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「何だいきなり」
「いいから!」
チェリルの訴えに、訳がわからなさそうにトライワイトが少年の姿になった。
さっきは十九歳だったのに。
負担があると言われたけれど、そんな不満が頭をよぎる。
それを振り払うように、飛びかかる勢いで抱きついた。
「うわっお前」
トライワイトがチェリルを引き離そうとするけれど、チェリルはぎゅうぎゅうと思いきり抱きしめる。
まるでスレッラを抱きしめたことを上書きするように。
むしろ抱き返してもらえないのが、とても不満だ。
「こら、離れろ! 男に抱きつくなって何度言わせる」
「スレッラさんは抱きついてたし抱き返してた!」
言い返すと苦い顔をされた。
弟子ならよくてチェリルが駄目なんて、そんなのズルすぎる。
抱き返してなんて口にしないだけ、褒めて欲しいくらいだ。
「スレッラさんだって女の子なんだよ。だったら私もいいじゃない!」
言い切ると、ますます苦い顔をされた。
そしてため息。
部屋に戻ってきて何回目なのか、もう何度も聞いている。
「……あいつは男だ」
「……え?」
トライワイトの言葉にチェリルは一瞬頭が真っ白になり、ほけりとまぬけな声を出していた。
スレッラはどう見ても女の子だった。
ちゃんと胸もあった。
思わず疑いの目を向けてしまう。
「言っただろ、やっかいなのに目ぇつけられてるって。本名はスレッド、魔道具で性別を一時的に変えてんだよ」
「そう、なんだ」
その言葉に、何故かもの凄くほっとした。
力の抜けた顔でトライワイトを見やれば、憮然とした顔を浮かべられる。
もしかしたらチェリルに抱き着くなと厳しいトライワイトだ。
弟子とはいえ女のスレッラを抱き締めていたと思われて遺憾なのかもしれない。
「ここで嫉妬かよ」
ぽつりとトライワイトが呟いたけれど、これだけは言っておかなきゃとチェリルは聞き流して目の前の男をまっすぐに見た。
「ねえライト。もし薬目当てでも、スレッラさんといつかいなくなってもいいから、今だけは私といてね」
そっと言った言葉に、トライワイトがわずかに目を瞠った。
そして、少し絡んでいたチェリルの髪の先を、指先でほどいてくる。
その少年らしい手は態度や口調とは裏腹だ。
「馬鹿なこといってないで寝やがれ」
本当のことなのになと、そのつっけんどんな言い方にほんの少し唇を尖らせる。
口は悪いくせに、指先は優しい。
(今は子供のくせに)
何だか悔しくて、心のなかでチェリルは悪態をついた。
それ以来、ライとオフィリア以外にスレッラとも行動を共にするようになった。
どのように仲良くなったのか、いつのまにである。
呼び捨てでいいと言われたのでそうしているけれど、チェリルとしては何となく距離を縮める気持ちになれない。
トライワイトに抱きついたり、頭を撫でられていた光景を思い出して複雑な気分になる。
スレッラが男だとはわかっても、見た目は女の子だ。
それに何ともモヤつく出来事がもうひとつ。
ときおりスレッラがチェリルの部屋に来るのだ。
そして必ず十分程度だけれど、チェリルに席を外してほしいと言う。
それを何度か繰り返すたびに、胸の奥に黒いものがこびりつくような感覚に襲われた。
(でも、飴目当てでもスレッラといなくなってもいいって言ったのは私なのよね。だったら落ち込むのはお門違いだわ)
自習室、いつものメンバーで課題をしているなか、チェリルは課題そっちのけでもんもんと考えていた。
(それにあっちは師弟なんだし、私は家族みたいなものだもの。こんな嫉妬みたいな気持ちはおかしいじゃない)
チェリルのなかでは、もう明確にスレッラに対する不満という名の嫉妬が出てきているのを自覚している。
なんなら最初からあった。
そのたびに、どうしてそんなに嫉妬するのだと何回考えてもわからず、結局家族なのに何故と原点回帰するのだ。
ここ最近はそんなことを心中でぐるぐる考えている。
トライワイトには妙なことは考えるなよと言われているけれど、トライワイトのせいだと言いたくなった。




