1-5 素性
「えっと……」
どう答えるべきか。
自分がどこから来たのか。それ以前に、どうしてここにいるのか。
(気づいたらここにいた、なんて言えるわけないよな……)
ソウタが返事を探していると、その隣にいた少女がゆっくりと顔を上げた。
先ほどまで伏せがちだった視線が、真っ直ぐ教師へ向けられる。
「……その人は、私の親戚です」
ソウタの目がわずかに見開かれる。
教師は少女を見たあと、ふと何かに気づいたように首を傾げた。
「……その前に、お前、名前は?」
「ノノ・エルミナです」
「それで、親戚って?」
「はい。昨日来たばかりです。向こうで色々あって、私を頼ってきたんです」
「一人でか?」
「はい」
「親は?」
「家庭の事情です」
「……曖昧だな」
「本人も話したくないでしょうし、それ以上は聞かないでください」
迷いのない返答に、教師は少しだけ目を細める。
ソウタは何も言わず、ノノの横顔を見ていた。
「それで、どこから来た?」
「それは――」
「遠方です」
ソウタは言いかけた口を閉じた。
「遠方ってどこだよ」
「かなり遠いところです」
「答えになってないぞ」
「詳しくは言えません」
「堂々と言うな」
それでもノノは表情を変えない。
「でも、身元は私が保証します」
「お前が?」
「はい」
「お前も今日入学したばっかりだろ」
「それでも、この人が危ない人じゃないのは分かっています」
言い切ったノノに、教師が小さく息を吐く。
ソウタは隣で黙ったまま、そのやり取りを見ていた。
「それで、その親戚をなんで学院に連れてきた」
「行くところがなかったので」
「だから学院に?」
「はい」
「勝手に?」
「はい」
教師が黙る。
ノノも黙る。
数秒間、二人の視線がぶつかった。
「いや、『はい』じゃないだろ」
「じゃあ、どこへ連れていけばよかったんですか」
「それを俺に聞くな」
「でも、このまま一人にしておくわけにもいきません」
「だからって教室に連れてくるな」
「他に思いつきませんでした」
「開き直るな」
教師の声が少しずつ大きくなっていく。
それでもノノは一歩も引かなかった。
アルレアは二人のやり取りを眺めながら、小さく呟く。
「……大変そうだねぇ」
ニーアは何も言わず、静かに様子を眺めている。
教師は額を押さえながら、改めてソウタへ向き直った。
「歳は?」
「十五です」
「この学院に入る予定は?」
「いや、それは……」
ソウタが答えに詰まると、すぐにノノが口を開く。
「まだ決まっていません」
「お前に聞いてない」
「本人にも分からないので」
「だったら本人に言わせろ」
「分からないものは、分からないでしょう?」
教師はしばらくノノを見つめたあと、呆れたように息を吐いた。
「お前、意外と強いな」
ノノはそれに答えなかった。
教師は教卓の上に置いていた名簿を閉じる。
「とにかく、話はあとで聞く。ここに置いておくわけにもいかないし、俺だけで決められることでもない」
そしてソウタを見る。
「学長のところに行くぞ」
「俺がですか?」
「他に誰がいる」
「ですよね……」
ソウタが肩を落とす。
教師はそのまま教室の扉へ向かった。
「ノノ、お前も来い」
そう呼ばれた瞬間、ノノの身体が小さく揺れた。
真っ直ぐだった視線がふっと緩み、戸惑うように周囲を見回す。
「……え?」
「何してる。行くぞ」
「あ……はい」
状況を飲み込めていないような顔のまま、ノノは慌てて立ち上がった。
教師は扉に手をかけると、思い出したように教室を振り返る。
「お前らはここで待ってろ。俺が戻るまで大人しくしてろよ」
「これ以上、面倒増やすなよ」
教室のあちこちから、ばらばらと返事が上がる。
ソウタも教師の後に続く。
教室を出る直前、ソウタは一度だけノノを見る。
さっきまで教師と堂々と言い合っていたとは思えないほど、今の彼女は不安そうな表情を浮かべていた。
(……大丈夫なのか、これ)
ソウタは教師の後を追って教室を出た。




