学の卒業以来だ。

「どうしたんだよ?」

 ちゃんと外に出てから、用件がわからずに俺は訊いた。

「私、高校で、サッカー部に入ったんだ。女子サッカー部があったのと、陸上部は見学にいったけどあまりいい印象じゃなかったから」

「……ふーん。それをわざわざ伝えに?」

「何よ、その冷めた態度は。『そうか! 正規のサッカー部員ってわけか! いいと思うぜ。頑張れよ!』くらいのことを言えないの? あんたが私をサッカーの道に引き入れたようなものなのに」

 まあ、そう言われたら、否定はできないが。

「よかったな、女子サッカー部があって。頑張れよ。これでいいか?」

「ちょっとー。感情が全然こもって……まあ、いいや。ところで、あんたは? サッカー、続けてるんでしょうね?」

 ……そういうことか。

「もうやめたよ。ってか、そう思ったから来たんだろ? やりなって言われても、やらねえよ」

「なんでよ?」

 水本は、怒った顔で、ほおを膨らませた。

「わかるだろ。工藤にポジションを奪われて、いや、それ以上に、その程度のことをいつまでも引きずって、俺、メンタル弱すぎだよな。自分に嫌気がさしたよ。水本は性格がいいだとか言ってくれたけど、そんなにショックを受けるってことは、工藤を俺、見下してたんだと思う。嫌な奴だよ。もう俺のことなんか気にかけなくていいから、自分の学校生活を楽しめよ」

「駄目」

「え?」

「野島、才能あるのに、もったいないよ」

 水本は、すごく悲しそうな表情になって、俺を見つめた。

 ……。

「中学のときにさ、本当にサッカーが上手い奴は、プロの下部組織に入るって話したじゃんか」

「うん。でも……」

「まあ、聞けって。俺、サッカーを始めた幼い頃から、周りの連中と比べて一番出来が良かったから、小学生のときにプロのクラブのセレクション、要は入団テストを受けたくなって、家族に言ったんだ。そしたら、うちの親父と兄貴は勉強ができる優等生ってタイプでさ、無理に決まってるし、万が一それには合格しても、プロのサッカー選手なんて、競争が尋常じゃなく厳しくて、人生を棒に振ることになるから、やめとけって。でも、どうしても力を試したくて、母さんに頼んで許可をもらって行ったんだ」

 水本は真剣な顔つきで耳を傾けている。

「で、びっくりしたよ。俺なんて足もとにも及ばない、上手い奴ばっかでさ。親父や兄貴が指摘した通りだったんだ。そのとき、たまたま、トップチームに所属している葛城選手、知ってるだろ? 元日本代表で、当時は代表のエースストライカーだった、あの人がいて、目立ってた奴に声をかけたりしててさ。俺、あの人が大好きで、だからそのクラブのセレクションにしたんだけど、目の前で見て興奮して、思わず走って近寄って話しかけたんだ、『俺、どうでしたか?』みたいに。それに対しての葛城選手の様子が今でも忘れられない。『ハハハ……。頑張ってな』って、見込みのない子どもにどう言葉をかけたらいいのか困っているっていうのがありありと伝わってきて。当然、結果は不合格で、それからしばらく立ち直れないほど落ち込んだよ」

 あー、嫌な記憶が蘇ってきた。

「でも、やっぱり周囲のなかでは断トツってくらいの立場だったから、サッカーは楽しんで続けてた。ところが、工藤に追い抜かれるし、それであそこまで精神的にダメージを負うわ、ちっとも回復できないわで、自分が本当にいかに劣っているかを思い知ったんだ。だから、もういいだろ? サッカーは。勘弁してくれよ」

 水本は伏し目がちで黙っている。なんて言ったらいいか、適当な言葉が見つからないんだろう。

「じゃあ、水本は頑張れよ、サッカー。応援してるからさ」

 そう述べて、俺は家に入って、玄関のドアを閉めた。


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