表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Killing syndrome  作者: 兎鬼
第4章 激突
24/26

後始末


9月14日(土)11時30分


ドガァァァァァァァァァァァン


ものすごい爆音と共に、ホールの扉が吹き飛んだ。そして、その衝撃の余波はホールの外にまで広がり、俺のいる養護教室の強化ガラスを激しく揺らした。


俺の方の依頼は滞りないというわけにはいかなかったが、概ね成功した。


イレギュラーとしては、保険医の清白の射殺。安倍含む3名の射殺及び転落死とそこからの情報漏洩。そして、部下の死。


思い返すことが嫌になる程のイレギュラーの数に頭が痛くなる。けれど、今回の件で最も予想外だったのは間違いなく、シャドウの敗北と、一橋の逃走だろう。


一橋は屋上から飛び降りた後、消息をたっている。あれだけの傷を負っている以上、死は免れないはずだ。しかしあんな姿で一般人に発見されれば、情報の隠蔽どころではない騒ぎになる。


急いで外に待機していた部下に足取りを追わせているから、捕まるのも時間の問題だろう。しかし、いくらなんでも……


「ああぁぁぁあああぁああ!!」


「いいぃぃぁああああぁあ!!」


「ぉぉぉぉおお!!おぉぉぉおおお!!」


ホールの方から猛獣の断末魔のような叫び声が響いてくる。一度聞こえた断末魔は数を増やし、治るどころか徐々に大きくなっている。

もちろん、あれだけのガスに引火したのだからどの声も間違いなく2周目の非人間の声だろう。しかし、奴らの厄介なところは、完全に死ぬまで暴れ回るというところだ。声の感じからして、後2分すれば第一派が瓦礫を押しのけホールの入り口出てくるだろう。


「ふぅ」


もう少しこの場で今考えられることを考えておきたかったが、依頼の遂行上仕方がない。

俺は座り心地のいい教員用の椅子を離れ机の上のアタッシュケースを開いた。そして中にセットされたハンドガン2丁を取り出すと、腰のホルダーにセットする。そして、中から弾倉を6つ取り出すとジャケットの裏のホルダーにセットした。


「よし」


周りを改めて確認するが、忘れ物も見落としもない。もうここに帰ってくる予定はない。部下の揉み消しはあるだろうが、一応俺が生きているという証拠が残らないよう個人が特定できるものは処分したはずだ。あとは部下がどう転ぼうが俺には関係ない。


養護教室を出て、渡り廊下を進む。そして、最短ルートでホールの入り口の前までやってくる。


「それにしても、ひどい匂いだな」


肉が焼け焦げ、皮膚が溶けた匂いに加えて残ったガスの匂いも混ざっている。呼吸をするごとに、酷い悪臭が鼻腔を刺す。けれど、断末魔の叫びのお陰で、ごまかせているのか耐えられないほどではない。


俺はハンドガンを1丁だけ取り出すと左手で構えた。そして、構えをキープしたままスマホを取り出し、AIに依頼して電話をかける。


「Hey,Sara ボスに繋いでくれ」


「はい、かしこまりました。ボスさんに電話をかけています」


プルルルルル プルルルルル プルルルルル


ボスが電話に出る前に、ホールの扉からポツリポツリと獣が飛び出てくる。


「ぁぁああああ!!」


ホールから出てくる女子高生だったものは、全身に火が回り、今も燃え続けている。けれど、奴らは今にも死にそうだというのに、そんなことはお構いなしに、我先にと俺を殺そうと飛びかかってくる。


パンパンパンパンパンパン……


プルルルルル プルルルルル……


「遅いな」


ボスがルーズなのは知っている。けれど、こちらも急ぎの用事で電話をかけているのだから、出れるようにしておいてほしいものだ。

電話に出るのを待ちながら、襲いかかってくる獣を一匹ずつ脳天を撃って沈めていく。


パンパンパンパン


13、14、15


15発すべて打ち切ると同時に、瞬時に銃をホルダーに戻し、もう一丁の銃に持ち変え撃ち続ける。


予備の弾はジャケットの裏に90発ほど。やや不安はあるが、おそらく奴らの肉体の残り時間もあと2分とない。弾を使い切らないうちに、みんな焼け死んでくれるだろう。


「もしもし、どうしたホークアイ。仕事中なのに珍しいな」


持ち替えた銃で、7発ほど撃ったところでようやくボスは電話に出た。


「あぁ。シャドウのやつが負けたよ」


俺は電話に出たボスに、単刀直入に用件を告げた。

俺は普段、仕事中に電話などしない。それをボズわかっているだろう。けれど、今回は急ぎ確認したいことがある。こんなゴミ処理なんかよりもよっぽど重要なことだ。


「そうか」


電話越しにボスが渋い顔をしているのがわかる。ボスの返答が来るまでの時間はおよそ2秒ほど。そう予想して、早々に弾を撃ち切り、空になった弾倉をその場に捨てる。そして、銃を上に投げ、落ちてきたところにジャケット裏の弾倉を込め再び射撃を開始する。

