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MHISTORYM  作者: しおにまる
第2章 小隊編
9/26

2-2 適正

第一実技場は、校舎の裏手に広がる大きな訓練区画だった。

土の地面にはいくつもの木製人形が置かれ、その奥には円形の的が並んでいる。端には屋根のついた武器置き場があり、剣や槍、弓、短剣、訓練用の銃と専用のゴム弾まで一通り揃えられていた。

実技場へ入った生徒たちは、思い思いに辺りを見回す。


「ここなら使っていいんだよね?」


アルレアが待ちきれない様子で尋ねる。


「ああ。人に向けなきゃな」


リキトは気のない返事をしながら、実技場の中央まで歩いていった。


「入学前の適性試験で使った武器があるやつは、それ使え。魔法も好きに使っていい」


それだけ告げると、近くに生えていた大きな木へ向かう。


「え、先生が教えてくれるんじゃないの?」

「俺は戦う方は専門外なんだよ」

「学校の先生なのに?」

「先生だからだ。教官じゃない」


木陰まで来ると、そのまま幹へ背を預けて腰を下ろした。

その周囲から、小さな機械が二機浮かび上がる。手のひらほどの大きさの機体は低い駆動音を響かせながら、それぞれ別の方向へ飛んでいった。


「見てはいる。分かんなくなったら聞け」


それだけ言うと、リキトは目を閉じた。

生徒たちはそれぞれ武器置き場へ向かう。

ニーアは並んだ武器を一通り眺めると、迷わず短剣を手に取った。鞘から抜き、軽く握りを確かめる。

ガルシアは武器棚には目も向けず、その前を素通りした。


「俺はいらねえな。持ってたら邪魔だろ」


腕に薄く獣毛が浮かび、指先から鋭い爪が伸びる。

それを確かめるように拳を握ると、そのまま訓練人形の方へ歩いていった。

ノノは武器棚の前で足を止めていた。

剣を見て、弓を見て、最後に訓練用の銃へ視線を移す。

そっと手を伸ばしかけて――すぐに引っ込めた。


「……銃は、ちょっと怖いです」


二丁の訓練用拳銃を手にしたアルレアが振り返る。


「音?」

「それもありますけど……撃つのが、ちょっと……」


ノノは隣へ視線を移した。

そこに立て掛けられていた一本の槍を、両手で持ち上げる。


「……これなら、少し遠いので」

「いいんじゃない? ノノっぽいかも」

「そ、そうですか……?」


ノノは両手の位置を何度か変えながら、槍を構えた。

アルレアも自分の銃を握り直し、右手の一丁を軽く回そうとする。

その瞬間、手元から銃が滑った。


「あっ」


地面へ落ちる寸前、横から伸びた手が銃を掴んだ。

ユエルだった。


「ナイスキャッチ!」


アルレアが笑って手を伸ばす。

ユエルもそのまま返すように銃を差し出して――


こつん。


持ち手の先で、アルレアの頭を軽く叩いた。


「いった! なにすんの!」

「落とすな」

「分かってるって!」


ユエルは何事もなかったように、今度こそ銃を差し出した。

アルレアは少し不満そうにそれを受け取る。

少し離れた武器棚の前では、ソウタだけがその場から動けずにいた。

剣を見て、槍を見て、弓を見る。

どれにも手を伸ばさない。

しばらくして、木陰から声が飛んできた。


「ソウタ」

「はい?」

「いつまで見てんだ」


ソウタは困ったように武器棚へ目を戻す。


「何を使えばいいのか分からなくて」

「ああ……お前、適性試験受けてないんだったな」

「はい」

「じゃあ、適当に触れ」

「適当に?」

「合わないのから捨ててけば、そのうち残るだろ」

「そんな決め方でいいんですか?」

「最初から分かるやつの方が少ないよ」


ソウタはもう一度、並んだ武器を見渡した。

最初に手にしたのは槍だった。

少し離れたところでノノが構えているのを真似しながら、訓練人形へ穂先を向ける。そのまま突き出したが、大きく横へ逸れた。


「……長いな」

「む、難しいですよね……」


隣からノノが小さく声をかける。

次に短剣。何度か振ってみるが、距離が近すぎて落ち着かない。

弓も試した。矢は飛んだものの、的の外側へ辛うじて刺さる。

最後に銃を握ったが、撃った瞬間の反動に肩を揺らした。


「どうだ」


木陰から声が飛んでくる。


「全部微妙です」

「だろうな」

「ちょっとは励ましてくださいよ」


返事はなかった。

ソウタはため息をつきながら、最後に一本の剣を手に取る。

片手で持てる、特別な装飾もない普通の剣だった。

握りを確かめ、一度振る。今度は両足を少し開いて構えてみる。

先ほどまでと比べれば、余計な力は入っていなかった。

一歩踏み込み、訓練人形へ剣を振るう。

乾いた音が鳴る。

ソウタは手の中の剣を見た。


「……これが一番やりやすいかも」

