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MHISTORYM  作者: しおにまる
第3章 交流編
17/26

3-2 談笑

朝の二組の教室は、今日も賑やかだった。

登校してきた生徒たちがそれぞれの席で談笑し、授業の始まりを待っている。

そんな中、教室の一角では、ダンが机に身を乗り出していた。


「なあ、カイル。どうすりゃあいつ、勝負を受けてくれると思う?」

「まずは毎日誘うのをやめてみたら?」

「それじゃいつまで経っても勝負できねぇだろ!」

「でも、昨日も断られたんだよね?」

「昨日はあいつが疲れてただけだ。別に嫌がってたわけじゃねぇ!」


カイルは困ったように笑った。

その隣では、クロードが本を読みながら二人の会話を聞いている。


「それなら、今日は誘わない方がいいんじゃないかな」

「なんでだよ?」

「昨日疲れていたなら、今日も疲れが残ってるかもしれないだろ?」

「なるほどな!」


ダンは納得したように頷いた。しかし、すぐに首を傾げる。


「じゃあ明日は大丈夫ってことか?」

「さあ、どうだろうね」


クロードが涼しい顔で答えると、カイルが吹き出した。


「君たち、朝から何の話をしてるんだ?」


声をかけたのは、教室へ入ってきたアーサーだった。

その姿を見つけたダンが、勢いよく振り返る。


「おお、アーサー! ちょうどいい!」

「何がちょうどいいんだ?」

「お前ならどうする? 強ぇ奴がいたら勝負してぇだろ?」

「相手によるな」

「なんだよ、それ!」

「少なくとも、嫌がっている相手に無理やり勝負を挑んだりはしない」


その言葉に、カイルが何度も頷いた。


「ほら、アーサーもこう言ってるよ」

「ちぇっ、つまんねぇ奴らだな!」


ダンは不満そうに椅子へ座り直した。

アーサーは苦笑しながら、自分の席へ向かう。


「まったく、朝から元気だな」

「ダンはいつもこんな感じだよ」


クロードが本を閉じる。

その隣では、ミアが呆れたようにため息をついていた。


「兄さんも、わざわざ相手しなくていいのに」

「面白いからね」

「もう」


ミアはそう言いながらも、それ以上は何も言わなかった。

やがて始業の鐘が鳴り、生徒たちはそれぞれの席へ戻っていった。



昼休み。

学院の食堂には、多くの生徒たちが集まっていた。

料理を受け取る列がいくつもでき、あちこちから楽しそうな声が響いている。

アーサーたち五人も、いつものように食堂へやってきた。


「よっしゃ! 今日は肉盛りにするぜ!」


ダンが真っ先に料理の並ぶカウンターへ向かう。


「また肉盛り? 昨日も食べてなかった?」


カイルが呆れたように尋ねる。


「昨日は魚だ!」

「一昨日は?」

「肉盛りだ!」

「ほら、やっぱり」


ダンは気にする様子もなく、料理を注文した。

その後ろに並んでいたアーサーも、並べられた料理へ目を向ける。

皿には厚切りの肉と、山盛りの野菜が盛り付けられていた。


「美味しそうだな。私もそれにしよう」

「おや、殿下も肉盛りかい?」


カウンターの向こうにいた女性が、笑いながら声をかけた。


「はい。お願いします」

「ソースはどうする?」

「そちらもお願いします」

「あいよ! たっぷりかけとくね!」


女性は慣れた手つきでソースをかけ、皿を差し出した。


「ありがとうございます」


アーサーが皿を受け取ると、後ろからダンが覗き込んできた。


「へえ、お前もこういうの食うんだな」

「どういう意味だ?」

「いや、王子ってもっと上品なもん食ってんのかと思ってたぜ」

「王子だって腹は減る」

「そりゃそうだけどよ!」


アーサーは不思議そうに首を傾げた。

その様子に、クロードが小さく笑う。


「ダンは王族が普段何を食べていると思ってたの?」

「そりゃお前、でっけぇ皿にちょこんと肉が乗ってて、周りに葉っぱとか飾ってあるやつだろ」

「それじゃお腹がいっぱいにならなそうだね」

「だから王子はみんな細いんじゃねぇのか?」


あまりに適当な答えに、カイルが笑いながら首を振った。


「いや、そんなわけないだろ」


アーサーも思わず口元を緩めた。

料理を受け取った五人は、食堂の中央にある長机へ向かう。

ダンが真っ先に椅子を引き、隣にカイルが腰を下ろす。クロードとミアも向かい合って座り、最後にアーサーが空いていた席へ座った。

近くの席では、別の小隊の生徒たちが昼食を取っている。


「ここ、空いてますか?」


通りかかった生徒が、長机の端を指差した。


「ああ、どうぞ」


アーサーが答えると、生徒は軽く頭を下げて席についた。

ダンはそんなやり取りにも構わず、早速肉を口へ運んでいる。


「んー! やっぱここの肉盛りはうめぇな!」

「ダン、もう少し静かに食べたら?」


ミアが呆れたように言う。


「あ? 美味いもんは美味いだろ」

「そういうことじゃないんだけど」

「まあまあ、ミア。冷めないうちに食べよう」


クロードが穏やかに声をかける。

ミアは小さくため息をつき、自分の料理へ視線を戻した。

その様子を見ていたアーサーも、肉を一切れ口へ運ぶ。

香ばしく焼かれた肉に、濃厚なソースがよく合っていた。


「確かに美味しいな」

「だろ!?」


ダンが嬉しそうに身を乗り出す。


「やっぱ分かってんじゃねぇか、アーサー!」

「そんなに大声を出さなくても聞こえてる」

「おっと、悪い悪い!」


ダンは笑いながら、再び肉を頬張った。

アーサーはそんな姿を見て、軽く首を振る。

すると、カイルがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、ダンは最初、アーサーが王子だって聞いた時も驚いてたよね」

