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「あの女のねぐらだ」
その一言で答えはわかった。
二人の反応からして、トライワイトが魔石を取られたのはここなのかもしれない。
イラッとしたものがこみ上げて、思わずオレンジ色の瞳が細まってしまう。
「ねぐらだなんて動物のように言わないでよ」
声がしてそちらを見ると、階段からゆっくりと降りてきたのはメルベルナだった。
教師のときのように、膝下までの髪を際立たせるように体にピッタリとした服を着ている。
違うのは地味なタイトスカ―トか派手なタイトドレスかだけだ。
いかにも物語に出てくるラスボスのような登場の仕方だった。
「てめぇ」
「久し振りね、トライワイト」
その一言に、イラッとまたチェリルの不快指数が上がる。
トライワイトの名前を図々しく呼ばないでいただきたい。
ライトと呼ばれても絶対に嫌だけれど。
「よおクソ女。そいつに禁術教えやがったな」
「だってあなた、その子と仲良かったみたいだし……魔石取ったら出てくるかしらと思って。でも猫の姿で再会なんて悲しいわ」
わざとらしく憂い顔をしているけれど、その思考は完全に危険人物だ。
だからチェリルの胸元を見ていたのだと、合点がいく。
そして、こんなことする女だったから、ボロボロになっても猫の姿のままで逃げ出したのかと腑に落ちる。
(こいつのせいで、あんな大怪我だったんだ)
元凶が不快指数を限りなく上昇させていく人物なので、一度ひっぱたくくらいはしていいのではと思ってしまう。
メルベルナは青い顔をしているプルートをちらりと見ると、はあと悩ましくため息を吐いた。
「あなたがその子気に入ってるみたいだから、魔石の取り方を特別に教えてあげたのに」
ねえ、と笑いかけられてプルートは目をそらして後ずさった。
その様子を見て、トライワイトが不機嫌そうに目を細める。
「魔石を取る禁術は、代償として自分の魔石の容量が減る」
「なっ」
プルートが驚愕の表情を浮かべた。
それにトライワイトの耳が後ろへぎゅいと倒れる。
「禁術になるってのはそれなりの理由があるんだよ。お前今までの半分も魔法使えねぇぞ」
トライワイトの呆れた物言いに、プルートは「そんな」と唇を震わせた。
そしてすがるような眼差しでメルベルナを見る。
「そんなの聞いてない、話が違う」
「だって好きな子のためだったんでしょ? なら少しくらい犠牲がなくちゃ」
うふふとメルベルナが笑う。
いや説明しなよ、詐欺じゃんと思ったけれど、それよりも聞き捨てならない言葉があった。
「好きな子って」
まさかと思いつつプルートを見ると、血の気の引いた顔でチェリルを見ていた。
違うんだというように緩慢に首を振っている。
「あんた、そんな理由で他人の魔石取るようなことしたの? もしかして言うこと聞かせるため?」
そんな馬鹿なと思いながらプルートを見たけれど、顔色が悪くなるばかりだ。
どうやら真実らしい。
「いいでしょ別に好きなんだから。言うこと聞かないなら、聞いてくれるようにするしかないじゃない」
とんでもないクズ理論だ。
いっそどう反応したものかとチェリルはあんぐりと口を開けてしまった。
「待って、魔石取るのに自分の魔石犠牲になるなら、何であいつ何個も集めてるの」
ハッとすると、スレッラが用心深くメルベルナを見たまま口を開いた。
「言っただろ、あいつの魔力の源は魔石じゃなくて髪。魔石が犠牲になったって、あれだけ髪があれば魔力に影響なんてないんだよ。俺が人質になんてなってなけりゃ、師匠に切り落とされてたさ」
歯噛みするように呻くスレッラは、そうとう腹に据えかねているらしい。
メルベルナを睨みつける目がギラギラしている。
チェリルがスレッラの口にした説明を頭で反芻しながら「髪に……」と呟いたときだ。
メルベルナが機嫌がよさそうに「あはっ」と口元に手をあてて笑った。
「トライワイトのことをおびき出せたのは上手くいったから、褒めてあげるわ」
ちょいと指先を動かすと、プルートは壁の方へと飛ばされて、したたかに背中を打ちその場に座り込んだ。
「さあトライワイト、ここに来たってことは主従してくれるのよね?」
「頭沸いてんのか。魔石取り返しに来ただけだ」
「あら、これのこと?」
トライワイトの言葉にくすくすと笑いながらメルベルナが右手のひらを上にすると、そこに黒い宝石が現われた。
収納魔法だろう。
メルベルナが言うとおりなら、あれがトライワイトの魔石だ。
「あれがライトの」
何にも染まらない、黒。
「綺麗……」
思わずチェリルは呟いた。
その言葉に、メルベルナが我が意を得たりというように、にんまり笑う。
「でしょう? キレイなのよ。キレイな魔石にキレイな顔。丸ごと私のものにしなくちゃ」
「ライトはあんたのものじゃないわよ」
キッと睨みつけても余裕の顔でメルベルナが笑う。
次の瞬間、そこには少年姿のトライワイトが立っていた。
久しぶりに見る姿に、なんだか安堵が沸いてくる。
「力づくで取り返してやる」
「やだ可愛い。でも元の姿の方が好きよ」
唇に指を当ててにんまりとすると、メルベルナの周りの空気が動いた。
「そんな小さな体でどうするの?」
言うのと同時に突き出した手から風の衝撃破が襲ってくる。
おもわず目を閉じた刹那、ドンと大きな音が響いた。




