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「無事だったか?」
トライワイトの言葉に、まだ涙を流すスレッラが何度も頷く。
声も出せないようだった。
「ネックレスの反応を辿ってきたか?」
「はい……!」
ネックレスとは何だろう。
そもそも、この二人は知り合いなのだろうけれど、どういった関係なのか。
問いかけたいけれど口を出せる雰囲気ではなくて、何度か唇を開閉させているとトライワイトがチェリルをちらりと見た。
それにどきりと何とも言えない複雑な気分になる。
「あの……」
「悪い、十分だけ二人きりにしてくれ」
何か言う前に先手を打たれてしまった。
二人きり。
(……嫌だ)
そう言いたかったけれど、言ってはいけない雰囲気なのは肌で感じていた。
今は二人きりにするべきだと。
「……わかった」
小さく頷き部屋を出るとき。
肩越しに振り返った先でトライワイトが、くしゃりとスレッラの頭を撫でていた。
(あれは、私のだったのに)
そんな強欲な気持ちが湧いて出る。
チェリルは噛みそうになった唇をなんとか我慢して外に出ると、背中でドアを閉めた。
ドアにくっついていると聞き耳を立てたと思われるかな、なんて馬鹿なことを思ってしまう。
そのまま顎を引いてチェリルは俯いた。
ツインテールの金髪がパサリと頬にかかる。
「ライ……クロロさんだって知り合い、そりゃいるよね」
まさかチェリルと同じ年の人間だとは思わなかったけれど。
ぐるぐるとそれが気になって仕方がない。
「私と会う前の生活が、あるわよね……あんなに泣いてたってことは、あの子といたのかな。今は私といたのに」
じわりと目尻に水分がたまりそうになる。
泣き虫なんかではなかったのに、トライワイトと会ってから泣いてばかりの気がした。
「あの子のところに帰っちゃうのかな」
スンと少し痛くなった鼻をすする。
「褒めてあげたり、するのかな……」
チェリルにやったように、腰を抱いて耳元で囁くのだろうか。
そんな想像に、腹の奥が熱くなった気がした。
怒りじゃない。
けれど怒りに似ている気がする。
多分、嫉妬とかそういうものだ。
「なんで、嫉妬……家族なのに」
チェリルに兄弟はいないけれど、大切な人がいたりすると嫉妬をするものなのだろうかと思う。
なんだか違う気がする。
じゃあ何で嫉妬なんてしているのかがわからなくて滲んだ涙を手の甲で拭った。
しばらくたつと、ガチャリとドアが開いた。
振り返ると、スレッラがゆっくりとした足取りで出てくる。
その顔は泣きはらして真っ赤な目になっていた。
「ありがとう」
先ほどまでの剣幕とは手のひらを返したように、大人しい態度だった。
小さく頭を下げて自分の部屋へだろう、廊下の奥へと歩いていく背中を見送る。
部屋に入るのが怖くて、スレッラがまったく見えなくなるまでその場にとどまると、ようやくチェリルは自室へと入った。
そこには人間ではなく猫の姿のトライワイトがいる。
どこかそわりとした気持ちでチェリルはトライワイトへ向き直ると、おずおずと口を開いた。
「あの、二人って」
「……」
口を開かないトライワイトに、どう接したらいいかわからず視線を泳がせると、はあと嘆息が聞こえた。
「俺の弟子だ」
「弟子……なんていたんだ」
「まあな」
トライワイトの年でと驚いたけれど、それよりもある一言が引っかかった。
『弟子は可愛いもんだ』
以前トライワイトが言った言葉だ。
それがスレッラのことなのだとわかって、何か胸の奥がぐらぐらとモヤつく感覚を覚える。
なんだか内側が焦げつくような気持ちだった。
「なんだったのか、聞いていい?」
「あー……」
「知りたい。知らなかったこと、教えて」
言いよどんだトライワイトに、チェリルはしゃがみこむとその黒い目をじっと見た。
それに仕方ないと言わんばかりに、そして少し嫌そうな顔でトライワイトは口を開く。
「俺はちょっとやっかいな奴に目をつけられて身を隠してる最中だ」
「猫になってたのは、それが理由?」
「ああ」
「もしかして魔力が減少したままなのも?」
その質問に、トライワイトの耳がぎゅいと後ろに倒れた。
「それは黙秘する」
「猫になってるままの方が負担じゃないの?」
「この姿の方が都合がいいし、定着させてるからな。今は人間に戻る方が魔力を使う。スレッ……ラには俺の魔力を追える物を渡してたから、そろそろ探しに来ると思ってた」
なんだかスレッラの名前を言いづらそうにしていたけれど、特に気にせずチェリルは言われたことを咀嚼した。
さきほど言っていたネックレスが、その魔力を追える物なのだろう。
そして、少し胸によぎったのは嫌な考えだった。
「無理やりに近かったけど、私の傍にいたのは……魔力増幅薬があるから?」
そんなわけがないとわかっている。
トライワイトは、気質からいって、やりたくないことは何が何でも回避するだろう。
だから、そうじゃないと思う。
(違うって言って)
ただ真正面から、この馬鹿な考えを打ち壊してほしかった。
「……好きな方にとれ」
否定してくれなかった。
そのことに喉が詰まって、はくりと声にならない吐息が出た。
「わかっ、た」
ぎこちなく頷くと、トライワイトはじっとチェリルを見つめたあとでドアへくるりと体を向けた。
「どこ行くの」
「あいつのところだ」
「何で!?」
「こんな話聞いておいて、一緒にいたいのか?」
ちらりと見られてチェリルはこくこくと頷いた。
ここで離れたら、トライワイトの内側から閉め出される気がしたのだ。
「いたい、いたいよ……!」
「……わかった」
トライワイトがドアに背を向けて、ゆらりと一度尻尾を振る。
さっきスレッラは抱きしめられていた。
それがどうしてもチェリルのなかで収まりがつかない。
丸缶を出すと。
「人間になって」
言うなり、トライワイトの口へ飴を押し込んだ。




