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Killing syndrome  作者: 兎鬼
第4章 激突
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25/26

露呈


9月15日(日)10時25分


「一橋大臣。わたくしに許可も取らず、実験場を破壊してしまうなんて一体何をお考えで?」


「停滞したこの状況を打開したくてね。森くんだってあの実験場を破棄したがっていただろう?」


「そうですけれど。全く何がしたいのかわかりませんわ」


森くんはかけた眼鏡の端をクイッと挙げ、あえて大きなため息をついた。


「先生はてっきり裏切り者だと思っていたんですけれど。家族を殺されたり、狙われたり、裏切り者じゃないんですの?」


「よしてくれよ……まったく家族まで狙われるなんて。国に所属しているのに、家族を殺されて身内からも狙われたら敵わないな」


計画は概ねわたしの予定通り。ママと美鈴は死に、そして鏡花は死んだことになった。お陰で僕にかけられていた疑いの目は晴れ、そして、邪魔な安倍も始末することができた。


鏡花がシャドウくんと当たってしまうことに関しては不安を感じてはいたが、あの人からの報せが本当なら、当面は大丈夫だろう。


「まぁ、わたくしにはどうでもいい事ですけれど。……それより」


森くんは、にっと口角を吊り上げ、美しい顔を光悦に歪め、何か言いたげに手を伸ばすと、そっとわたしの鼻に触れた。


森くんの性格上、わたしが裏切り者だろうが、わたしが彼女を殺そうとしていようがそんなことは関係ない。彼女はとにかく興味のあることに真っ直ぐな人なのだ。


彼女はわたしの秘書をやってくれているが、実はそれは書類上の役職で終わる契約のはずだったのだ。けれど彼女はわたしの秘書という仕事から得られるコネクションと情報が魅力的だったらしく、わたしの秘書としての仕事を十二分にこなしながら、なにやら調査を進めていた。

彼女は天才と呼ばれる人種なのだろう。おそらく秘書だけでなくどの仕事をさせても、きっと同じかそれ以上の成果を上げるに違いない。一緒に働いていて、素直にそう感じた。


では彼女の本当の仕事は何かというと、彼女はマッドサイエンティスト、である。


これは卑下ではない。彼女は名実ともに、100人に聞けば100人がそう認める、マッドサイエンティストなのだ。

今回の件の前に、わたしは政府から外部に情報を売る裏切り者としての嫌疑がかけられていた。そこで監視役として森くんが着けられたわけだが、なぜ彼女がわたしの監視役になったのかといえば、それは、あの学園と薬が彼女の研究対象だったからである。


わたしのコネクションを利用して、楽しそうに色々な病院に出入りしデータを漁れるのが楽しいと嬉しそうに言っていた。そんな森くんだからこそ、わたしが学園を焼いたことに怒っていると思っていたのだが、今の様子を見る限り、もうあの学園には興味がないようだ。


「わたくしと先生の契約もこれで終わりですわね」


「疑いが晴れたのなら、そうだね。けれど、君にも利があるのだから、僕としては続けてくれても構わないが」


彼女の表情からは迷っている様子は伺えない。聞く前に彼女にその気がないことはわかっていた。けれど、わたしには彼女を手放してはいけないという、根拠のない予感のようなものがあった。


「いいえ。わたくし、新しいおもちゃを見つけたのです」


「へぇ、新しい研究材料かい?」


「ええ。先生を追っていたら、落ちていましたの。リ・ブ・ラ」


森くんは更に口角を吊り上げ、嬉しそうに言った。


予感はまずい方向に的中してしまったようだ。正直まずいことになった。目的の一つを先手を打たれて潰されてしまった。政府は鏡花とリブラの持つ能力を欲している。鏡花に関しては、まだその能力を持っていることはバレていない。けれど、あの日のダイニングで能力が開花する予兆を見た。だから念を入れて先手を打って鏡花を殺し、リブラを組織に預けたというのに。


リブラの保護と監視は、あの坊やにお願いしておいた。まったく、それだけのこともできないなんて。これはキツく言ってやらねばならない。


けれど後悔しても仕方がない。奪われてしまった以上、「彼」から何かを取り返そうなんてできるはずはない。ここは腹を括って計画を進めるしかなさそうだ。


「そうですか……。見つからなければよかったのに、残念だね」


「あら、正直なんですのね」


「君だから言うんじゃないか。いつでも僕の秘書に戻ってくれていいんだからね」


「そんな先生は好きですけれど、正直もう興味ありませんわ」


「これは手厳しいね」


森くんにならこの程度のことは言っても構わない。彼女はおそらく最後まで残るピースではない。それに、もしかするとまた仲間になってくれるかもしれない。そんな予感がする。


