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薬しか作れない未熟な魔女は口の悪い黒猫さまに甘やかされる  作者: やらぎはら響


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 モヤモヤとしたものが胃からせり上がってくる。


「絶対にクロロさんと関係あるでしょ。嫌な魔力近づいてるって言ってたし」


 ぶつぶつと不満をとうとう口に出していて、はたと我にかえる。


「あんな嫌そうな顔した相手に、魔力追えるものなんて渡すかな?」


 答えは否だ。

 少なくともチェリルが知る限り、あの傲岸不遜な男があそこまで嫌がる相手に渡すイメージがわかない。


「だったら何で魔力追えるの?そういやクロロさんも魔力近づいてくるってわかってたし、そんな簡単に感じるものなのかな」


 疑問は尽きない。

 けれど頼みの綱のスレッラが何も教えてくれないのなら、詰んでいる。

 結局その疑問も解けずモヤモヤもおさまらず日々を過ごした。

 トライワイトがいなくなってから、校舎の影。

 森に行ったら木やしげみのそばを見てまわるけれど、黒い姿はどこにもなかった。

 学校に行く前の森では出てきてくれたのに。


「ばか」


 唇を尖らせて呟きながら向かったのは箒を飛ぶためにいつも使っている場所だ。

 トライワイトがいなくなっても、勉強も練習もちゃんとやっている。

 戻ってきてくれたときに褒められるように。

 それだけが今のチェリルの原動力だった。

 いつもの定位置について、紙箱をポーチから取り出す。

 すっかり箒派から紙箱派になったチェリルは、ずっとこれで練習している。

 そして黙々と練習を始めた。

 何度も同じ練習を繰り返す。

 大事なのは覚えるまでの反復だ。

 工夫で問題が突破できたのなら、あとはひたすら繰り返す。

 それがチェリルのやり方だった。

 気づけば夕暮れになっていて、集中しすぎたと思ったとたんバランスを崩し、ぼてっと地面に落ちた。


「うわ、凄く暗くなってる。集中しすぎちゃったよ。帰ろうクロロさ―――……」


 立ちあがりながら言いかけて、尻すぼみになった。

 いつもいるはずの場所に、夕暮れに溶けそうな黒猫の姿がない。

 その場所をじっと見つめて、チェリルは呆然と呟いた。


「そっか、いないんだ……」


 トライワイトがいなくなって、こんなことの繰り返しだ。


「こんなに飛べるようになったのに、褒めてくれる人はもういないんだね」


 チェリルは夕暮れのなか、しばらく俯いて立ち尽くしていた。


□ □  □  □


「もう忘れなよ」


 日に日にしょんぼりしていくチェリルに見ていられないと思ったのか、スレッラが廊下で小さく声をかけてきた。

 今もトライワイトを思い出していたから、辛気臭い顔をしていたのだろう。


「まだここにいるんでしょ?」

「……」

「忘れないよ」


 忘れられるわけがない。

 フリを亡くしているから、優しくしてくれるトライワイトに刷り込まれた雛のように必死でしがみついているだけかもしれない。

 それでもチェリルは理由なんてどうでもよかった。

 口が悪いくせに優しい彼とずっと一緒にいたかった。

 チェリルの小さな言葉に、スレッラが黙り込む。

 なんと言っていいか困っているのかもしれない。

 気にしなくていいと言いかけて、前方の光景にぱちくりとする。 

 廊下の先で、何故かプルートがメルベルナと一緒にいる。

 二年の教師なんて接点もないだろうに。


「そういや、あいつあっさり引いたわね」


 トライワイトがいなくなって意気消沈していたから、すっかり忘れていた。

 プルートの性格的に大人しすぎると思う。


(引いたのは、ライトがいなくなったから?)


 トライワイトも言っていた。

 元凶がいなくなれば、何も言えないと。


(あいつに見られたせいで! いや、うっかりしたのはこっちだけどさ)


 憤慨しかない。

 そのことで話かけようとしていた事があったなと思い出して、トライワイトの言葉を思い出す。

 何を言われるかわからない、と。

 ジョワリと鳥肌が一瞬立ち、次に間近にせまった気品ある顔を思い出して、チェリルは思わず変な声を出しそうになりごきゅりと喉を鳴らした。

 なんとか声を飲み込んだときだ。


「最近あの二人、よく一緒にいるわね」

「そう?」

「そうよ」

「一年と二年なんてまったく接点ないのにね」


 返事が返ってこないのでスレッラを見ると、どこか厳しい目つきで二人を見ている。


「面倒な展開にならないといいけど」

「何が?」


 話が見えないと思っていると、ビシッとスレッラに指をさされた。


「とりあえず、あなたは二人に近づかないように。特に女の方!」


 切れ味抜群の命令に、チェリルは思わず頷いてしまった。

 教師に呼ばれてスレッラが行ってしまうときに「わかっ!?」と念を押されたけれど、実は言えない。

 ちょこちょこ黒猫のことを、どんな猫だったかと聞かれたりしている。

 あとプルートが話したのか、黒髪黒目の男に心当たりは、なんて問いかけもある。

 それに無いとはいっているけれど、チェリルとしても警戒心を上げている。

 上げているのだけれど。


(寄ってくるんだよね)


 廊下なんかを歩いていると、偶然会うことが多い。

 本当に偶然かと思いたくなる。

 それともうひとつ。

 メルベルナが来てから、スレッラが傍にいることが増えた。

 気のせいかなとも思ってしまうけれど、多分違う。

 メルベルナとスレッラ。

 二人に共通しているのは、トライワイトの存在だ。

 メルベルナはわからないけれど、多分トライワイトと関わりがあるのではないかなとチェリルは思う。


(ちょっと探ってみようかな)


 近づくなとは言われたけれど、あっちから近づいてくるなら結局同じじゃないかと思ってしまう。


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