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MHISTORYM  作者: しおにまる
第3章 交流編
16/26

3-1 変化

休日が明け、学院にはいつもの賑やかさが戻っていた。

朝の教室では、生徒たちが思い思いに会話を楽しみ、授業の始まりを待っている。


「おっはよー!」


元気な声とともに教室へ入ってきたのは、アルレアだった。

その隣には、いつものようにニーアが並んでいる。

二人が席へ向かおうとした時、アルレアは教室の隅に座るガルシアの姿を見つけた。

途端に、その顔にいたずらっぽい笑みが浮かぶ。


「おはよ、ガルシア!」

「あ? 朝から元気だな、お前」

「ねえねえ、昨日は楽しかった?」

「昨日?」


ガルシアは一瞬考えた後、何かを察したように眉をひそめた。


「おい、てめぇ」

「ビーストモード!」


アルレアが両手を爪のように構え、小声で叫んだ。

ガルシアは勢いよく立ち上がる。


「それは言うなっつっただろ!」

「あははっ! ごめんごめん!」

「全然悪いと思ってねぇだろ!」


騒ぎを聞きつけたユエルが、隣の席から顔を上げた。


「朝から騒がしいな」

「聞いてよ、ユエル! 昨日ガルシアがね!」

「おい、アルレア!」


慌てるガルシアを見て、アルレアはますます楽しそうに笑った。


「弟くんも妹ちゃんも、すっごく喜んでたよね!」

「うるせぇな! もう忘れろ!」

「いいお姉ちゃんだった」


ニーアが静かにそう言うと、ガルシアは一瞬言葉に詰まった。


「ったく、好きに言ってろ」


そう言って椅子に座り直す。

その耳が少し赤くなっていることに気づいたアルレアだったが、それ以上からかうのはやめておいた。


しばらくすると、ソウタとノノが教室へ入ってきた。


「おはよう、みんな」

「お、おはようございます!」


二人の姿に、アルレアが手を振った。


「おはよ! ノノ、今日は早いね!」

「はい。朝、少し練習していたので」

「えっ、朝から? すごいじゃん!」

「い、いえ! まだ全然上手くできなくて」


ノノは照れくさそうに笑った。

その背中には、訓練用の槍が背負われている。


「昨日も練習してたの?」


アルレアが尋ねると、ノノは小さく頷いた。


「はい。その時に、少し教えてもらったことがあって」

「そうなんだ! 誰に?」

「えっと、二組の、ミアさんです」

「ミアちゃん!?」


アルレアが驚いたように声を上げる。

以前の食堂での様子を思い出したのか、少し意外そうな顔をしていた。


「はい。槍の使い方について、助言をもらったんです」


ノノはそう言って、背中の槍へ視線を向ける。


「だから、少しでも上手くなりたくて」

「いいじゃん! じゃあ今日の実技、一緒に頑張ろ!」

「は、はい!」


その時、教室の扉が開いた。

入ってきたのは、相変わらず眠たそうな顔をしたリキトだった。


「おー、席につけ。始めるぞ」


生徒たちがそれぞれの席へ戻っていく。

リキトは教卓に書類を置くと、大きく欠伸をした。


「今日は午前が座学、午後は実技だ。前回の模擬戦で、自分らの足りないところくらい分かっただろ。今日は各自で練習しろ」

「先生、自由にやっていいんですか?」


生徒の一人が尋ねる。


「ああ。ただし、遊んでいいとは言ってないからな。適当にやってる奴は分かるぞ」


そう言って、リキトは教卓の横に浮かぶ小型ドローンを指で軽く叩いた。


「んじゃ、始めるか」


午後。

実技場では、生徒たちがそれぞれの武器を手に取り、練習の準備を進めていた。

剣を構える者、魔法の制御を確かめる者、数人で組手を始める者。

広い実技場のあちこちから、武器のぶつかる音や掛け声が響いていた。

その様子を、リキトはいつもの木陰から眺めていた。


「さて、どうする?」


ユエルが尋ねると、ガルシアが拳を鳴らした。


「俺は誰かとやり合えりゃそれでいいぜ」

