2-7 一歩
前の試合を終えた生徒たちが実技場の端へ戻ると、リキトが次の対戦を告げた。
「レインフォード、次はお前らだ。相手はアークレイン小隊。護衛対象は変えても構わない。決まったら配置につけ」
ユエルたちは互いに顔を見合わせた。 アルレアが気合いを入れるように拳を握る。
「よーし、今度こそ勝とうね!」 「今度こそぶっ潰す。そのためなら作戦くらい聞いてやるよ」
ガルシアが腕を組んで答えた。
「おっ、ガルシアがやる気だ!」 「俺は最初からやる気だっつーの!」
アルレアが笑うと、ソウタも小さく笑った。
「でも、今度はちゃんとお互いの動きを見ながら戦おう。俺たちも連携すれば、きっと勝てると思う」 「護衛対象はどうする?」
ニーアが尋ねると、ユエルはノノへ視線を向けた。
「俺はそのままでいいと思う。ノノはどうだ?」 「は、はい! 私でよければ……」
ノノは慌てて頷いた。 ユエルたちが簡単に役割を確認する中、ノノが遠慮がちに手を上げる。
「あ、あの……私も、何かした方がいいですよね……」 「ノノは護衛対象なんだから、無理に前に出なくてもいいと思うよ」
ソウタがそう答えると、ノノは申し訳なさそうに俯いた。
「でも、私……護衛対象じゃなくても弱いので……。せめて、捨て駒くらいにはなれるかなって……」
「おい」
突然、低い声が割って入った。 振り向くと、いつの間にかリキトがすぐ後ろに立っていた。
「今、なんつった?」 「えっ……あ、その……」 「捨て駒だ? そんな考えで本物の戦場に出たら、ただの無駄死にだぞ」
普段の気だるそうな口調とは違い、その声には明らかな怒りが混じっていた。
「自分が弱いと思うなら、まず生き残ることを考えろ。勝手に死ぬことを役目にすんな」 「は、はい……すみません……」
ノノが縮こまると、リキトは短く息を吐いた。
「謝れって言ってんじゃねぇ。覚えとけって話だ」
それだけ言うと、リキトは実技場の中央へ向かっていった。 ノノはその背中を見つめ、小さく頷いた。
「ノノ、大丈夫?」
アルレアが顔を覗き込む。
「は、はい……。私、頑張ります」 「うん! 一緒に頑張ろ!」
ユエルたちはそれぞれ武器を手に取り、配置についた。 実技場には複数の柱や障害物が設置され、見通しの悪い場所も作られている。 アーサーは木剣を手に前方へ立ち、カイルとダンがその左右に並んだ。クロードは少し離れた位置で拳銃を構え、ミアはライフルを手にさらに後方へ下がっていく。 アーサー小隊の護衛対象も変更はなく、アーサー自身が務めるようだ。 対するユエルたちは、ニーアとノノを後方に置き、残る四人が前に出る形を取った。 頭上にはリキトの小型ドローンが飛び交っている。 両小隊の準備が整ったのを確認すると、開始を知らせる電子音が響いた。
最初に動いたのはガルシアだった。 獣化した脚で地面を蹴り、一気に距離を詰める。 しかし、先ほどのように敵陣の奥まで突っ込むことはしなかった。 正面に立ちはだかったダンが拳を構える。
「おっ、お前か!」 「さっきは暴れ足りなかったんだよ!」
二人の拳が激しくぶつかった。 ガルシアが力任せに攻め込む一方、ダンはその勢いを受け流しながら反撃を繰り出す。 ダンが横へ回り込もうとした瞬間、その足元に薄い氷が広がった。
「うおっ!」
滑りかけたダンが、慌てて踏みとどまる。 その隙を逃さず、ガルシアが拳を振り抜いた。 ダンは両腕を交差させて受け止めたものの、衝撃で数歩後退する。 少し離れた位置では、ニーアが片手を向けていた。
「ナイス、ニーア!」 「足元、気をつけて」
ガルシアは口元を吊り上げ、再びダンへ向かって駆け出した。
一方、ユエルはアーサーとの距離を詰めていた。 姿が消え、次の瞬間には別の場所に現れる。 アーサーの側面へ回り込み、木剣を振り抜いた。 しかし、その一撃はアーサーの剣に受け止められる。
「先ほどの彼女には、感謝しないとな」