それに政府にこの発言が知られたとしても構わない。何故なら、もうそんな余裕はなくなるのだから。


「仕事の話をしてもいいかい?」


「書類でしたら、全てこちらに」


「最後の仕事なのに悪いけど、頭に入っている。なくて構わない」


「そうですか。では応援でもして欲しいのですか?」


「いや、君には伝えておきたいと思ってね」


「何かするつもりなのでしょう?聞きたくありませんわ。知らない方がウキウキしますもの」


ここは帝国ホテル。わたしは大臣としては異例のホテルでの緊急記者会見を行おうとしている。理由は他の大臣に邪魔をされたくなかったからだが、ここで記者会見を防衛大臣の僕がすることには大きな意味がある。


内容は書類には一切書き下ろしていないから、わたし以外に何を言おうとしているのか知るものはいない。

けれど森くんは心当たりがあるのか、それとも何を言われるのか楽しみで仕方がないのか、いつも以上にニコニコしている。まぁどちらにしても肝が座っていることに変わりはないのだが、やはり彼女は少し恐ろしい。


「そうか。なら楽しみにしていてくれたまえ」


「ええ。先生、がんばって!」


「まったく調子狂うな。まあいい。行ってくるよ」


予定時刻は10時30分。あと2分くらい時間はあるが、早く始まる分には問題ないだろう。舞台裏の姿見で衣服を確認し、ネクタイを締め直す。


そして、舞台裏からホールに出る。


パシャパシャパシャパシャ


瞬間ものすごい勢いで記者たちがフラッシュを焚く。わたしは構わずセットされた机に向かい一礼する。そして席に座ると、一呼吸間を置いて切り出した。


「昨日、東京都目黒区の花園女子学園にて発生しました爆発に関してですが……あれは事故ではありません」


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


「昨日の爆発は、テロによるものです」


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


政府には、こんなことを発表する予定はまったくない。わたしが会見を開いた目的は、昨日の爆発が不運な事故であったと報告するためだ。そしてもちろん、報告する場所も首相官邸のはずだった。


けれど私は今回の件に関して、国家機密であるKillng Syndromのこと以外に関しては、隠すつもりは毛頭ない。さっき森くんに言った通り、私は止まった歯車を回すためにここに来たのだ。


わたしの想定外の発言に記者はどよめきたち、一部のものは席を立ち電話をかけるため会場を出て行った。他のものは目を見開き、次にわたしが何を言うのかを、目を血走らせて待っている。


わたしは記者たちの顔に期待が十分に満ちるのを待ってから、言葉を続ける。


「既に知っておられる方もおられるかと思いますが、一昨日何者かの手によってわたしの家が焼かれました。その火事によって、わたしの妻と1人娘が亡くなりました」


パシャパシャパシャパシャパシャパシャ


「そして、昨日の爆発では安倍大臣の娘さんが亡くなり、現在大臣も消息を絶っております。我々は、学校に火を放った者とわたしの家族を殺した犯人とは同一グループであると考えております」


普段こう言った会見では、殺されたという言葉は使わない。けれど、家族を失ったわたしが開いた緊急会見だからこそ、あえて強い言葉を使う意味がある。わたしは家族のおかげで次のステージに進むことができる。


「つまり今回の事件は全て、国家の転覆を目論んだテロ行為なのです。……わたしは、決して犯人を許さない!」


ドン


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


強く机を叩き、立ち上がる。

静かなホールの中に、机を叩いた音が響き渡り、それに続くように鳴り出したシャッターの音がそれをかき消した。


「我々は、警察と連携を図り迅速に犯人グループの逮捕ならびに処罰を行います。そしてもちろん、必要であれば、最大限の武力を持って鎮圧する予定です」


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


シャッターが鳴り止むまで、記者席に向かって視線を向け、収まってきた頃にそっと座った。わたしの家族を殺された遺族としての側面を記事にしたくて仕方がないのだろう。こういった、スキャンダルや軍事、殺人に関するニュースには政治に無関心な国民も敏感に反応する。メディアが国民を刺激し、そして新たなニュースがメディアを刺激する。これだけ煽る準備を周到にしたのだから、組織も政府も動かないわけにはいかないだろう。


