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翌日教室に行くと驚いた。
プルートとの対戦で使った薬の質問責めにあったのだ。
今まで落ちこぼれと遠巻きにされていたのに、手のひら返しが凄い。
ライとオフィリアだけとしか話したことがないので目を丸くしてしまう。
トライワイトを見ると、まるでよきにはからえと言わんばかりだ。
態度がでかい。
それと同時に気になることがあった。
プルートだ。
今までのように尊大に声をかけることもなく、じっとこちらを見つめてくる。
チェリルがあわあわとしているとライとオフィリアが近づいてきた。
成績首位のライが来たことで、生徒が散ったのをこれ幸いとオフィリアが話しかけてくる。
そしてプルートの視線に気づき「何あれ」首を傾げる。
「いつもならつっかかってくるのに、なんか気持ち悪いのよね」
「そういえばそうね」
「さすがにあれだけ完膚なきまでに負けたあとでなんて、つっかかれないだろ」
「よかったじゃない。嫌がらせ無くなって」
「うん……」
二人の物言いに頷きながらも、そんな殊勝な人間かなあとチェリルは訝し気にプルートをこっそり視界に入れる。
そんなやりとりをしていると、鐘が鳴ったので全員慌てて席についた。
そしておやと目を瞬かせる。
ベヘルマの後ろから女子生徒が入ってきたのだ。
「編入生よ」
ベヘルマの言葉に、トライワイトが肩から机へと飛び降りる。
「クロロさん?」
表での名前を呼びかけるけれど、トライワイトは机の端ギリギリまで行き、じっと編入生を見つめている。
あまり周りに興味を持たないトライワイトにしては珍しい。
首を傾げると、ベヘルマが「紹介するわね」と言ったので、慌てて前を向いた。
華やかな色合いの少女だった。
ピンク色の巻き毛をひとつに束ねていて青い目がくりっとしている、ちょっとぽっちゃりさんだ。
「スレッラ・ムージュさんよ」
「よろしくお願いします」
にっこりと微笑む。
愛想のいい少女だ。
スレッラが教室を見まわすと、青い瞳が何故かバチリとチェリルを捉えた。
何だろうと思っていると、目線が若干ずれている。
チェリルの顔より下だ。
その目はトライワイトを真っ直ぐに見ていた。
知り合いか聞きたかったけれど、すぐに授業が始まってしまう。
黒い毛並みの背中にチェリルは何だかモヤつく気持ちを抑えて、教科書を開いた。
その後、授業が終わり立ちあがったら、いつのまにか目の前にスレッラが立っていた。
声が出そうになったのを、なんとか飲み込む。
いきなり幽霊のように現れないでもらいたい。
「校舎を案内してもらえないかしら」
目が合うなり問答無用で言われてしまった。
にっこりと笑っているのに、有無を言わさない雰囲気にたじろいでしまう。
「えっと……私に? クラス委員とか」
「あなたにお願いしたいのよ」
おっとなかなか強引だと、チェリルが思わず立ち上がっていた体を一歩分後ろに引く。
けれどスレッラはやはりチェリルの顔ではなくトライワイトに視線をやっていた。
ちらりとトライワイトを見れば、黒猫もじっとスレッラを見つめている。
なんだか面白くない。
いや、とても面白くない。
(なんか、ライトに興味持ちすぎじゃない?)
どう見ても猫好きとかそういう類ではない。
トライワイトの反応も、今まで寄ってきた猫好きへの態度と違う。
「ご、ごめんね。私先生に訊きたいことあって」
早口で言うと、チェリルは机に座っていたトライワイトに手を伸ばした。
そのまま抱き込むと、スレッラからは見えなくなる。
露骨だったかなと思いながらも、そそくさとその場を離れるために足を動かした。
ちらっと肩越しに振り返ると、スレッラはじっとこちらを見つめている。
そして身動いたトライワイトもチェリルの腕の中から体を伸ばして、肩口からスレッラを見ていた。
何となく、嫌な感じだなと思う。
予感とか、そういうものだ。
だから、そのあとは二人きりにならないように気をつけた。
ライやオフィリアにくっついていると、声をかけられても当たり障りない態度だけでいい。
スレッラは距離を縮めたいようだったけれど、チェリルは本日逃げ回ったあと自室へと無事に帰還出来た。
「はあ、なんなの、あの編入生」
扉を閉めるなり、大きくため息を吐いてしまう。
知り合いかとトライワイトに口を開こうとしたときだ。
トントンとドアをノックする音が聞こえた。
おもわず、びくりと肩が跳ねる。
「まさかね」
おそるおそるドアの方へ目をやる。
トライワイトは黙ってドアを見ていた。
まるで開くのを待っているように。
その様子がいつもと違っていて、とまどうけれどノックはそのあいだも続いている。
これでは無視も出来ない。
うぅと呻きながら、チェリルはそっとドアを開けた。
そして顔をひきつらせる。
まさかと思いつつもドアを開けた先では、スレッラが静かに立っていた。
思わずチェリルの口角が下がる。
そこには想像通りの人物が立っていたのだから。
扉を開けるのを最小限にしておいてよかったと思う。
今日一日、愛想がいいと思っていたスレッラは、なぜか無表情でそこにいた。
どこか切羽詰まって見える。
「部屋に入れてもらっていいかしら」
「え、いやぁ、初日から距離を縮めすぎじゃないかな、と」
目を泳がせながら遠回しに断ったら、あろうことかスレッラはガッと少しだけ開いているドアを押しやって強行突破に躍り出た。
「うわ! なに!? ちょ、力強っ」
阻止しようとするけれど、スレッラの力が尋常じゃなく強い。
なんでこんなことになっているのだとチェリルが目を白黒させているあいだに、スレッラは強引に部屋へと押し入ってしまった。
ズカズカと部屋へ侵入したスレッラを振り返り、目を丸くする。
スレッラはトライワイトの前に膝をついて、ボロボロと大粒の涙を零していた。
「!? ええ?」
意味がわからない。
何なのだと思っていると、スレッラの前で静かにトライワイトが十九歳の姿になった。
「ライ!?」
思わず内緒の本名で呼んでしまったけれど、それどころではない。
驚愕に目を見開くチェリルをよそに、スレッラはがばりとトライワイトへと抱きついた。
それに思わず、ぐっと喉が絞まった感覚がする。
十九歳のトライワイトに女が抱きついている。
そのことが、チェリル自身も驚くくらいにどす黒い感情が生まれた。
おもわずぎゅっと手を握りこむ。
けれどそんなことはつゆ知らず、完全にトライワイトとスレッラは二人の世界だった。




