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MHISTORYM  作者: しおにまる
第3章 交流編
20/26

3-5 勝負

放課後の実技場には、まだ何人かの生徒が残っていた。

授業が終わっても、ガルシアは帰ろうとせず、一人で拳を振るっている。

実技場の端で荷物をまとめていたユエルは、その様子を眺めていた。ノノはミアとの練習へ向かっており、そばにはアルレアとニーア、ソウタがいる。


「ガルシア、まだやるの?」


アルレアが声をかけると、ガルシアは拳を止めて振り返った。


「ああ。まだ暴れ足りねぇんだよ」

「この前も同じこと言ってたじゃん!」

「だったらお前が相手するか?」

「えー、私は遠慮しとく!」

「なんだよ、つまんねぇな」


ガルシアは肩を回し、再び拳を構えた。

その時、実技場の入口から大きな声が響いた。


「おい、ガルシア!」


振り返ると、ダンがこちらへ歩いてきていた。ガルシアはその顔を見るなり、露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「げっ、またお前かよ」

「今日こそ勝負しろ!」

「お前、そればっかだな」

「うるせぇ! 今度こそ勝ってやるからな!」


ダンは自信満々に拳を握った。

ガルシアはしばらくその顔を眺めていたが、やがて口元を吊り上げた。


「へぇ。そこまで言うなら相手してやるよ」

「おっ、マジか!」

「ちょうど暴れ足りなかったところだ。一回だけだからな」

「おう! 望むところだ!」


ダンは嬉しそうに笑い、すぐに準備を始めた。

その様子を見ていたアルレアが、ユエルの袖を引く。


「ねえねえ、また勝負するんだって!」

「見れば分かる」

「今度はどっちが勝つかな?」

「さあな。前は相打ちだったけど、今回はどうだろうな」


二人のやり取りを聞いていたソウタも、興味深そうに実技場の中央へ目を向けた。


「ダン、最近よく練習してるみたいだよ」

「そうなの?」

「うん。何度か一人で残ってるのを見かけたんだ」

「へぇ。あいつも頑張ってるんだな」


ユエルは準備運動をしているダンに目を向けた。

以前の模擬戦では、勢いに任せてガルシアと拳をぶつけ合っていた。あれからそれほど時間は経っていないが、何か変わったのだろうか。


「おい、リキト先生!」


ダンが実技場の隅に向かって声を張り上げた。

そこではリキトが木陰に腰を下ろし、授業の記録を確認していた。


「ん?」

「俺たちの勝負、見ててくれねぇか?」

「はぁ? 授業はもう終わっただろ」

「頼むって! すぐ終わるからよ!」

「ったく、面倒だな」


リキトはため息をつくと、指先を軽く動かした。

近くで待機していた二機の小型ドローンが浮き上がり、ダンとガルシアの周囲へ移動する。


「判定はこいつらに任せる。勝負が決まったらすぐ止まれよ」

「おう!」

「分かってるって」


リキトは再び木陰へもたれかかった。


「怪我しても泣くなよ」

「誰が泣くか!」


ダンが言い返すと、ガルシアが鼻で笑った。


「負けて泣くんじゃねぇぞ?」

「そっちこそ覚悟しとけよ!」


二人が向かい合うと、周囲にいた生徒たちも足を止めた。

ユエルたちは邪魔にならない場所まで下がり、勝負を見守ることにした。

その時、アルレアが隣のソウタを見上げた。


「そういえばソウタ、魔法の方はどう? 何か分かった?」

「いや、まだなんだ」

「この前は火も出なかったし、空も飛べなかったんだよね?」

「うん。今度は身体を強くする魔法かと思って、いろいろ試してみたんだけど」

「どうだった?」

「重い物を持ったり、速く走ろうとしてみたり。でも、いつもと変わらなかったよ」

「そっかぁ。難しいね」


ソウタは困ったように笑った。

ユエルも少し考えたが、今のところ思い当たるものはない。


「まあ、焦っても仕方ないだろ」

「うん。もう少し探してみるよ」


その会話が終わる頃、実技場の中央では二人が構えを取っていた。


「準備はいいか?」


リキトの声に、ダンとガルシアが頷く。

二機のドローンが、それぞれの位置についた。


「じゃあ、始め!」


合図と同時に動いたのはダンだった。

地面を蹴り、一気に距離を詰める。右拳を大きく振りかぶったかと思うと、その手を途中で止め、素早く左を突き出した。

ガルシアは体を傾けてかわす。しかし、ダンはそれを見越していたように、すぐさま右拳を繰り出した。

ガルシアが半歩下がる。拳は届かなかったが、ダンは深追いせず、すぐに構え直した。


「おっ?」


ガルシアが小さく声を漏らした。


「どうした! さっさとかかってこいよ!」

「言われなくても!」


今度はガルシアが踏み込んだ。

鋭い右拳がダンの顔へ迫る。だが、ダンは上体を引いてそれをかわし、すぐに拳を返した。

ガルシアはその一撃を腕で弾き、距離を取った。


「おいおい、そんなもんか?」

「まだ始まったばっかだろ!」

「だったらもっと来い!」


ガルシアが笑う。

二人は再び拳を交え始めた。


「すごい! ダン、結構やるじゃん!」


アルレアが身を乗り出す。

ユエルもダンの動きが変わっていることには気づいていた。

以前のダンは、相手に近づけばとにかく拳を振るっていた。しかし今は、攻撃をかわした後も無理に追いかけず、次の動きに備えている。踏み込む時も、後ろへ下がる時も、足が止まらない。


