1-6 仲間
学長室へ入ると、机の向こうには、入学式で壇上に立っていた白髪の男が座っていた。
教師はここまでの経緯を簡単に説明した。
学院の生徒ではなく、入学の手続きもしていないこと。身元を確認できるものも持っていないこと。
ノノはソウタの隣で、落ち着かない様子のまま黙って立っていた。
話を聞き終えた学長は、ソウタへ目を向けた。
「なるほどな。で、君はどうしたい?」
「……ここにいても、いいなら」
「そうか。なら、いればいい」
あまりにあっさりした返事に、教師が眉を寄せた。
「いや、ルーファス学長。入学に必要な書類も何もないんですが」
「そんなのは後でいいだろ」
「後でって……手続きも何もしてないんですよ」
「まあ、形式なんてどうとでもなるさ」
教師はまだ納得していない様子で続けた。
「それに、こいつを入れたら今年の一年は五十一人になりますよ」
「一人増えたくらい、どうってことないだろ」
ルーファスはそう言って、気にした様子もなく笑った。
「来たいやつをわざわざ追い返すこともない。それで十分じゃないか」
教師はしばらくルーファスを見ていたが、やがて諦めたように息を吐いた。
「……分かりました」
そうして話は、驚くほど簡単に終わった。
しばらくして、教室の扉が開いた。
教師が一つの机を抱え、その後ろから椅子を持ったソウタとノノが入ってくる。
先ほどまで騒がしかった教室が、三人の姿を見るなり少し静かになった。
「戻ったぞ。……それと、こいつも今日からこのクラスだ」
一瞬の沈黙のあと、教室がざわつく。
制服も着ておらず、つい先ほどまでこのクラスの生徒ですらなかった少年が、もう同じ教室で過ごすことになったらしい。
「先生、早くない?」
どこかから上がった声に、教師は面倒そうに肩をすくめた。
「学長がいいって言ったんだ。俺に言うな」
空いている場所に机を置き、ソウタもその前へ椅子を運ぶ。
教師は机の位置を軽く確認すると、ソウタの服装へ目をやった。
「制服は後で手配する。それまではそのままでいい」
ソウタが頷くのを確認し、教師は教卓へ戻った。
「まあ、ちょうどいいか。まだお前らも互いのこと知らないだろ」
教室を見渡したところで、ふと思い出したように口を開く。
「そういや、俺もまだちゃんと名乗ってなかったな」
教卓に軽く手をついた。
「リキト・アーヴェルだ。今日からこのクラスを受け持つ。よろしく」
それだけ言うと、今度は生徒たちへ視線を向けた。
「じゃ、次はお前ら。順番に自己紹介してけ。名前と……まあ、好きに一言。長いのはいらん」
最初の生徒が立ち上がり、それを皮切りに自己紹介が始まった。
緊張して声が小さくなる者もいれば、妙に気合いの入った挨拶をする者もいる。
やがて順番がユエルまで回ってきた。
ユエルは席を立つと、教室を軽く見渡した。
「ユエル・レインフォード。よろしく」
それだけ言って、すぐに座る。
「短っ」
ユエルは座ったまま前を向いて答えた。
「長いのはいらないって言ってただろ」
「そういう意味じゃなくない?」
ユエルはそれ以上何も言わなかった。
その様子にアルレアは小さく笑い、自分の番になると勢いよく立ち上がった。
「アルレア・フェルティアです! よろしく!」
「いっぱい友達できたらいいなって思ってます!」
満足そうに座ると、その隣でニーアが静かに立ち上がった。
「ニーア・セルディスです。よろしくお願いします」
それだけ言って座ろうとする。
「ニーアもユエルと変わんないじゃん」
「……じゃあ、静かな人だと助かります」
「私のこと言ってる?」
「さあ」
アルレアが不満そうな顔をする横で、ニーアは何事もなかったように席についた。
いくつかの自己紹介を挟み、今度はノノの番が回ってくる。
ノノは少し緊張した様子で立ち上がった。
「ノノ・エルミナです。えっと、よろしくお願いします」
「人と話すのは、あまり得意じゃないですけど……仲良くしてもらえたら、嬉しいです」
小さく頭を下げると、ほっとしたように息を吐いて席についた。
さらに何人かが続いたところで、自己紹介が止まった。
次の席の女子生徒が、机に突っ伏したまま動かない。
リキトがその姿を見て、面倒そうに声をかけた。
「おい。次、お前だぞ」
女子生徒の眉がぴくりと動いた。
「……うっせぇな」
ゆっくりと顔を上げ、眠そうな目で教卓の方を見る。
「自己紹介。寝るならそのあとにしろ」
「……あ?」
面倒くさそうに髪をかきながら立ち上がると、そのまま教室を見渡した。
「ガルシア・ベルガルド」
それだけ告げると、すぐに椅子へ腰を落とした。
ぶっきらぼうな態度と近寄りがたい雰囲気に、教室が一瞬だけ静かになる。
ガルシア本人は気にした様子もなく、再び机へ突っ伏した。
「……まだ終わってないから寝るなよ」
「終わったら起こして」
「起きてろ」
教室の何人かが小さく笑った。
ガルシアは返事もせず、片手だけをひらひらと振った。
その後も自己紹介は続き、最後にソウタの番が回ってきた。
再び教室中の視線が彼へ集まる。
ソウタは少しだけ迷ってから立ち上がった。
「……ソウタです」
そこで一度、言葉が止まる。
「えっと……分からないことが多いので、迷惑かけるかもしれません」
「よろしくお願いします」
わずかな沈黙のあと、アルレアが真っ先に笑った。
「よろしく、ソウタ!」
それにつられるように、教室のあちこちから声が上がった。
ソウタは少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。




