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あいかわらず箒で飛ぶ練習は続けている。
またがって、その場でぴょんと跳ねても、まったく浮かない。
一度も浮かぶことがないので、いよいよ絶望的だ。
ちなみに崖から飛び降りたあとに、しこたま怒られたので無難な練習を地味にやっている。
「ンナ」
そろそろ帰るぞというようにトライワイトがひと鳴きして、肩に軽やかに乗ってくる。
もうそんな時間かと思って、チェリルは箒をポーチに片づけて寮へと歩き出した。
空腹だからさっさと夕食を食べたいと、業務用のものなんかが置かれている場所を近道で通る。
こちらから行った方が食堂が近いのだ。
「いっそほかの物で飛べたりしないかなあ」
腕を組んで歩いていると、そんなことが頭をよぎった。
その言葉にトライワイトがひと鳴きして訝し気な目を向けてくる。
ちょうど通りかかったゴミ捨て場。
大き目の紙箱が畳んで詰まれているのを指差してチェリルは笑った。
一番上にあった紙箱を手に取って足元に置く。
「こういうのに乗って、的な。前に箒とは限らないって言ってたし」
クロロは話せない設定なので一声鳴いて濁したのだろうけれど、確かにトライワイトが以前チェリルへ言った言葉である。
パチパチと虚を突かれた顔でトライワイトが瞬いた。
そんなことは気にせず紙箱の上にちょんと乗ると、チェリルは箒を飛ぶときと同じように魔力を巡らせた。
そしてゆっくりと目が見開かれる。
「あれ? でも箒より……あ、ちょっと待って!」
一人で慌てていると、落ち着けと言うように背中を尻尾でぽんと叩かれた。
それは気にせず、じっと足元を見る。
すると、ゆっくりと紙箱が地面から浮いた。
驚愕である。
「う、浮いた! クロロさん! あ、うわっ」
すぐにバランスを崩して、チェリルは紙箱から滑り落ちた。
クロロもいつの間にか床に着地している。
けれどそんなことは、どうでもいい。
活路が見いだせた。
「箒じゃないけど浮いた! 私これなら飛べそうだよ。よーし、やる気出てきた!」
歓喜の顔で勇ましく右手を上へと突き上げる。
その姿を見て「ナゥ」と鳴くトライワイトは、興奮しすぎるなと言っているようだった。
「……これ、貰って帰ってもいいよね?」
□ □ □ □
「そんな飛び方ある?」
「だって飛べたんだもん」
「いや、飛べたのはよかったけどさ」
廊下を歩きながら呆れた声を出すオフィリアに、チェリルはあっけらかんと答えた。
オフィリア的にはありえないらしく、しょっぱい顔をしている。
それを気にせず歩くチェリルは、ふとオフィリアが持っている本に視線を向けた。
やけに古めかしい本だ。
「あいかわらず古い本を読んでるの?」
「そう、今読んでるのは魔法歴史学の先生に借りたやつ」
「よく貸してくれたね」
「手伝いまくって媚まくった」
「言い方。でも凄い情熱」
思わず半眼になってしまう。
けれどオフィリアにはそれで火がついたらしく、ペラペラと早口でまくしたて始めた。
「この本にのってたんだけど、魔石って大きさが生まれつき小さい人もいるんだって」
「魔石って色なんか人それぞれだけど、大きさや形は一緒でしょ?それだと魔力ものすごく少なくない?」
これは魔法学者や研究者がこぞって出した結論だ。
例外だろうかと首を捻ると、チッチッとオフィリアが指を左右に動かした。
「それがさあ、別の媒体に魔力が宿るんだって」
「へえ、別の?」
「目が定番らしいけど、珍しいのだと髪の毛とかもあるらしいよ」
「髪の毛とか凄いね、クロロさん」
研究なんかをしている魔法使いだとライが言っていたから、興味があるかなとトライワイトを見る。
耳がぎゅいっと後ろに倒れていた。
なんか凄く嫌そう。
どうしたと思っていると。
「ちょっとそこの二人」
急に呼び止められた。
今この廊下にはチェリルとオフィリアだけだ。
おもわず顔を見合わせて声の方へ目を向けると、そこには茶髪のウェーブヘアの女子生徒がいた。
雰囲気からして一軍女子である。
こんなタイプと関わりはないと断言できるのでオフィリアかと思えば、彼女も同じ顔でチェリルを見ていた。
心当たりがないらしい。
「あなた達リール君にまとわりついてる二人でしょ。図々しいと思わないの」
「何これ。そもそもリールって誰」
「ライのことよ」
こそりとオフィリアに尋ねると、驚きの答えが返ってきた。
そんな名前だったのか。
あと何故ライのことで絡まれる。
解せぬという顔をしていると、オフィリアがこそこそと囁いた。
「多分ライを好きな子よ」
「え⁉」
「あいつ意外と人気あるから」
「そうなんだ。それで何で私達に?」
「あいつが喋る女子って私達だけなのよ」
「あぁー……」
腑に落ちた。
ようは嫉妬だ。
(ライがねえ……ライトの方が断然格好いいと思うけど……)
無意識にそう考えてハッとした。
浮かんだのは、少年のトライワイトだ。
チェリルより背が低くて薄い体つきの、格好いいというより可愛い部類。
その姿が格好いいというワードで浮かんだことに、チェリルは盛大に動揺した。
(あれは年下の、そう! 子供でしょ。格好いいとかではないから!)
全力否定してトライワイトの姿を脳内から追い出すと、追随するように十九歳の姿が浮かんだ。
思わず悲鳴を上げそうになる。
(あれは、あれは反則でしょ! 駄目でしょ!)
何が反則なのかは上手く整理できなかったけれど、とにかく反則なのだ。
このままではあらぬ方向に思考が行ってしまうと、チェリルは猛然とダッシュで走り出した。
「先に行くから!」
「ちょ、酷いわ!」
背中にオフィリアの責める声が飛んできたけれど、それと自分の思考を振り払うようにチェリルはそのまま森まで走った。




