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そしてやってきました対戦実習。
丸い円のなかで膝をつくか、負けを認めるかしたら敗北だ。
誰がどんな方法を使うかの見学も勉強なので、ひとグループごとの対戦だった。
ちなみにライは簡単に相手の魔法を弾き返して、余裕で勝利した。
オフィリアは奇策をしかけて何とか辛くも勝利だ。
チェリルとしては薬を使うつもりなので、他と戦い方が違う。
そのせいで緊張していたけれど、数人は魔道具を使っていたので安堵できた。
そして名前を呼ばれる。
「よし!」
チェリルは気合いを入れるとトライワイトをひと撫でした。
その手が離れたと同時にトライワイトが身軽に肩から降りたので、まっすぐ円の中に入る。
先に入っていたプルートがふんと鼻を鳴らした。
「先に負けを認めて不戦敗しても笑わないでいてやるぞ」
「寝ぼけたこと言ってるんじゃないわ」
「可愛くねー」
「あんたに可愛いなんて思われたくないわ」
「チッ」
プルートが面白くなさそうに舌打ちした。
それに不快感を感じる。
トライワイトもたまに舌を打つけれど、不快感が段違いだ。
というか、トライワイトがしても気にならない。
(こいつだとイラッとするわね)
むしろチェリルが舌打ちしたい気分だ。
「ふん」
顔をツンとそらしてから、教師の合図でお互い距離をあけて向かい合った。
全員の視線が集中するけれど、緊張よりイラつきの方が勝っていて、ある意味リラックス出来ていた。
さりげなく腰のポーチへ手をかけて、いつでも取り出せるように構える。
「はじめ!」
プルートが動くより先に、チェリルはポーチから素早く取り出した試験管を投げつけた。
慌ててプルートが風を起こして阻むように試験管を割る。
試験管が叩き落されたことに勝ち誇った顔をプルートがしたのは一瞬だった。
試験管が割れた頭上から青い粉がプルートに降り注ぐ。
「うわ、なんだこれ!目がかすむ!」
プルートが目をこすりながらチェリルがいたであろう場所に魔法を放つけれど、チェリルはすでにプルートの側面に移動していた。
そして二本目の試験管の中身をプルートにぶちまける。
今度は液体だった。
「なんだ、魔法が打てない!?」
先日作った魔力減少薬だった。
魔法が打てないことに慌てたプルートが、けれどすぐに持ち直して液体のかかってきた方に魔法を放つ。
(やっぱりかけるだけじゃ、一瞬しか効かないわね。でも隙を作るのが目的だから別にいい)
最後の仕上げとばかりに、チェリルはプルートに走りこむと小さな小袋を取り出し投げつけた。
縛られていなかった袋の口から赤い粉が飛び出す。
プルートの顔に小袋の中身が出ると確信してから、チェリルはそちらに背中を向けて目をつむり、口と鼻を手でおおった。
刹那。
「うあああ! ゴホ、目が、ゲホ、ゲホ!」
粉が地面に落ちたであろうタイミングでプルートを振り返ると、喉と目を押さえている。
目元は涙でぐしゃぐしゃだった。
(よし!)
作戦どおりだ。
そのままチェリルはプルートの懐へと走り込んだ。
(魔法が使えなくても)
何を使ってもいいと言われた時点でどう戦うかは決めていた。
チェリルにはこれしかないからだ。
「ようは膝をつかせればいいんでしょ!」
突進したチェリルは痛みで前かがみになっているプルートの肩を掴むと、渾身の力で膝下を蹴りつけた。
痛みに喘いで踏ん張れていないプルートの体がバランスを崩したタイミングで、掴んだ肩を前へと引きずり倒す。
おぼつかない体勢になったプルートは、そのまま抵抗もできずに膝をついた。
周りがシン、と静まり返る。
そのなかで、全力ダッシュしたチェリルが肩で息をしながら教師を見た。
「せ、せんせい、判定は?」
ぜえはあしながら問いかける、我に返ったような顔で教師が手を上げた。
「勝者はバッカニアさん!」
その瞬間、わあっと歓声が上がった。
実技はまるで駄目の落ちこぼれと思われているチェリルが勝ったのだから、驚きでいっぱいなのだろう。
「おっまえ、あんな薬の使い方あるか?」
「えげつないわねー」
ライが微妙な表情で近づいてきた。
オフィリアはケラケラ笑っている。
教師は採点を書き記しているらしきバインダーにペンを走らせながら、チェリルを見やった。
「実践魔法が苦手ななか、自分の得意分野でよくがんばりました」
評価は上々だ。
にまりと笑っていると、落ち着いたらしいプルートがのろのろと立ちあがって生徒たちの方へ来た。
もちろんチェリルもいる。
目があうと、プルートが呆然とした顔でチェリルへと一歩踏み出した。
「馬鹿にしてた奴に負けた気分はどう?」
「お、おれは」
「あんたは馬鹿にした私の師匠の知識に負けたのよ」
これだけは言っておかなければと、ぴしゃりと言い切った。
その断ち切るような言い方に、プルートは一瞬ぐっと喉を詰まらせた。
「俺は、ただ……」
「何よ」
「……ッ」
何も言おうとしないプルートに痺れを切らしていると、トンとトライワイトが肩へと乗ってきた。
尻尾がするりと首を撫でるのに、にんまりする。
「勝ったよ」
すり、と頬をその黒い毛並みにすりつけると、ほんの少しだけトライワイトも頬にすりついてくれた。
彼なりのご褒美らしい。
しかしご褒美は他にも欲しい。
そんなわけで授業が終わり自室に戻ると、ドアを閉めるなりチェリルはうずうずと期待した目でトライワイトを見た。