そして、それから0.5秒後、予想通りの間をおいてボスは重い口を開いた。


「なるほど……それは確かに仕事中にかけてくる案件だな。重症なのか?」


「ああ、多分な。でも死んではいない」


「だとしたら……案件は一橋鏡花、か?」


「ああ。やっぱり何か思うところがあるんだな。だが、安心しろ。すでに部下に追わせている」


「いや、待て」


思った通りこの件の裏には何かあるようだ。2秒という間のあけかたは、何か心当たりがある証拠だ。それにシャドウがやられ、これだけの規模の障害が発生しているというのに、何もボスが動かないということも引っかかる。


今回の依頼は、実はボスを通している。俺に依頼してきたクライアントと、シャドウに依頼してきたクライアントは繋がっているようだが、それが誰なのか明確に知っているわけではないのだ。


けれど、今こうなっている現状を見れば、今回の目的は、実験場の破棄と、一橋鏡花の能力の実験だろう。今回始末された人間の全てが、おそらくあのKillng Syndromの症状のような能力に関係があるのだろうが、ボスにはそれが何か分かっているようだ。しかし、ならば尚更……


「あのガキが何か重要なんだろう?このまま追わなければ、勝手に死ぬぞ」


「構わない」


「どういうことだ?」


あのガキが死ぬことが構わないだって?

あまりに予想外な展開に、思わず聞き返してしまった。シャドウが受けたのが、一橋鏡花の能力を試すための依頼ならば、死んでいいということはあまりにも辻褄が合わない。


けれどどうやらボスも、明確に情報を知らされているわけではないようだ。ボスは困ったように唸り声を上げ考えた後、言葉を続けた。


「オレにもわからん。だがNo.7の依頼は、あの料亭にいた人間の掃除だっただろう?」


「なるほど。確かに皆殺しだった」


そういうことか。ここにきてようやく点と点が繋がり、明確な意図が掴めた。


まず初めに我々が依頼されたのは、実験場の処分。けれど、実際にはじめに死んだのは、鷹城が独断で始末した3人を除けば、雀荘に一橋鏡花と一緒にいた人間だ。そして次が一橋の家族。この学園の人間はむしろ最後だ。そして、殺す対象に一橋鏡花自身が入っているというのなら、目的は一橋鏡花の抹消か。


今回の目的は、実験場の処分自体にもあったのだろう。けれど、本当の目的はあのガキの強さを試すためじゃない。

シャドウが繰り広げた死闘自体が目的だったんだ。派手なデモンストレーションを俺たちに演じさせ、瀕死の重傷を負わせる。そして、一橋鏡花はここで死ぬ。たとえ生き延びたとしても、俺たちが回収しなければ、一橋幸之助の側に立つ他の人間から見たら死んだことになる。


俺たちは、クライアントの手の上で踊らされていたというのか。いや待て、だとしたらこのまま、依頼成功ですなんて甘い話があるわけがない。


「ボス。俺たち、政府に狩られるぞ」


「ああ、わかってる。あの人の考えそうなことだ。シャドウをつれてとっとと帰ってこい」


「ああ。わかった」


ツー ツー ツー


パンパンパンパン


結局、持ってきていた予備の弾のうち77発を撃ち、残弾数が13発になったところで、獣たちは力尽き扉から出てこなくなった。


とりあえず、これで依頼の方は滞りない。今回使った弾は体の中で消化される特殊な素材を使っている。頭の傷も炎のおかげで溶けて目立たなくなるはずだ。


俺は銃をホルダーにしまうと、スマホを取り出した。そして再びAIを呼び出す。


「Hey,Sara 部下に電話をかけてくれ」


「はい、かしこまりました。部下かっこ処理さんに電話をかけています」


プルルルルル プルルルルル ガチャ


「俺だ。一橋鏡花を追わせている班を戻せ。早急に後始末をして帰還する」


「何かあったんですか?」


「ああ、緊急事態だ。俺にも手に負えない」


「かしこまりました。お任せください」


ガチャ


取り敢えずこれで、この建物の処理は滞りなく行われるだろう。シャドウの回収も部下に依頼してある。ボスには申し訳ないが、俺も何も掴まずに戻るわけにはいかない。


一橋幸之助が今回の依頼の対象に、始末したい人間をこぞって集めたのなら、あの料亭にいた人間を調べないわけにはいかない。それに、Killng Syndromについても調べる必要がある。


部下がこちらへ走ってきたことを確認し、俺は駐車場に停めた車を目指し、その場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