「無駄な動きが減ってるな」

「うん。ちゃんと相手を見てるね」


ソウタが頷いた。

その隣でニーアも静かに勝負を見つめている。


「でも、ガルシアもまだ余裕がありそう」

「ああ。ダンがどこまでついていけるかだな」


中央では、ガルシアが攻撃の手を速めていた。

左右の拳を繰り出し、ダンを少しずつ後ろへ追い込んでいく。ダンも必死に応戦し、時折鋭い反撃を返していた。

その中で、ダンは何度もガルシアの踏み込みを見ていた。

前回の模擬戦で、二人は互いの拳を同時に当て、相打ちとなった。あの時の距離を覚えているのか、ダンはガルシアが踏み込むたびに、拳の届かないぎりぎりの位置へ下がっていた。


「おらっ!」


ガルシアの右拳が迫る。

ダンはわずかに後ろへ下がった。拳は目の前を通り過ぎる。

そこから反撃しようと前へ出たが、ガルシアは素早く身を引き、攻撃を避けた。


「ちっ、逃げんな!」

「お前が遅ぇんだよ!」


ガルシアが笑いながら、再び構える。

ダンも拳を握り直した。

次の瞬間、ガルシアが地面を蹴った。

先ほどまでと同じ踏み込み。

ダンはすぐに後ろへ下がる。

これまで何度も拳をかわしてきた距離だった。だが、ガルシアはそこからさらに半歩、深く踏み込んできた。


「なっ!?」


ダンの表情が変わる。

届かないはずの拳が、目の前まで迫っていた。

とっさに左腕を上げ、顔への直撃を防ぐ。鈍い音とともに腕が弾かれ、ダンの体がわずかに傾いた。

しかし、そのまま倒れはしなかった。

踏ん張った右足に力を込め、空いていた右拳を振り抜く。


「おらぁっ!」


ガルシアが目を見開いた。

反撃を避けようと顔を引く。

だが、ダンの拳はその頬をかすめていった。

二人が離れる。

ガルシアは一瞬だけ動きを止め、ダンを見た。

ダンは荒く息を吐きながらも、まだ拳を構えている。


「へっ、どうだ!」


ダンが笑った。

ガルシアは自分の頬に軽く触れ、それから嬉しそうに口元を吊り上げた。


「ははっ! やるじゃねぇか!」


「ねえ、今の見た!?」


アルレアが興奮した様子でユエルに話しかける。


「ああ。よく返したな」

「最初の攻撃は避けられると思ってたみたい」


ニーアの言葉に、ユエルが頷いた。


「それでも反撃できたのはすごいね」


ソウタも感心したように呟いた。

ユエルは中央の二人へ目を戻す。

ガルシアの表情が、先ほどまでとは少し違っていた。


「おい、ダン!」

「あん?」

「次はちゃんと当ててみろよ!」

「言われなくてもそうするつもりだ!」


二人が同時に駆け出す。

ダンは先ほどと同じように左拳で牽制し、右拳を狙った。しかしガルシアは左の牽制に反応せず、体を低くして懐へ飛び込んだ。

ダンが慌てて拳を引く。

そこへガルシアの右拳が迫った。ダンは身をひねってかわすが、続けて放たれた左拳に対応しきれない。

腹部へ拳が入り、ダンの体がくの字に折れた。


「ぐっ!」


それでもダンは倒れず、反撃しようと腕を上げた。

だが、ガルシアはすでにその動きを見ていた。

素早く横へ回り込み、ダンの拳をかわす。そのまま体勢を崩したダンの背後へ抜け、振り返るよりも早く拳を突き出した。

その拳が、ダンの顔のすぐ手前で止まる。


「そこまで!」


リキトの声が響き、二機のドローンが勝負の終了を告げた。

ダンは拳を構えたまま動きを止め、ゆっくりと振り返った。

目の前ではガルシアが満足そうに笑っている。


「俺の勝ちだな」

「くっそぉぉ!」


ダンが悔しそうに叫び、その場に座り込んだ。


「なんで当たんねぇんだよ!」

「お前、最後は拳を振るうのに必死だったじゃねぇか」

「うるせぇ! 次は絶対当ててやる!」

「おう、期待してるぜ!」


ガルシアは楽しそうに笑い、ダンへ手を差し出した。

ダンは少し驚いた顔をしたが、その手を掴んで立ち上がる。


「いい勝負だったじゃん!」


アルレアが二人のもとへ駆け寄った。


「ダン、すごかったよ! 途中でガルシアに当てそうだったし!」

「当てそうじゃダメなんだよ!」

「でも、いい動きだったと思う」


ソウタの言葉に、ダンは少しだけ表情を緩めた。

ガルシアも腕を組み、満足そうに頷く。


「まあ、前よりは強くなったじゃねぇか」

「おっ、分かるか!」

「調子乗んな。まだまだ俺の方が強ぇからな」

「今だけだ! そのうち絶対追い抜いてやる!」


ダンが拳を突き出す。

ガルシアはそれを見て、声を上げて笑った。


「できるもんならやってみろ!」


そのやり取りを眺めながら、ユエルは小さく息をついた。

勝負が終わったというのに、ダンの勢いはまるで衰えていない。むしろ、負けたことで余計に燃えているようだった。


「よし! ガルシア、もう一回だ!」

「あ? さっき一回だけって言っただろ」

「今度こそ勝てる気がするんだよ!」

「気のせいだ。帰るぞ」

「待てって! あと一回!」

「しつけぇな!」


ガルシアは呆れたように背を向けた。

それでもダンは諦めず、後ろをついていく。


「なあ! 明日はどうだ!?」

「明日もやらねぇ!」

「じゃあ明後日!」

「同じだっつーの!」


二人の声が実技場に響く。

ガルシアは面倒くさそうに手を振っていた。


「ダンって、本当に諦めないね!」

「そうだな」

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