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MHISTORYM  作者: しおにまる
第1章 入学編
6/26

1-5 素性

「えっと……」


どう答えるべきか。

自分がどこから来たのか。それ以前に、どうしてここにいるのか。


(気づいたらここにいた、なんて言えるわけないよな……)


ソウタが返事を探していると、その隣にいた少女がゆっくりと顔を上げた。

先ほどまで伏せがちだった視線が、真っ直ぐ教師へ向けられる。


「……その人は、私の親戚です」


ソウタの目がわずかに見開かれる。

教師は少女を見たあと、ふと何かに気づいたように首を傾げた。


「……その前に、お前、名前は?」

「ノノ・エルミナです」

「それで、親戚って?」

「はい。昨日来たばかりです。向こうで色々あって、私を頼ってきたんです」

「一人でか?」

「はい」

「親は?」

「家庭の事情です」

「……曖昧だな」

「本人も話したくないでしょうし、それ以上は聞かないでください」


迷いのない返答に、教師は少しだけ目を細める。

ソウタは何も言わず、ノノの横顔を見ていた。


「それで、どこから来た?」

「それは――」

「遠方です」


ソウタは言いかけた口を閉じた。


「遠方ってどこだよ」

「かなり遠いところです」

「答えになってないぞ」

「詳しくは言えません」

「堂々と言うな」


それでもノノは表情を変えない。


「でも、身元は私が保証します」

「お前が?」

「はい」

「お前も今日入学したばっかりだろ」

「それでも、この人が危ない人じゃないのは分かっています」


言い切ったノノに、教師が小さく息を吐く。

ソウタは隣で黙ったまま、そのやり取りを見ていた。


「それで、その親戚をなんで学院に連れてきた」

「行くところがなかったので」

「だから学院に?」

「はい」

「勝手に?」

「はい」


教師が黙る。

ノノも黙る。

数秒間、二人の視線がぶつかった。


「いや、『はい』じゃないだろ」

「じゃあ、どこへ連れていけばよかったんですか」

「それを俺に聞くな」

「でも、このまま一人にしておくわけにもいきません」

「だからって教室に連れてくるな」

「他に思いつきませんでした」

「開き直るな」


教師の声が少しずつ大きくなっていく。

それでもノノは一歩も引かなかった。

アルレアは二人のやり取りを眺めながら、小さく呟く。


「……大変そうだねぇ」


ニーアは何も言わず、静かに様子を眺めている。

教師は額を押さえながら、改めてソウタへ向き直った。


「歳は?」

「十五です」

「この学院に入る予定は?」

「いや、それは……」


ソウタが答えに詰まると、すぐにノノが口を開く。


「まだ決まっていません」

「お前に聞いてない」

「本人にも分からないので」

「だったら本人に言わせろ」

「分からないものは、分からないでしょう?」


教師はしばらくノノを見つめたあと、呆れたように息を吐いた。


「お前、意外と強いな」


ノノはそれに答えなかった。

教師は教卓の上に置いていた名簿を閉じる。


「とにかく、話はあとで聞く。ここに置いておくわけにもいかないし、俺だけで決められることでもない」


そしてソウタを見る。


「学長のところに行くぞ」

「俺がですか?」

「他に誰がいる」

「ですよね……」


ソウタが肩を落とす。

教師はそのまま教室の扉へ向かった。


「ノノ、お前も来い」


そう呼ばれた瞬間、ノノの身体が小さく揺れた。

真っ直ぐだった視線がふっと緩み、戸惑うように周囲を見回す。


「……え?」

「何してる。行くぞ」

「あ……はい」


状況を飲み込めていないような顔のまま、ノノは慌てて立ち上がった。

教師は扉に手をかけると、思い出したように教室を振り返る。


「お前らはここで待ってろ。俺が戻るまで大人しくしてろよ」

「これ以上、面倒増やすなよ」


教室のあちこちから、ばらばらと返事が上がる。

ソウタも教師の後に続く。

教室を出る直前、ソウタは一度だけノノを見る。

さっきまで教師と堂々と言い合っていたとは思えないほど、今の彼女は不安そうな表情を浮かべていた。


(……大丈夫なのか、これ)


ソウタは教師の後を追って教室を出た。

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