「そりゃ驚くだろ。王子ってもっとこう、キラキラしてるもんだと思ってたからな」

「キラキラ?」


アーサーが聞き返す。


「ああ! 顔とか、雰囲気とかよ。なんつーか、近寄りがたい感じ?」

「それなら、兄上たちの方が近いかもしれないな」

「兄貴がいるのか?」

「ああ、二人いる。長兄はすでに王宮で仕事をしているし、次兄はまだこの学院に通っている」

「へえ! じゃあ兄貴もここにいるのか!」

「そうだな。もっとも、学年が違うから会う機会は少ないが」

「そいつらもキラキラしてんのか?」


アーサーは少し考えてから頷いた。


「兄上たちは母上に似ているから、見た目も華やかだと思う」

「じゃあ、アーサーは誰に似てるの?」


カイルが尋ねる。


「私は父上に似ていると言われることが多いな」

「へえ、そうなんだ」


カイルが興味深そうに頷く。

ダンは何かを考えるようにアーサーの顔を見つめていたが、ふと別のことが気になったらしい。


「そういや、お前の兄貴たちも強ぇのか?」

「ああ、二人とも僕よりずっと強いよ」

「マジかよ! 王子って意外と強ぇんだな!」

「だから、その偏見はどこから来るんだ?」


アーサーが呆れたように返すと、クロードが小さく笑った。


「今度、実技場でお兄さんを見かけたら教えてほしいな」

「ああ。機会があれば紹介するよ」

「俺も会いてぇ! 強ぇなら一回戦ってみてぇな!」


ダンが勢いよく拳を握る。


「やめておいた方がいいと思うぞ」

「なんでだよ!」

「兄上たちは、私ほど甘くないからな」


アーサーがさらりと答えると、カイルが笑った。


「ダン、また勝負を断られる相手が増えそうだね」

「うるせぇ!」


そんな話をしていると、食堂の入口から数人の生徒が入ってきた。

その中に、見覚えのある少女がいた。

ミレイ・ハーヴェル。以前の模擬戦で対戦した、あの足の速い生徒だ。

ミレイもアーサーに気づき、近くまで歩いてきた。


「アーサー殿下、こんにちは」

「ああ、こんにちは。これから昼食かい?」

「はい。少し出遅れてしまいました」


ミレイは料理のカウンターへ目を向けた。


「今日は人が多いですね」

「そうだな。私たちも少し並んだよ」


そこでダンが、勢いよく口を挟んだ。


「おっ! お前、こないだの足の速ぇ奴だよな!」

「えっ? はい、そうですけど」

「あの動き、すげぇよな! どうやってんだ?」

「えっと、毎日走ってますけど……」

「なるほどな! やっぱ走り込みか!」


ダンは一人で納得したように頷いた。

ミレイは少し戸惑った顔をしていたが、やがて小さく笑った。


「それでは、失礼します」

「ああ。また授業で」


ミレイは軽く頭を下げ、仲間たちのもとへ戻っていった。


「でも、よくあれを止められたよね」


カイルが言うと、クロードも頷いた。


「アーサーの判断が早かったからね」

「いや、あれはみんなが動いてくれたおかげだ」


アーサーが答えると、ダンが大きく笑った。


「ま、次に当たっても俺らが勝つけどな!」

「ずいぶん自信があるね」

「当たり前だろ!」


ダンは拳を握りしめた。


「今度は俺も最後まで戦ってやる!」

「期待しているよ。ただし、無茶はしないでくれ」

「おう! 任せとけ!」


勢いよく頷くダンに、カイルが苦笑いを浮かべた。


「本当に分かってるのかな」

「さあね」


クロードが笑って答える。

その時、壁に掛けられた時計を見たミアが、スプーンを置いた。


「あ、もうこんな時間」


ミアはスープを飲み終えると、残していたパンを一つ手に取った。


「兄さん、私、先に行くね」

「ミア、もう行くのか?」

「うん。ちょっと用事があるから」

「そう。気をつけてね」

「分かってる」


ミアは立ち上がり、食器を片付けると、パンを片手に食堂を出ていった。

クロードはその背中を見送ってから、再び食事へ戻る。