アーサーが小さく呟いた。 先ほどの試合で戦ったミレイの高速移動。その経験が、目で追い切れない相手への対処に活きていた。 もちろん、瞬間移動と高速移動は違う。だが、相手の動きを予測して攻撃に備えるという点では共通している。 ユエルが再び姿を消した。 アーサーはすぐに周囲へ視線を走らせる。 次の瞬間、背後に気配を感じて振り返った。 木剣同士がぶつかり、乾いた音が響く。 ユエルはそのまま押し込もうとしたが、遠方から銃声が響いた。 ミアの射撃だ。 ユエルは咄嗟にアーサーから離れ、柱の陰へ飛び込んだ。
(厄介だな)
ミアはユエルの瞬間移動が届かない距離を保ちながら、常にライフルの銃口を向けている。 不用意な位置へ転移すれば、すぐに狙い撃ちされるだろう。 ユエルは柱から顔を出し、アーサーの位置を確認した。 次の瞬間、視界に入る別の障害物のそばへ転移し、そこから一気に距離を詰める。 アーサーの身体がミアとの射線に重なる位置を取り、木剣を振るった。 アーサーはその攻撃を受け止めながら、一歩ずつ位置を変えていく。 ユエルが距離を取ろうとすると、すぐにミアの銃口が向けられる。逆にアーサーへ接近すれば、味方を巻き込む危険があるため簡単には撃てない。 ユエルはそれを利用して攻撃を続けた。 アーサーも次第にその動きへ対応していく。 互いに決定打を与えられないまま、激しい攻防が続いた。
その頃、ソウタはカイルの槍に苦戦していた。 機械仕掛けの槍は穂先を訓練用に交換してあるものの、その独特な機構は健在だった。 突然変わる間合いに対応しきれず、ソウタは何度も後退を余儀なくされる。 カイルが槍を突き出す。 ソウタは木剣で受け流し、横へ跳んだ。 追撃が来る前に距離を取り、周囲へ目を走らせる。 少し離れた場所で、ニーアがノノを守りながら周囲の戦況を確認していた。 ソウタはカイルの攻撃を一度かわすと、ニーアの近くへ下がった。
「ニーア、ちょっとお願いがあるんだけど」 「何?」 「氷の壁を何枚か出してほしいんだ。一枚だけ、鏡みたいに周りが映るようにできる?」 「できる」 「じゃあ、あっちの柱の近くにお願い。少し角度をつけて」
ニーアは短く頷き、ノノに柱の陰から出ないよう伝えると、片手を地面へ向けた。 柱の周囲に、いくつもの氷壁がせり上がる。 そのうちの一枚だけは、表面が磨かれた鏡のように滑らかで、周囲の景色を鮮明に映し出していた。 ソウタは礼を言うと、再びカイルの方へ駆け出した。 氷壁の間を移動しながら攻撃を仕掛け、すぐに別の壁の陰へ下がる。 カイルも負けじと槍を振るい、ソウタを追い詰めていった。 何度か攻防を繰り返すうち、カイルはソウタが壁の陰から顔を出すタイミングを掴み始めていた。 姿が見えた瞬間に攻撃を仕掛ければ、相手は再び壁の陰へ逃げる。 その繰り返しだ。 そして、ソウタがまた一枚の氷壁の陰へ飛び込んだ。 カイルは槍を構え直し、追撃のために踏み込む。 その瞬間、右前方にソウタの姿が見えた。 氷壁の隙間から飛び出そうとしているように見えたその姿へ、カイルは反射的に槍を突き出す。 しかし、穂先は空を切った。 そこにいたのは、鏡面に映ったソウタの姿だった。 本物のソウタは、すでに反対側へ回り込んでいた。 カイルが違和感に気づき、振り向く。 だが、その時にはソウタの木剣が振り抜かれていた。 鈍い音とともに、剣がカイルの脇腹を捉える。
「いって!」
カイルが思わず身体を折った。 直後、頭上のドローンから短い電子音が鳴る。
『カイル、戦闘不能』
「よしっ!」
ソウタは小さく拳を握った。 だが、喜びに気を取られたのはほんの一瞬だった。 乾いた銃声が響く。 背中に強い衝撃が走り、ソウタは思わず前のめりになった。
「痛っ!」
『ソウタ、戦闘不能』
振り返ると、少し離れた位置でクロードが拳銃を構えていた。 カイルが倒されたのを見て、すぐに援護へ回ったのだ。 ソウタは悔しそうに顔をしかめた。
「そっか。まだ試合中だったね」
木剣を下ろし、戦闘区域から離れていく。 だが、その表情にはわずかな満足感もあった。 自分の考えた作戦で、相手を倒すことができたのだから。
