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薬しか作れない未熟な魔女は口の悪い黒猫さまに甘やかされる  作者: やらぎはら響


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 町の入り口から出れば、森はすぐそこだ。


「お前、学校に本気で行く気かよ!?」

「当然でしょ」


 背中で返事をしてチェリルはさっさと町を出ると、ほぼ駆け足で森の入り口へと向かった。


「はあ、ほんと鬱陶しい」


 森に入れば安心だ。

 ぽむっとクロロに肉球でほっぺたを押された。

 なにか主張があるらしい。


「さっきの奴プルートっていうの。一応幼馴染とか言われるけど、嫌がらせしかしないのよ。いつも突っかかってくるし。覚えなくていいからね」

「ナゥ」


 尻尾で背中をぺしりと叩かれた。

 プルートのことは興味がないのかもしれない。

家に向かっていると、頬に冷たい何かが当たった。

 今日は少し肌寒いなと思ったときだ。

突然ザアザアと雨が降り出してきた。


「うわっ」


 雲行きは怪しかったけれど、いきなりここまで降るとは思わなかった。


「クロロさん!」

「フギッ」


 いささか乱暴に肩から引きずり下ろすと、上着を脱いで無理やりクロロを包み込んだ。

 そして上から覆いかぶさるようにして抱え込み、走り出す。

 初春とはいえ一応気温が下がっていたので、上着を念のため着ていたのだ。

 家を出るときの自分を褒めたくなる。

 クロロを拾った時もこうだったと思いながら、チェリルは家へと一直線に進んだ。

 家につくと、なかに入るなりチェリルは上着からクロロを出した。

 自分は濡れネズミだけれど、クロロは少し毛皮が湿気でしんなりしているだけだ。

 ほっと息をついていると、クロロがトタタと家の奥へと軽やかに走っていった。

 どうしたんだろうと思いつつツインテールの片方を絞っていると、ズルズルという音と共にクロロが戻ってくる。

 口にはタオルをくわえていた。

 かしこい。


「やっぱりクロロさんて頭いいね」


 ん、と差し出されたタオルを手に取ってクロロを拭こうと広げたら。


「フシャーッ」


 威嚇された。

 どうやら怒っているらしい。

 タオルからチェリルへと顎で示されるので、どうやらチェリルのために持ってきたようだ。

 それにチェリルは嬉しくなってクロロを撫でようとしたけれど、ずぶ濡れなのを思い出して手を引っ込めた。


「大丈夫だよ。私、頑丈だし薬もあるから風邪なんかひかないって」


元気よくチェリルは言い切った。

そう、言い切ったのだ。

けれど深夜に結局熱を出した。

体が熱くて、息が荒くなる。

フリが死んでから何度か風邪はひいたけれど、ここまで酷いのははじめてだ。

朦朧とする意識で、これじゃ薬を取りにもいけないと思っていると。


「ひぇ……」


 べちゃっとぐしょぐしょに濡れたなにかが額へとのせられた。

 熱く湯だった頭には気持ちいいけれど、水分量が多すぎる。


「うぅ、何……これ」


 手を伸ばそうとしたら、なにかが頬をするりと撫でた。


「かなり熱いな」


 聞こえたのは、低い声だった。

 どこか艶のある、聞いた事のない男の声。

 頬に触れているのは、感触からして手だろう。

 大きな手だから、声の主かもしれない。

 誰だろう、とぼんやり考えるけれど頭が回らなかった。


「ししょー?」

「薬の場所は?」

「しってる、でしょ」


 何を言っているのだ。

 薬の場所は変わっていない。


「熱が下がるやつだ」

「わすれ、ちゃっ、た?」

「ああ、忘れたんだ」

「いまに、ある、たなの、したから、さんだんめ……あかい、びん」

「わかった、待ってろ」


低い声が返事をするたびに不思議に思ったけれど、誰だろうとか家には自分とクロロ以外いないはずなのにだとか、そんな考えに辿りつかなかった。

誰かが遠ざかっていこうとする気配に、チェリルは思いのほか強い力で頬にあてられていた手を掴んだ。


「おい」

「いっちゃ、やだ」


 思わずぽろりと口にしていた。

 ずっと見ないふりしていたものだ。

 熱で潤む目をうっすら開けると、人影が見える。

 髪が黒いらしいこと以外は、水分量の多い目ではよく判別できない。

 けれど黒なんて、まるでクロロみたいだと思った。


「ひとりに、しないで。そばに、いて……さみしいよ」


 熱い息を吐きながらなんとか口を動かすと、チェリルが掴んでいた手は簡単に引き抜かれて離れていった。

 それに涙が目尻から零れる。


「すぐ戻る。待ってろ」


 くしゃりとおそらくタオルだろう、べちょべちょのもので濡れた頭を撫でられた。

戻ってくるのだと安心して、緩慢に頷く。

 そして気配が遠ざかっていくのをぼんやり感じると、熱で頭が馬鹿になっている自覚はあるけれど、そのことに泣きたくなってチェリルはぐすんと鼻を啜った。

しばらくすると、また誰かが近づいてくる。

戻ってきてくれたんだと嬉しくなって、ほやりと口端がゆるんだ。

上体をわずかに持ち上げられる。


「ほら、飲め」


 瓶の口が唇に当てられるけれど、薬が上手く口のなかに入ってこない。

 頭上で舌打ちが聞こえる。

 もしかしてと思う。

 額のびしょ濡れのタオルらしきものを準備したのも、この人物ではないだろうかとグルグル眩暈を耐えながらチェリルは思った。

 薬の飲ませ方も完全に慣れていない。

 看病へたくそだなあ。

チェリルは熱で苦しいはずなのに、なんだか可愛く思えて吐息で笑っていた。


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