「じゃあ、ユエルとやれば?」


アルレアが笑いながら提案する。

ガルシアはユエルを見た。


「お、いいじゃねぇか。前から一回やってみたかったんだよ」

「別に構わない」

「決まりだな!」


ガルシアは嬉しそうに拳を握った。


「じゃあ私はニーアと練習しよっかな!」

「うん」

「ソウタとノノはどうする?」


アルレアが尋ねると、ソウタがノノへ視線を向けた。


「俺たちも一緒に練習しようか」

「は、はい! お願いします!」


それぞれ相手が決まり、六人は実技場の中へ散っていった。


ユエルとガルシアは、少し離れた場所で向かい合っていた。

ユエルは訓練用の木剣を構え、ガルシアは拳を握る。


「先に言っとくが、俺は手加減しねぇぞ」

「分かった」

「へっ、いい返事じゃねぇか!」


ガルシアが地面を蹴った。

一気に距離を詰め、右拳を振り抜く。ユエルは木剣で受け止め、鈍い音が響いた。


「結構やるじゃねぇか!」

「そっちこそ」


ガルシアがもう一度踏み込む。その瞬間、ユエルの姿が消えた。


「なっ!?」


背後に現れたユエルの木剣を、ガルシアは咄嗟に体をひねってかわし、勢いのまま拳を突き出す。ユエルは後ろへ跳んで距離を取った。


「へぇ、今の避けるのか」

「当たり前だろ!」


ガルシアは楽しそうに笑っていた。ユエルの口元にも、わずかな笑みが浮かんでいる。

二人は再び構え直し、地面を蹴った。


少し離れた射撃場では、アルレアが二丁の訓練用拳銃を構えていた。前方では、ニーアが氷の的を左右に動かしている。


「いくよー!」


乾いた銃声が続き、一発目は命中。二発目は的のすぐ横を通り抜けた。


「あーっ! 外した!」

「少し速かった?」

「ううん! もう一回!」


アルレアが銃を構え直すと、ニーアは再び氷の的を動かし始めた。

何度か繰り返すうちに、アルレアの弾は少しずつ的を捉えるようになっていった。


一方、ソウタとノノは実技場の端で向かい合っていた。

ソウタは片手剣を構え、ノノは両手で槍を握っている。


「じゃあ、始めようか」

「はい!」


一度目は、ソウタがノノの突きをかわし、剣が肩に触れる寸前で止まった。

二度目、ノノは突きを引き戻して、近づくソウタへもう一度穂先を向けた。ソウタが足を止める。


「うん、今のはよかったね。さっきは攻撃した後に止まっちゃってたけど、今はちゃんと次の動きができてたよ」

「昨日、ミアさんに言われたことを、ずっと考えていて」

「いいことを教えてもらったんだね」

「はい!」


ノノは再び槍を構えた。


「もう一回、お願いします!」

「もちろん」


二人は再び向かい合った。


それからしばらくして、実技場に終了の合図が響いた。

生徒たちが練習を終え、使っていた武器を片付け始める。

ユエルたちもそれぞれの練習を終え、木陰に集まっていた。


「あー、疲れたー!」


アルレアが大きく背伸びをする。

その隣では、ガルシアが不満そうにユエルを睨んでいた。


「くそっ、あと一発だったのによ」

「三回は言ってたぞ、それ」

「うるせぇ! 次は絶対当ててやる!」


ユエルは呆れたように肩をすくめる。

その様子に、アルレアが笑った。


「二人とも楽しそうだったね!」

「おう! こいつ、なかなかやるじゃねぇか!」


ガルシアはユエルの肩を軽く叩いた。


「今度はもっと本気でやろうぜ!」

「訓練なんだから加減はしろよ」

「分かってるって!」


本当に分かっているのか怪しい返事だったが、ユエルはそれ以上何も言わなかった。


「ノノはどうだった?」


ニーアが尋ねると、ノノは少し照れくさそうに笑った。


「えっと、ソウタさんには一回も勝てませんでした」

「でも、最初よりずっと動けるようになってたよ」


ソウタがそう言うと、ノノは嬉しそうに頷いた。


「ありがとうございます!」

「そういえば、ソウタの魔法ってまだ分かんないの?」


アルレアが思い出したように尋ねる。


「うん。いろいろ試してるんだけどね」