一方、アルレアは二丁拳銃を構え、クロードを牽制していた。 左右の銃から次々とゴム弾が放たれる。 決して命中率が高いわけではないが、絶えず飛んでくる弾にクロードも簡単には前へ出られない。 クロードが柱の陰へ移動すると、アルレアはその方向へ銃口を向けた。
「もう! ちょこまか動かないでよ!」
続けて放った数発のうち、一発が柱の角に当たった。 ゴム弾は思いがけない方向へ跳ね返り、離れた場所でユエルと戦っていたアーサーの方へ飛んでいく。 弾はアーサーの顔のすぐ横を通り抜けた。
「っ!」
咄嗟に身を引いたアーサーの体勢が、わずかに崩れる。 ユエルはその隙を見逃さなかった。 一瞬で距離を詰め、木剣を振り下ろす。 アーサーはぎりぎりで受け止めたものの、崩れた体勢では十分な力を込められない。 ユエルはそのまま剣を滑らせ、下から跳ね上げた。 アーサーの手から木剣が弾き飛ばされる。 宙を舞う剣には目もくれず、ユエルは二撃目を繰り出した。 だが、その瞬間、遠方から銃声が響いた。 ミアの弾だ。 ユエルは咄嗟に身をひねり、迫るゴム弾をかわす。 ほんの一瞬、攻撃が止まった。 その隙にアーサーが片手を伸ばす。 何もない空間から、もう一本の木剣が現れた。 空間に保存していた予備の武器だ。 柄を掴むと同時に振り抜かれた一撃を、ユエルは木剣で受け止める。 再び二人の剣が激しくぶつかった。
その頃、ガルシアとダンの戦いも激しさを増していた。 ダンが拳を繰り出す。 ガルシアはそれをかわし、獣化した腕を振り抜いた。 ダンは両腕で受け止めたものの、衝撃で数歩後退する。
「っつー! すげぇ力だな、お前!」 「へっ、まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」
ガルシアが再び踏み込む。 ダンはそれを待ち構えていたように身を沈め、懐へ潜り込んだ。 鋭い拳がガルシアの腹部へ向かう。 ガルシアは咄嗟に身体をひねり、直撃を避けた。 その反動で後方へ大きくよろめく。 ちょうどそこには、クロードへ銃を向けていたアルレアがいた。
「わっ! ガルシア!?」
突然迫ってきたガルシアを避けようと、アルレアは慌てて横へ跳んだ。 しかし、着地した足が地面の段差に引っかかる。
「わわっ!」
体勢を崩し、思わず前へ飛び出した。 その瞬間、クロードの銃声が響く。 ノノを狙って放たれたゴム弾が、飛び出したアルレアの肩を捉えた。
「痛ったぁ!」
『アルレア、戦闘不能』
「ええっ!? ちょっと待ってよ!」
アルレアは肩を押さえながら、悔しそうに声を上げた。 先ほどの偶然の跳弾がユエルを助けたことなど、本人はまったく気づいていない。 その近くでは、ガルシアとダンが最後の攻防に入っていた。 先ほどニーアが作った氷が、まだ地面の一部に残っている。 ダンは足元を警戒しながら距離を取ろうとしたが、ガルシアはその隙を与えなかった。 獣化した脚で一気に踏み込み、強烈な拳を繰り出す。 ダンは身体をひねってかわし、そのまま反撃へ転じた。 互いに距離を詰め、同時に拳を振り抜く。 鈍い音が重なった。 ガルシアの拳がダンの頬を捉え、ダンの拳もガルシアの腹部へ深く入る。 二人は揃って後方へよろめいた。
『ダン、ガルシア、両名戦闘不能』
「くそっ、相打ちかよ!」
ダンが悔しそうに拳を握る。 一方、ガルシアは腹を押さえながら豪快に笑った。
「ははっ、いい拳してんな、お前!」
ダンは一瞬きょとんとした後、つられるように笑った。 二人はそれぞれ戦闘区域から離れていった。
残されたニーアは、ノノを守りながら氷壁を展開していた。 前方ではユエルがアーサーと戦い続けている。 アルレアとソウタ、ガルシアが脱落した今、ノノを直接守れるのはニーアだけだった。 クロードはその状況を見逃さず、少しずつ二人との距離を詰めていた。 ニーアが氷壁で射線を塞ぐと、クロードは障害物を利用して角度を変え、再び銃を向ける。 ニーアはノノの前に新たな氷壁を作り、さらにクロードの進路へ氷を広げた。 クロードが足を止めた隙に、ノノを別の柱の陰へ移動させる。 しかし、クロードもすぐに追ってきた。 ノノは槍を構え、ニーアの死角を警戒する。 だが、攻撃を受け止める自信はなかった。 クロードが障害物の陰から飛び出し、素早く銃口を向ける。 ノノは反射的に槍を突き出したが、距離が足りない。 目の前に銃口が向けられる。 身体がすくみ、動けなくなった。
