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そのまま家に帰りチェリルの部屋に行くと、まるで空き巣が入ったように物が散乱していた。
特に全部を引っぱり出したトランク周りが凄いことになっている。
その惨状に、チェリルの足元でクロロは深くため息を吐いた。
「あ! そういえば」
急に思い出したといった反応で大声を上げると、チェリルはバタバタと書き物机の引き出しを漁りだした。
クロロはため息をもう一度ついて、散乱した服を口にくわえてズルズルとひっぱり、一か所に集めている。
そんなクロロの苦労など知らずに、チェリルは小箱と小さな丸缶を手に気忙しくクロロに駆けよった。
クロロは胡乱な目つきでチェリルの手元を見上げる。
そんな表情はなんのその、チェリルは勢いよくクロロの前に腰を下ろした。
勢いがよすぎて黒い瞳が丸くなるのも気づいていない。
「これ準備したんだ」
まず小箱の蓋をパクンと開けると、なかにはオレンジ色の石が入っていた。
雫型のそれには鎖がついている。
「ナン」
「首輪してないと野良と間違われて危ないから。ペンダントの形なら可愛いし苦しくないでしょ?」
これは学校にクロロを連れて行くと決めた時にチェリルが魔力を固めて作った魔力石だ。
雫型だけれど形も表面もつるりとしていない、歪なもの。
けれど、首輪が必要ならチェリルが一から作ってあげたかった。
その石をクロロはじーっと見つめている。
「ガタガタだけど頑張って作ったんだよ。一回だけだし、たいした威力はないけど身を守る魔法も刻んでるから」
気に入らなかったかなと少し不安な気持ちが出てくると、クロロが首をすいと差し出した。
つけていいということだろう。
自分から首を差し出してくれたのが嬉しくて、チェリルはえへへと笑いながら石を手に取ると、そのまま鎖をクロロの首にかけた。
「似合ってるよ、クロロさん」
真っ黒のなか、チェリルの瞳の色はよく映えた。
クロロがちょいと前足で石を触ると、かすかに揺れる。
その様子に、チェリルは満足気な笑みを浮かべてクロロをずっと見つめていた。
「それとこれね」
チェリルがもうひとつ差し出したのは、薄い水色の平たくて丸い形をした缶だった。
クロロがなんだそれと言うように、尻尾をゆらりと揺らす。
その様子に、にひりと笑ってチェリルは蓋を開けた。
中には金平糖サイズの飴がびっしりと入っていた。
おどろおどろしい紫色で。
思わずクロロの体が一歩後ずさる。
「これね、いつも飲んでる魔力増幅薬だよ。液体だと運びづらいし学校じゃ毎日作るの難しいだろうなって思ったから、なんとか出来ないかと思って飴にしてみた。これならいつでも食べられるでしょ?」
にこにこと告げたチェリルにしかしクロロはぽかんと口を開けた。
そしてあんぐりと口を開けたまま飴を見る。
おそるおそる近づいてきて、ふんふんと匂いを嗅ぐので一粒手にして差し出してみた。
クロロが一瞬躊躇したあとにぱかりと口を開いて食べる。
コリコリと咀嚼する音が消えたのと同時に。
「ナン!」
驚いたようにクロロが鳴いた。
魔力が増えたのを実感したのだろう。
まじまじと飴とチェリルの顔を、何度も黒い瞳で交互に見やる。
「うまくいっててよかった。これで学園でも安心だね。飴にするの間に合うか不安だったけど、意外と早く出来た」
にこにこ顔のチェリルに、驚愕した顔で嘘だろうと言わんばかりの顔をクロロがしていたけれど、本人は気づいていなかった。
「これで入学式の準備は完璧よ!」
チェリルが宣言したあと「ナウ!」と散らかったトランク周りを見まわしてクロロが鳴く。
それでようやく部屋の惨状に気づいて、チェリルは慌ててもう一度荷物をトランクに詰めだしたのだった。