「ミア、何かあるの?」


カイルが尋ねた。


「さあ。誰かと約束してるみたいだけど」

「へえ、珍しいな」


ダンが何気なく呟く。


「何が?」

「いや、いつもお前と一緒にいるだろ?」

「そうだね」


クロードは穏やかに答えた。


「でも、友達ができたならいいことじゃないかな」


そう言って、残っていたパンを手に取った。

その隣で、ダンはふとアーサーへ視線を戻した。

しばらく顔を眺めていたかと思うと、不思議そうに首を傾げる。


「なんだ?」


アーサーが尋ねる。


「いや、王様ってこんな顔してんのかと思ってよ」

「おい、ダン」


カイルが慌てて声をかけた。


「さすがに王様の顔くらい知ってるだろ?」

「見たことはあるけど、そんなじっくり見ねぇだろ!」


ダンが当然のように答える。

その横で、クロードが笑みを浮かべた。


「じゃあ、今度アーサーと国王陛下を並べて見比べてみようか」

「おっ、それいいな!」

「いや、よくないだろ!」


カイルが即座に突っ込む。

アーサーも思わず吹き出してしまった。


「ははっ! 父上を何だと思ってるんだ!」

「だって似てるんだろ? 並べてみたら面白そうじゃねぇか!」

「面白がっていい相手じゃないだろ!」


カイルが呆れたように言うが、ダンはまったく気にしていない。


「じゃあ、今度王宮に行った時に頼んでくれよ!」

「断る」

「なんでだよ!」

「父上に何と説明すればいいんだ?」

「そりゃ、『俺と顔を比べたい奴がいる』って言やいいだろ!」

「ははっ! そんなことを言ったら、父上も驚くだろうな!」


アーサーは再び声を上げて笑った。

クロードも楽しそうに笑い、カイルは呆れながらも肩を揺らしている。


「ダン、君は本当に面白いね」

「だろ!?」

「褒められてると思う?」


カイルが尋ねると、ダンは自信満々に頷いた。


「当たり前だろ!」


その返事に、三人はまた笑い出した。



午後の授業が終わり、教室には帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。

アーサーも机の上の教科書を鞄へしまい、席を立つ。

近くでは、ダンとカイルが何やら話していた。


「なあ、今日は実技場行かねぇか?」

「また練習するの?」

「おう! 昨日、ガルシアと勝負できなかったからな!」

「それと今日の練習に何の関係があるのさ」

「次こそ勝つために決まってんだろ!」


カイルは呆れながらも、鞄を肩に掛けた。


「分かったよ。少しだけなら付き合うよ」

「よっしゃ! そうこなくっちゃな!」


ダンが嬉しそうに拳を握る。

その様子を見ていたアーサーに、クロードが声をかけた。


「アーサーはこの後どうするの?」

「僕は寮へ戻るつもりだ。クロードは?」

「ちょっと図書館に寄ってくるよ」

「図書館か。何か調べ物でも?」

「いや、読みかけの本があるだけさ」


クロードはそう答え、鞄を持ち上げた。

その隣では、ミアも帰り支度を終えていた。


「兄さん、また本?」

「うん。ミアはどうする?」

「私は先に帰る。今日はちょっと疲れたから」

「そっか。それじゃ、また後で」


ミアは小さく頷いた。

アーサーは二人のやり取りを聞きながら、教室の扉へ向かう。


「じゃあ、また明日」


アーサーが声をかけると、クロードが手を振った。


「うん、また明日」

「おう! 明日もよろしくな!」


ダンが大きな声で答える。

カイルも笑いながら手を上げた。


「また明日、アーサー!」


教室を出ると、廊下には帰宅する生徒たちの姿があった。

アーサーは階段へ向かいながら、ふと足を緩めた。

小さく首を振り、口元を緩めたまま、再び歩き出す。


「まったく、変な奴らだな」

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