その瞬間だった。
ノノの身体が素早く横へ跳んだ。 銃弾を紙一重でかわし、槍の石突を地面について体勢を立て直す。 そのまま近くの柱の陰へ滑り込み、次の射撃をやり過ごした。 先ほどまでとは明らかに違う動きだった。 遠くからその様子を見ていたミアが、わずかに眉を上げる。
「ふーん、少しはやれるのかしら」
柱の陰で、ノノは意識を取り戻した。 気づけば、先ほどとは違う場所に立っている。 目の前には、見慣れた姉の姿が浮かんでいた。
「お姉ちゃん……?」 「少しだけね。ここからはノノ、あなたがやるの」 「で、でも……」 「ずっと私が助けるわけにはいかないでしょ。私は所詮、魔法でここにいるだけ。いつまで一緒にいられるか、わからないんだから」 「わかった。でも、そんなこと言わないで……」
ナナは少しだけ表情を和らげた。
「だったら、ちゃんと頑張りな。私も見てるから」
そう言うと、ノノの隣からそっと離れた。 ノノは槍を握り直す。 まだ怖い。それでも、先ほどのように目を閉じてしまわないよう、前を見据えた。
「ノノ、こっち」
ニーアの声が響く。 ノノはすぐに駆け寄り、氷壁の陰へ身を寄せた。 クロードの攻撃は続いている。 ニーアはノノから離れることなく、次々と攻撃に対応していた。 銃口が向けられれば氷壁を作り、接近しようとすれば足元を凍らせる。 だが、クロードは無理に突破しようとはしなかった。 障害物を利用しながら少しずつ位置を変え、ニーアたちの進路を限定していく。 ニーアもそれに気づき、ノノを連れて別の場所へ移動した。 しかし、クロードはその動きを予測していたように、先回りして銃口を向ける。 ニーアは咄嗟に氷壁を立ち上げ、銃弾を防いだ。 砕けた氷の破片が地面へ散らばる。 ノノは思わず身を縮めたが、すぐに槍を構え直した。
その間も、ユエルとアーサーの戦いは続いていた。 ユエルはミアの射線を警戒しながら、障害物を利用してアーサーとの距離を詰めている。 アーサーも先ほどまでとは違い、ユエルが姿を消した直後から次の攻撃に備えていた。 それでも、瞬間移動による攻撃を完全に読み切ることはできない。 ユエルが正面から踏み込み、木剣を振るった。 アーサーが受け止める。 そのまま押し合うと見せかけ、ユエルは一度剣を引いた。 アーサーが反撃しようとした瞬間、ユエルの姿が消える。 次に現れたのは、アーサーの剣を持つ腕とは反対側だった。 振り向いたアーサーの防御が、わずかに遅れる。 木剣が肩口をかすめる寸前、アーサーは辛うじて身を引いた。
「くっ!」
アーサーが後退する。 ユエルはそのまま追撃した。 しかし、遠方でミアがライフルを構え直すのが見えた。 ユエルは踏み込みを止め、咄嗟に身をひねる。 直後、ゴム弾が二人の間を通り抜けた。 アーサーはその隙に体勢を立て直す。 ユエルは小さく舌打ちし、再び剣を構えた。
その頃、ニーアはクロードの動きに違和感を覚えていた。 こちらが防御するたびに、クロードは無理に攻撃を続けず、別の位置へ移動している。 しかも、その移動先はどれもノノを狙いやすい場所とは限らなかった。 ニーアは周囲へ視線を走らせる。 先ほどまでユエルを牽制していたミアの位置が見えた。
(この位置……)
ニーアは気づいた。 自分たちが少しずつ、ミアの射線が通る場所へ誘導されていることに。 クロードは正面からの突破を狙っていたのではない。ニーアがノノを守るために移動する先まで考えて、位置を変えていたのだ。 ニーアはすぐにノノへ声をかけた。
「ノノ、あっちへ移動する」 「は、はい!」
二人が動き出した瞬間、クロードが柱の陰から飛び出した。 その銃口はノノへ向けられている。 ニーアは咄嗟に氷壁を作り、銃弾を防いだ。 しかし、その壁を避けようとしたノノが、慌てて後退した拍子に槍の柄を足元へ引っかけてしまう。
