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薬しか作れない未熟な魔女は口の悪い黒猫さまに甘やかされる  作者: やらぎはら響


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おそるおそる目を開くと、スレッラが魔法防壁を展開している。

その防壁は風の衝撃派を完全に防いでいた。


「授業より凄い」

「授業でしたら目立つだろ」


 呆れた声音のあとで、スレッラのぐっと魔法を展開するために突き出している手に力が入った。


「伊達に黒の魔法使いの弟子はしてないんだよ」


 言い切るスレッラの目はギラギラしている。

 人質になってしまったと悔やんでいたから、宿敵を前にして高揚しているのだろう。

 その防壁のなか、トライワイトの手から黒い炎がメルベルナへと襲い掛かる。

 髪を狙ったそれを、メルベルナがすぐに風で炎を巻き込み吹き飛ばした。

 けれど髪が一筋焼けて床へと落ちる。

 それを見て一瞬だけ眉をひそめたけれど、メルベルナはトライワイトへと目線を向けてわざとらしく驚いたふりをした。


「やだ、魔石なくてもこの威力?やっぱりあのとき人質とって正解だったわ」


 その言葉にスレッラが奥歯を噛む。


「その子お人好しなんだもの。老人なんてほっとけばよかったのに」

「生憎俺は道徳的な教育もしてるんでな」

「ふうん、無駄な教育」


 興味のなさそうな言い方に、スレッラが人質になったのにはさらに誰かを巻き込んだのだとわかった。

 まごうことなきクズだ。

 そんなことを考えながら、チェリルはスレッラとトライワイトの後ろでおろおろとしているしかなかった。

 トライワイトの魔石を取り戻したいと言ったけれど、完全にお荷物だ。

 どうしようと思いながらも、メルベルナと魔法をぶつけあうトライワイトをまじまじと見てしまう。


「こんなに強い魔法使えたの?」

「お前の飴のおかげだ。二割程度だけどな」

「これで二割……」

「お前スレッドに飴渡したろ。このまま隠れてても仕方ねぇから、飴を頼りに仕掛けるタイミング狙ってたんだよ」

「私の……」


 トライワイトの言葉に、チェリルはぐっと唇を引き結んだ。

 でないと泣きそうだった。


(少しは役に立てたんだ)


 ずっと与えてもらってばかりだった。

 少しでも返せることがあったのならよかったと、嬉しくて仕方がない。


「飴まだあるか?」

「う、うん。ライトに必要になるかもって、いっぱい作ってある」

「よくやった、口に入れろ」


 スレッラに託した量は少なかったのだ。

 チェリルはわたわたと丸缶を取り出して、トライワイトの口に飴を三粒入れた。


「そっか、飴を食べ続ければ魔力なくならないんだ」


 チェリルの言葉にまるで返事をするように、飴をガリガリと噛む音がする。


「何それ、不思議なもの持ってるのね。あなたそんなものも作れたの?」

「んなわけあるか」


 トライワイトの攻撃の威力が増した。

 また一筋防げなかった炎が髪を焦がす。

 さすがにメルベルナも髪を傷つけられるのはまずいと思ったのか舌打ちした。

 これいけるのではとチェリルが思ったときだ。

 バリンとスレッラの展開していた防壁の一部が壊された。


「くそっ!」


 スレッラが外見とは裏腹に雄々しく吠える。

 その穴を補うように防壁が違う魔力で覆われた。


「師匠!」

「いいから防壁維持しろ」


 その言葉でトライワイトが防壁にも魔力を割いたのだとわかる。

 慌ててチェリルは口元に飴を持っていった。


「やだぁ、その魔力で攻撃も防御も出来るの?」


 まるで煽るようにメルベルナが手に持っていたトライワイトの魔石を見つめる。


「ほら、ムラがあるわよ」


 ニィと目を三日月に笑んで、メルベルナがぐっと手を突き出すと、防壁の一部が壊れた。

 衝撃波がトライワイト自身へ襲い掛かる。

 慌てて庇うように前へ躍り出ようとしたチェリルを、トライワイトが「この馬鹿!」と怒鳴りながら腕をひっつかんで背中へ隠した。


「師匠!」

「ライト!」


 二人分の悲鳴が重なった瞬間、バチンと盛大な音を立てて衝撃波がトライワイトに届く前に霧散した。

 そしてコンッとトライワイトの足元になにかが落ちる。

 視線を向けると、そこにはオレンジの石が割れて転がっていた。

 チェリルが作って、トライワイトが首に下げていた魔力石だ。

 メルベルナを入れた全員があっけにとられた顔をしていた。


「これ、私が作ったやつ……」

「ははっ少ししか効かねぇんじゃなかったのかよ」


 おかしげに笑ったトライワイトに、チェリルは「うぅ……」と呻きながら白状した。


「実は搾り取れるだけ搾り取って魔力込めたの。過保護すぎるかなって思ったから少しだけって言ったんだよ」


 まさかこんな形でバレるなんてと思っていると、一瞬だけ小さな手が髪をくしゃりと撫でていった。


「お前はいつも俺を助けてくれる」


その言葉と、黒い瞳を優しくたわませた顔に、こんな状況なのに胸がドキリと高鳴った。

恋をしている相手に久しぶりに再会してこんな顔を向けられたら、高鳴らないほうがおかしい。


「助けて、たんだ」

「おう」

「私が貰ってばかりじゃなかったんだ」

「んなわけあるか。俺が貰ってばっかだ」

「そっか」


 よかった、だとか嬉しいという言葉は、口から音にならない声で出た。

 一人だったら泣いていた。

 でもトライワイトと二人だったらもっと号泣していたと思う。

 うっかり抱きついて、叱られて、いつもみたいに。

 すんと鼻を小さくすすると、メルベルナがいぶかしげな顔でチェリルを見ていた。


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