わたしは嘘はついていない。わたしの依頼はれっきとした殺人だ。そして、わたしの目的はこれから起こる事件の中にある。

実行犯の中には、わたしも含まれている。そして、間違い無くわたしが目的遂行のために起こそうとしている戦争はテロなのだから、どこにも嘘はない。


「以上です」


わたしはシャッターがおさまるのを待って、静かにそう告げる。けれど、それを聞いている貴社の顔は穏やかではない。自分が聞きたいことを質問しなければならないのだろうから、それは当然と言えるが。


「それでは、質問の時間を5分設けさせていただきます。質問のある方は挙手をお願いいたします」


森くんの号令に、ビシッと音が聞こえてきそうなほど、一斉に手が上がった。質問の相手などには仕込みは一切ない。どうせ聞かれることは決まっている。わたしは適当に前の席に座っていた、若い男性の記者を指す。


「はい、そこのあなた」


「一橋大臣!犯人の目星はついているんですか?」


「正確に断定ができているわけではありませんが、目星はついています」


「その犯人には、指定暴力団や海外のテログループなどは関与しているのでしょうか」


「調査中ですが、どちらも関与していないと考えています。危険度で言えばおそらくもっと上でしょうね。これ以上はお答えできません」


わたしの発言を聞き漏らさないよう、一斉に記者たちはメモを取る。わたしは時間をロスしないように、メモを取りながらも挙手をする記者を機械的に指名していく。


「では、そこのあなた」


「具体的にはどのような措置をとるおつもりですか?国内での武力行使もあり得るのでしょうか?」


「未定です。しかし相手が爆発物を取り扱うテロリストなら、国民を守るためやむおえずと言うこともあるでしょう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大臣、どういうおつもりです?」


「先に言った通りのつもりだが」


わたしの言葉に森くんは嬉しそうに笑うと、僕の目を覗き込んだ。


「先生。進めるどころか、戦争になっちゃいますわ」


「そうだね。でも、君も好きだろ?」


「ふふ。大好き、ですわ」


政府は、No.3の坊やの組織を疎ましく思ってきた。そこには深い因縁がある。けれど彼らが政府の依頼を聞いてきた事実があるために、政府はリブラの存在に気付きながらも、組織に手を出せなかった。


けれどこれだけの発表をして、犯罪を犯したという大義名分を作ってしまえば話は変わってくる。

組織は犯罪者に認定され、政府はこれを建前に、秘密が露見する前に組織を潰そうとするだろう。


もちろん政府相手では不利なのは分かっているだろうから、多くの者は逃げるだろう。けれど、それは全員ではない。

誰かが向かっていって殺されれば、その事実が憎しみを生み新たな死を引き起こす。


そうなれば、確実に戦争が起こる。


セカンドの身体能力的な特異性はもはや兵器だ。政府側と組織側の兵器がぶつかり合えば、どんな惨劇が起こるかは火を見るより明らかだろう。


リブラが政府の手に渡ってしまったのは実に惜しい。けれど鏡花が成長して、あの人に追いついてくれたなら、わたしは悲願を果たすことができる。


真意を気取られないよう注意しつつ、森くんに視線を送る。しかし、わたしの心配は杞憂だったようだ。森くんは、端正な顔立ちを見る影もないほどに崩し、よだれを垂らしながら、光悦に浸っていた。


「森くん」


「じゅるる。あ、ひゃ、ひゃい」


「はは、君にしては珍しいね」


森くんに声をかけると、珍しい森くんを見るとこができた。森くんは急いでポケットからハンカチを取り出すと口元を拭い、そしてわかりやすく咳払いをした。そして、まだ恥ずかしそうな表情のまま、話を続ける。


「オホン。な、なんでしょう?」


「こんなことが知られたらあの人形(総理)が怒りだすだろう。それはいささか面倒だ。だから直接、神に謁見するとしようか」


「ええ。わたくしも報告しなければなりませんからご一緒に」


わたしは本部へ向かうため、森くんと共にエレベーターを目指す。


政府は、19年前からある男に操られている。その男は神と呼ばれ、この国は彼の思い通りだ。あの実験場を森くんに与えて、操っていたのも彼だ。


そしてわたしは彼を心から尊敬し、僕は彼を心の底から殺したい。僕の大切な、あの人を奪ったあの男が、僕は憎くて憎くて仕方がない。


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