「炎とか出してみた?」

「やったよ。何も出なかった」

「じゃあ、空を飛ぶとか!」

「どうやって?」

「こう、飛べー! って!」


アルレアが両腕を広げ、その場で跳ねる。


「それで飛べたら苦労しないよ」


ソウタの返事に、ユエルが呆れたように口を開いた。


「お前が跳ねても飛ばないだろ」

「やってみなきゃ分かんないじゃん!」


アルレアは笑いながら両腕を下ろした。


「あー、私ももっと練習しなきゃ!」

「まずは命中率かな」

「あっ! それは言わない約束でしょ!」

「約束してない」

「ニーア!」


笑い声が響く。

少し離れた木陰では、リキトがその様子を眺めていた。

手元の端末には、ドローンが記録した生徒たちの訓練結果が並んでいる。

リキトは画面を軽く操作し、ユエルたち六人の記録を確認した。


「まあ、悪くはないか」


そう呟くと、端末を閉じた。


「おーい、いつまで喋ってんだ。片付け終わったら教室戻れよー!」


気の抜けた声が実技場に響いた。


授業が終わり、生徒たちはそれぞれ帰り支度を始めていた。

アルレアとニーアも鞄を手に取り、教室を出ようとしている。

すると、廊下の向こうから大きな声が聞こえてきた。


「おっ! ガルシアじゃねぇか!」


声の主はダンだった。

隣にはカイルもいる。

ガルシアはその姿を見るなり、露骨に面倒くさそうな顔をした。


「げっ、またてめぇか」

「ちょうどいい! この前の続き、やろうぜ!」

「やらねぇ」

「即答かよ!」

「今日はもう疲れてんだよ」


ガルシアは面倒くさそうに手を振った。


「ダン、今日はもうやめておこうよ。女の子相手に、しつこく誘うのはよくないよ」


カイルが苦笑いを浮かべる。

その瞬間、ガルシアの眉がぴくりと動いた。


「あ?」

「えっ?」

「誰が女の子扱いしろっつった」

「ごめん、そういう意味じゃなくて」


ダンが吹き出した。


「ははっ! こいつを女の子扱いしたら、殴られるぞ!」

「うるせぇ! てめぇも黙ってろ!」


ガルシアは二人を睨みつけ、足早に廊下を進んでいった。

ダンは気にした様子もなく、その背中へ声を投げる。


「じゃあ、また今度な!」


その声に、ガルシアは振り返ることなく片手を上げた。

その背中を見送りながら、アルレアはくすくすと笑っていた。


「ガルシア、すっかり気に入られちゃったね」

「そうだね」


ニーアも小さく笑う。

その隣で、ユエルはダンへ視線を向けた。


「お前も懲りないな」

「おう! 次こそ勝つからな!」


ダンは親指を立て、笑顔で答えた。


その後、ユエルたちが廊下を歩いていると、ノノが向こうから歩いてくるミアの姿を見つけた。

ミアは一人で、数冊の教科書を抱えている。


「あっ、ミアさん!」


ノノが声をかけると、ミアは足を止めた。


「何?」

「あ、あの! 昨日はありがとうございました!」

「別に。大したことしてないでしょ」

「でも、今日の訓練で少しだけできるようになったんです!」


ノノが嬉しそうに話す。

ミアは少し意外そうにノノを見た。


「ふーん。じゃあ、練習した甲斐があったんじゃない?」

「はい!」


ノノは大きく頷いた。


「あ、あの! もしよかったら、また教えてもらえませんか?」


ミアは少し呆れたようにノノを見た。


「毎日は無理って言ったでしょ」

「は、はい!」

「明日の昼休み、実技場。遅れたら知らないから」

「ありがとうございます!」


ノノが深く頭を下げる。ミアは何も言わず、再び歩き始めた。


「よかったね、ノノ!」


アルレアが声をかける。


「はい! もっと頑張ります!」


ノノは胸の前で小さく拳を握った。


「じゃあ、私たちも帰ろっか!」


アルレアの声に、皆が頷いた。

夕方の学院には、帰路につく生徒たちの声が響いていた。

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