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「そういえば最近、黒の魔法使いの話聞かないよな」
ライの唐突な言葉に、チェリルは頭にハテナが浮かんだ。
スレッラとトライワイトがわずかにピクリと反応する。
「誰それ」
「知らないの? 新聞なんかによく載ってるじゃない」
「新聞とかとらなかったから」
あんな森、しかも魔道具で侵入禁止の場所に新聞が配達されるわけがない。
フリは森から出ても最低限の買い物なんかをすませると、そそくさと帰っていた。
チェリルが一人で森から出られるようになるとまったく森から出なくなったし、子供のチェリルが新聞に興味を示すこともなかったので、世情にはうといのだ。
チェリルの説明に「あー……」とライとオフィリアが視線をずらした。
スレッラも驚いている。
またセンシティブ判定をされたらしい。
気にしなくていいのに。
「それでその黒の魔法使いってのは何?」
「若干、十九歳で色んな魔法陣や魔道具を発明してる凄い魔法使いだよ! 黒髪黒目だから黒の魔法使い」
饒舌に喋るライに、へえとチェリルはあまり興味なく相槌を打った。
「なんて名前の人なの?」
「トライワイト・ベンシャルっていう人よ」
「……」
名前が脳に届いた瞬間、チェリルはぽかんと口を開けた。
ものすごく聞き覚えのある名前だ。
そして黒髪に黒目。
黒い。
ギ、ギ、ギとぎこちなく目線を向けた先にいる黒猫は、まるで肯定するようにふいと顔を背けた。
まさかねと思いスレッラを見ると、何故かにこにこ笑っている。
もしかしたら師匠を凄いと言われて嬉しいのだろうか。
これはもう確定である。
(うっそでしょ。そんな凄い人だったの?)
驚いた顔のチェリルに、ライとオフィリアは気づかず、どんどん話を進めていく。
「新聞なんかに出ないってことは研究中か論文でも書いてるんじゃないか?」
「それもそうね」
そのまま話題は別のものになっていったけれど、チェリルは疑い深い顔でトライワイトを見続けていた。
その様子にオフィリアが「本当、にゃんこ君のこと好きよね」と微笑ましい顔になる。
今はそんな感情ではない。
「そういえばチェリルとにゃんこ君は主従じゃない。その魔法、人間でも出来るらしいわよ」
「そうなの?」
トライワイトを視界に入れたまま返事をすると、トライワイトの尻尾が若干膨らんだ。
といっても細身で毛も短毛種なので、じっと見つめていたチェリルしか気づかなかっただろうけれど。
その様子にチラリとスレッラを見れば、ストンと表情が無くなっている。
ちょっと怖い。
「昔はともかく、今はめったにいないらしいけどね」
「それは道徳的にどうなんだ?」
「動物との主従魔法と一緒で合意じゃないと無理よ。魔石を自分から差し出さなきゃいけないんだから。勝手に取られでもしない限りはね」
「たしかに魔力も込めなければいけないし、従がその気にならないと無理だな」
「そういうこと」
二人の会話を耳に入れながら、チェリルは森にいた時のことを思い起こした。
(ライト、主従魔法に今反応したけど、学校来る前にその話したときもちょっと様子が変だったような?)
うんうん思い出そうとするけれど、怒涛の学校生活で記憶が曖昧だ。
気のせいかなとトライワイトを再びじっと見たけれど、ちらりと黒い目で一瞥されたあとでツンと顎を上げられた。
スレッラをチラ見しても、すでに表情がいつもと同じに愛想よくなっている。
素早い。
(これは説明してくれない感じだなあ)
二人の様子にため息を噛み殺しつつも、通じ合っているような反応にやっぱりもやもやする。
それはトライワイトを独り占めしたいという気持ちなのだろうかと思うけれど、スレッラが本来一緒にいた人間だ。
チェリルの方がぽっと出である。
もう一度ため息が出るのを、なんとかチェリルはこらえた。