「なら、それ使っとけ」


ソウタはもう一度剣を握り直した。

その頃には、実技場のあちこちで訓練が始まっていた。

銃声が立て続けに響く。

アルレアは左右の銃を交互に撃ちながら、次々と引き金を引いていた。

一発目は的の外。

二発目は縁をかすめ、三発目は地面へ土煙を上げる。

それでも本人はまるで気にしていない。


「よーし、次!」


さらに二発。

今度は片方が的の端へ当たった。


「当たった!」


嬉しそうに声を上げた直後には、もう次の引き金を引いていた。

狙いをじっくり定めるより、どうやら撃つこと自体が楽しいらしい。

少し離れた場所では、ニーアが短剣を手に訓練人形へ近づいていた。

足元へ手を向けると、薄い氷が地面を這い、人形の片足を包み込む。動きを止めたところへ踏み込み、側面から短剣を振るった。

刃が木の胴へ当たり、乾いた音を立てる。

ニーアはすぐに距離を取り、今度は別の角度から構え直した。

さらに離れた場所では、ガルシアが訓練人形と距離を取っていた。

腕だけでなく脚にも獣毛が広がる。

低く身体を沈めると、一気に地面を蹴った。

獣化した脚で間合いを潰し、その勢いのまま拳を叩き込む。

訓練人形が大きく揺れた。


「おらっ!」


勢いのまま通り過ぎると、すぐに振り返る。

今度は伸びた爪を構え、楽しそうにもう一度地面を蹴った。

ノノも少し離れた場所で槍を構えていた。

狙いを定め、訓練人形へ穂先を突き出す。

槍はきちんと胴へ当たった。

だが、その勢いに身体がついていかず、ノノまで前へ引っ張られる。


「わっ……!」


慌てて足を踏ん張る。

引き戻そうとしても、長い柄が左右へふらつく。


「お、重い……」


小さく呟きながら、持つ位置を変える。

もう一度構えて突く。

穂先は人形の胴へ当たるが、戻す時にはまた大きく下がった。

ノノは槍そのものと格闘するように、何度も構え直していた。

その近くでは、ソウタも剣を振るっている。

まだぎこちない。

それでも最初に触った武器よりは、ずっと自然だった。

そのさらに奥で、ユエルは腰の剣を外して脇へ置き、武器棚の前に立っていた。

訓練用の剣を一本取る。数度振って戻す。

次に槍。それも少し確かめると戻した。

続けて銃を手に取り、的へ向ける。

一発。

弾は中心近くへ命中した。

その音に、アルレアが振り返る。

自分の的とユエルの的を見比べ、目を丸くした。


「一発で?」

「このくらい普通だろ」

「ユエルのくせに生意気!」


アルレアはすぐさま自分の的へ向き直り、両手の銃を構えた。


「じゃあ私は数で勝つ!」


その瞬間、少し離れた場所でニーアが無言で片手を上げた。

足元から薄い氷がせり上がり、自分とノノの前に小さな壁を作る。


「……ニーア?」

「念のため」

「えっ」


ノノが氷壁とアルレアを交互に見る。

右、左。

続けざまに銃声が響いた。

一発、二発、三発。

弾は相変わらず好き勝手な場所へ飛んでいく。


「ちょっとニーア! 信用してないでしょ!」

「してるから防いでるの」

「それ信用してないやつ!」


言いながらアルレアが、もう一度引き金を引く。

弾は的を大きく外れ、その脇の金属枠をかすめた。

甲高い音が響く。

跳ねた弾は斜めへ飛び――隣にあったユエルの的へ突き刺さった。

しかも、先ほどユエルが撃った場所のすぐ近くだった。


「ひっ……」


ノノが氷壁の後ろへ半歩隠れる。

アルレアも目を丸くしたまま、しばらくユエルの的を見つめる。


「……一応、的には当たったよ、ね?」


ニーアが呆れたように息を吐く。


「ユエルの的だけどね」


ユエルは自分の的へ増えた穴を眺め、それからアルレアを見る。


「やるな」


ふっと鼻で笑う。


「でしょ!!」


明らかにからかわれていると分かっているのか、アルレアは少しむっとした顔で言い返した。


「フェルティア」


木陰から声が飛んでくる。


「……はい」

「危ないだろ。ちゃんと狙え」

「……はい」


今度ばかりは素直に銃口を下げた。

その横でニーアも氷壁を消す。

ノノだけは、しばらくアルレアの銃を警戒するように見つめていた。

実技場の上では、二機の小型機械が静かに行き交っている。

剣を振るソウタ。

槍に振り回されるノノ。

獣化して人形へ向かうガルシア。

武器を持ち替えるユエル。

二機しかないはずの機械は、次々と向きを変えながら、離れた場所にいる生徒たちを途切れることなく追っていた。

木陰では、リキトが変わらず幹へ背を預けている。

目を閉じたまま、ほとんど動かない。

実技場には再び、銃声と、拳が木を叩く音と、刃のぶつかる音が重なって響き始めた。

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