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肩から自分の前に下ろし準備万端の状態で。
その期待した眼差しに、トライワイトは「はあ」とため息をついた。
そしてチェリルの前に少年が現われる。
その姿に満足そうにチェリルは笑った。
ほんの少し心がいつもより弾んだ気がするけれど、それは高揚しているせいだろうと思う。
「勝ったよ」
「おう。作ってるところは見てたけどよ。よくもまあ、あんな勝ち方しやがってと思うわ」
「だって私これしか出来ないもん」
トライワイトの褒めているのかと言わんばかりの言い草に、けれどチェリルはえへへと照れくさそうに笑う。
「ライトも言ったでしょ。私のなかで師匠の教えが生きてるって」
「そうだな」
にやりと不敵に笑う傲岸な態度に、けれどトライワイトに向けるチェリルの目は嬉々としている。
そしてトライワイトの顔を覗き込んだ。
「あのね、私ライトといてちょっとずつだけど自信ついてきてる。褒めてくれたり教えてくれたり。そりゃちょっと厳しいけど」
「俺が教えてんだ。腑抜けた結果出させるかよ」
「私ね、あの日ライト見つけてよかった。一人じゃなくなっただけじゃなくて、こんなに毎日嬉しくて楽しい」
瞳をしんなりとたわめると、しかしトライワイトは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。
照れているのだろうかなどと思いながら、少年の前でしゃがみ込む。
「おい」
「頭」
ここは褒めてもらわねば。
苦い顔をしたままのトライワイトを見上げて「早く」と言えば、またため息。
そんなにため息を吐くことがあるだろうかと思っていると、少年らしい手がくしゃくしゃととかき混ぜられる。
結び目が雑に乱れるのもかまわず、手を離したトライワイトにチェリルは顔を見上げた。
「これ好き」
すると先ほどよりも苦い表情が浮かぶ。
何故だろう。
「一応言っとくけどな、俺はお前の保護者として褒めてるわけじゃないからな」
「じゃあ何?」
聞けば、チッと舌打ちされた。
やはりプルートと違って不快感はない。
舌打ちした本人は眉間に皺を寄せている。
「缶よこせ」
「? うん」
人間になったからかなと思っていたら、トライワイトが飴を三粒口に入れた。
それに「あっ」と動揺が走る。
すぐに目の前には十九のトライワイトの姿が現われた。
途端に頬がじわじわと赤くなっていく。
トライワイトは眉間に皺をよせると、身を屈めた。
後頭部に手をまわされ、近い距離に悲鳴が出そうになる。
崩れ落ちそうだけれど、いつのまにか腰にまわっている手がそれを封じた。
腰に回っている手は大きい。
「あ、ああの!」
どもりながら何がおきているんだとパニックを起こしていると。
「よくできました」
いつもとは違う口調で、いつもよりもなんだか甘い声音が、チェリルの耳朶へと吹き込まれた。
そしてこめかみにキスをひとつ。
その瞬間にボンと煙が出そうなほど赤くなったチェリルを、トライワイトはあっけなく開放した。
もう猫の姿に戻ってしまっている。
へたりと座り込んでしまい、チェリルはなんかもう涙目だ。
「さ、触るなって言ってたくせにぃ」
絞り出すように苦情を言ったけれど。
「褒めただけだ」
しれっと返された。
ずるい。
いじわる。
そんな不満がぐるぐるチェリルのなかで回るけれど、それ以上に恥ずかしいとか、うっかり嬉しいとか思ってしまって忙しない。
(ときめいたりなんか、してないんだからね!)
悔しまぎれに心中で叫ぶ。
そして確信した。
「看病下手だったのライトでしょ」
言えば、嫌そうな顔をされた。
やっぱりそうだった。
「あのときは、ありがとう。ものすごく下手っぴだったけど」
「十九に戻って抱き上げてやろうか」
「ひぇ! 結構です!」
意趣返しをしようとしたら返り討ちにあった。
やっぱりいじわるだと、チェリルはぶすりとむくれたのだった。
勝利を噛みしめる暇もない。




