↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬しか作れない未熟な魔女は口の悪い黒猫さまに甘やかされる  作者: やらぎはら響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/52

31

 肩から自分の前に下ろし準備万端の状態で。

 その期待した眼差しに、トライワイトは「はあ」とため息をついた。

 そしてチェリルの前に少年が現われる。

 その姿に満足そうにチェリルは笑った。

 ほんの少し心がいつもより弾んだ気がするけれど、それは高揚しているせいだろうと思う。


「勝ったよ」

「おう。作ってるところは見てたけどよ。よくもまあ、あんな勝ち方しやがってと思うわ」

「だって私これしか出来ないもん」


 トライワイトの褒めているのかと言わんばかりの言い草に、けれどチェリルはえへへと照れくさそうに笑う。


「ライトも言ったでしょ。私のなかで師匠の教えが生きてるって」

「そうだな」


 にやりと不敵に笑う傲岸な態度に、けれどトライワイトに向けるチェリルの目は嬉々としている。

 そしてトライワイトの顔を覗き込んだ。


「あのね、私ライトといてちょっとずつだけど自信ついてきてる。褒めてくれたり教えてくれたり。そりゃちょっと厳しいけど」

「俺が教えてんだ。腑抜けた結果出させるかよ」

「私ね、あの日ライト見つけてよかった。一人じゃなくなっただけじゃなくて、こんなに毎日嬉しくて楽しい」


 瞳をしんなりとたわめると、しかしトライワイトは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。

 照れているのだろうかなどと思いながら、少年の前でしゃがみ込む。


「おい」

「頭」


 ここは褒めてもらわねば。

 苦い顔をしたままのトライワイトを見上げて「早く」と言えば、またため息。

 そんなにため息を吐くことがあるだろうかと思っていると、少年らしい手がくしゃくしゃととかき混ぜられる。

 結び目が雑に乱れるのもかまわず、手を離したトライワイトにチェリルは顔を見上げた。


「これ好き」


 すると先ほどよりも苦い表情が浮かぶ。

 何故だろう。


「一応言っとくけどな、俺はお前の保護者として褒めてるわけじゃないからな」

「じゃあ何?」


 聞けば、チッと舌打ちされた。

 やはりプルートと違って不快感はない。

 舌打ちした本人は眉間に皺を寄せている。


「缶よこせ」

「? うん」


 人間になったからかなと思っていたら、トライワイトが飴を三粒口に入れた。

 それに「あっ」と動揺が走る。

 すぐに目の前には十九のトライワイトの姿が現われた。

 途端に頬がじわじわと赤くなっていく。

 トライワイトは眉間に皺をよせると、身を屈めた。

 後頭部に手をまわされ、近い距離に悲鳴が出そうになる。

 崩れ落ちそうだけれど、いつのまにか腰にまわっている手がそれを封じた。

 腰に回っている手は大きい。


「あ、ああの!」


 どもりながら何がおきているんだとパニックを起こしていると。


「よくできました」


 いつもとは違う口調で、いつもよりもなんだか甘い声音が、チェリルの耳朶へと吹き込まれた。

 そしてこめかみにキスをひとつ。

 その瞬間にボンと煙が出そうなほど赤くなったチェリルを、トライワイトはあっけなく開放した。

 もう猫の姿に戻ってしまっている。

 へたりと座り込んでしまい、チェリルはなんかもう涙目だ。


「さ、触るなって言ってたくせにぃ」


 絞り出すように苦情を言ったけれど。


「褒めただけだ」


 しれっと返された。

 ずるい。

 いじわる。

 そんな不満がぐるぐるチェリルのなかで回るけれど、それ以上に恥ずかしいとか、うっかり嬉しいとか思ってしまって忙しない。


(ときめいたりなんか、してないんだからね!)


 悔しまぎれに心中で叫ぶ。

 そして確信した。


「看病下手だったのライトでしょ」


 言えば、嫌そうな顔をされた。

 やっぱりそうだった。


「あのときは、ありがとう。ものすごく下手っぴだったけど」

「十九に戻って抱き上げてやろうか」

「ひぇ! 結構です!」


 意趣返しをしようとしたら返り討ちにあった。

 やっぱりいじわるだと、チェリルはぶすりとむくれたのだった。

 勝利を噛みしめる暇もない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。