「きゃっ!」
体勢を崩し、氷壁の陰から一歩飛び出した。 ニーアが振り返る。 その先では、ミアが静かにライフルを構えていた。 すでに照準はノノを捉えている。 ニーアはすぐに片手を伸ばしたが、間に合わなかった。
乾いた銃声が響く。
「うっ!」
ゴム弾がノノの胸元に命中した。 衝撃で後ろへよろめくノノを、ニーアが咄嗟に支える。 直後、頭上のドローンから電子音が響いた。
『ノノ、戦闘不能。護衛対象の脱落を確認』
そして、試合終了を知らせる合図が実技場全体に響き渡った。
『勝者、アークレイン小隊』
ユエルとアーサーは、互いの剣を交えたまま動きを止めた。 アーサーがゆっくりと剣を下ろす。
「危なかったよ。もう少しで君にやられるところだった」 「結局、護衛対象を守り切れなかった」 「それが今回の勝負だからね」
ユエルも剣を収め、遠くにいるノノとニーアへ視線を向けた。 ニーアはノノを支えながら、悔しそうに唇を結んでいる。 クロードの狙いに気づき、最後まで対処しようとしていた。それでも、ほんの一瞬の隙を突かれてしまった。 ユエルは小さく息を吐いた。 アーサーとの勝負には、確かな手応えがあった。 それでも、小隊としての勝負には負けてしまった。
一方、ミアはライフルを下ろし、遠くにいるノノを見つめていた。 一度は見事に攻撃をかわしてみせた相手が、最後には自分から射線へ飛び出してきた。
「やっぱり、見ててむかつくわね」
小さく呟き、皆のいる場所へ歩き出した。
試合を終えた両小隊が、実技場の端へ戻ってきた。 カイルはソウタを見つけると、感心したように声をかけた。
「いやあ、さっきの試合とは全然違ったじゃん。まさか鏡に騙されるとは思わなかったよ」 「うまくいってよかった。ニーアのおかげだけどね」 「それでも、あの場面で思いつくのはすごいよ。次は引っかからないからね」 「うん。俺も次は、倒した後まで気を抜かないようにするよ」
ソウタは照れくさそうに笑った。 その近くでは、アルレアがまだ不満そうに肩をさすっている。
「もう、なんであんなところで転ぶかなあ!」 「ガルシアを避けようとしたからでしょ」 「そうだけどさあ! せっかくいい感じだったのに!」
ニーアが淡々と返すと、アルレアは頬を膨らませた。
「でも、途中でアーサーの体勢が崩れたの、アルレアの弾が原因だったと思う」 「えっ、そうなの?」 「たぶん」 「じゃあ私、ちゃんと役に立ってたんだ!」
アルレアはすぐに機嫌を直し、嬉しそうに笑った。 その少し離れたところでは、ダンがガルシアに声をかけていた。
「なあ、ガルシア!」 「あ? なんだよ」 「お前、強ぇな! 今度もう一回勝負しようぜ!」 「は? なんでだよ」 「次は絶対勝つからな!」 「めんどくせぇな。勝手に言ってろ」
ガルシアは興味なさそうに背を向けた。 しかし、ダンはまったく気にした様子もなく、その背中へ声をかける。
「じゃあ、今度な!」 「だからやらねぇって言ってんだろ!」
ダンは豪快に笑った。 ガルシアは呆れたようにため息をつき、そのまま歩き去る。 そんな二人を、近くにいたカイルが面白そうに眺めていた。
一方、ノノはニーアと一緒に武器を片付けていた。 そこへミアが歩み寄る。
「ねえ、あなた」 「は、はい……?」
ノノが振り返ると、ミアは腕を組んでため息をついた。
「あんた、ほんとドジね。最後のあれ、何なの?」 「す、すみません……」 「途中までは少しはいいところあると思ったんだけどね。あれ、お姉さんでしょ」 「は、はい……途中で少しだけ、代わってもらって……」 「ふーん。ほんと、あなたはお姉さんがいないと何もできないのね」
ノノは何も言い返せず、俯いてしまった。 隣にいたニーアが静かにミアへ視線を向ける。
「そこまで言わなくてもいいでしょ」 「事実を言っただけよ」
ミアはそれだけ答えると、踵を返して歩き去った。 ノノはその背中をしばらく見つめていた。 その隣には、ナナが心配そうに浮かんでいる。 ノノは何も言わず、ぎゅっと槍を握りしめた。




